台湾で最大級となる640MWの洋上風力発電所の開発・運営に参画
プロジェクトで得た知見と経験を洋上風力発電事業に生かす
2025年11月28日
2025年11月28日
洋上風力発電は、発電能力の規模や安定性から、再生可能エネルギーの中でも大きな可能性を秘めています。2000年代初頭から欧州各国が実証・導入を開始した後、世界的に導入が加速し、洋上風力発電の累積導入容量は2008年の1.2GWから、毎年約9.0GWの水準で増加し、2024年には83.2GWになっています。(*1)一方で、プロジェクトの大型化に伴うサプライチェーンの逼迫や建設における技術的な難易度の高さ、近年の経済情勢の激変に伴う建設コストの高騰といった課題が生じています。
(*1) 出典:洋上風力発電の動向2025(自然エネルギー財団)
アジア地域に目を向けると、台湾がアジア諸国の中でもいち早く洋上風力発電の導入目標を設定していました。台湾は、国内のエネルギー資源が乏しく、石油、天然ガス、石炭などの一次エネルギーの大半を輸入に依存しており、脱原子力を進める中で洋上風力発電が安定的な電力供給を実現するための柱として位置づけられています。しかし、台湾は欧州とは異なり、台風などの厳しい気象条件で洋上での建設工事の施工時期が限られる、既存データが少ないため海域の基礎工事の難易度が高いなど、地域の特性から様々な制限・調整が求められる場所でもありました。
双日は、2017年にアイルランドへの陸上風力事業に参画、その後、洋上風力案件への進出を模索する中で、欧州に続く市場として、当時発電導入数値目標の設定や法規制の整備などを開始していた台湾に注目しました。現地調査を進めていく中で、台湾の洋上風力発電事業の系統使用権と台湾電力公司への売電契約締結の権利を確保し、同国での洋上風力発電所開発を開始していたドイツの再生可能エネルギー開発業者であるwpd AG(現 Skyborn Renewables /以下、wpd)とのコンタクトを開始しました。
双日は在ドイツのwpd本社へ何度も足を運び、丁寧なコミュニケーションを重ねてパートナーとしての信頼関係を築きました。また、台湾現地での積極的な情報収集・営業活動を展開し、事業を深く理解した適切な価格を提示したことがwpdからの評価・信頼につながり、洋上風力発電所の開発・運営への参画が決まりました。
洋上風力発電所の建設工事では、海上で大型風車の基礎工事や据え付けを実施する際に必要な作業船の傭船が最も重要な要素の一つです。ところが、当初予定していた作業船が別プロジェクトの建設時に破損してしまい使用できなくなったことから始まり、作業員の新型コロナウィルス罹患や工事を請け負う建設会社の交代など、工事に関連するトラブルが相次ぎました。また、2020年に発生した新型コロナウィルスによる行動制限も、建設工事を一層困難なものにすることとなりました。
そのような環境下、プロジェクトを推進させるために双日は新しい作業船を探し、最終的に傭船したのは欧州での過去の取り組みで関係を構築していた清水建設株式会社(以下、清水建設)が保有する世界最大級のSEP(Self-Elevating Platform)船「Blue Wind」でした。
通常、洋上風力発電所の建設工事では、基礎工事や風車据え付けなど、工程ごとに異なる作業船が必要ですが、清水建設のBlue Windはこれら工程を一隻で対応可能です。また、世界最大級の搭載能力を有するため一度に大量の資材運搬が可能となり、工期を大幅に短縮できます。クレーンは最大2,500トンの揚重能力を持ち、最高揚重高さは158メートルと世界最大級の性能を誇ります。さらに、SEP船による工事や資材の積み込み、ジャッキアップなどの運航計画の実績を持つ企業の協力を得ることで、一体的にエンジニアリングし、合理的な全体計画を立てることができます。加えてBlue Windは自航式のSEP船のため、曳航する船が不要でスピーディーな施工が可能です。Blue Windを使うことができたことで、建設工事は一気に進み、2025年1月、洋上風力発電所の商業運転が開始しました。
このような様々な困難を乗り越えて事業を進める原動力となったのは、台湾における洋上風力発電事業に携わる企業として果たすべき社会的意義の大きさです。双日は、前身の日商岩井、さらに前身の鈴木商店の頃から130年近い台湾との関係があり、台湾政府からの信頼に応えるという強い使命感がありました。台湾初となる洋上風力発電が地域やステークホルダーに与えるインパクトが大きいことを強く認識し、事業が抱える課題をひとつひとつ粘り強く解決し、一歩ずつ前に進んでいきました。
このような形で、最後まで責任を持ってプロジェクトを完遂する姿勢のもと、困難な局面でもパートナーと誠実に率直に議論を重ねて、課題を解決してきた経験を生かしながら、双日は、今後も事業に取り組んでいきます。
参画当初は全く予想もしていなかった外的要因による困難に見舞われた建設工事は約5年にわたる工期を経て完遂し、商業運転を開始できたことで、洋上風力事業について多くの学びを得ることができました。
欧州や米国では海洋空間計画が法制度として整備されており、洋上風力発電に適した海域が決まっているため、既存のデータも豊富で開発に関するルールも定められています。それに対して、台湾や日本などアジア地域では、欧州のような統合的な整備ができておらず、海底の地形や自然環境も含めた建設リスクの見極めが不可欠です。地方自治体や漁協などステークホルダーとの対話を重ねた上で、地域にしっかりと根づいた事業計画を立てていくことも重要になり、同じ洋上風力発電事業でも、各国の特性にあわせたアプローチが必要だと強く認識しています。
双日は、本事業を通して得た知見・経験をもとに、今後、欧州地域、アジア地域を中心とした洋上風力発電事業開発に取り組んでいく考えです。


