インドとインドネシアで取り組む鉄道建設事業
鉄道車両輸出からつながる鉄道EPC事業を展開
2025年9月8日
2025年9月8日
インドやインドネシアなどの新興国では、急速な経済成長に伴い、輸送の大容量化や高速化、そして安全強化など、交通インフラの整備・改善が大きな課題となっています。1950年代から海外向けの鉄道車両輸出に携わってきた双日は、車両関連システムや部品のトレーディングなど総合力を生かした鉄道EPC(設計・調達・建設)事業を展開しています。現在、取り組んでいるのがインドのデリー~ムンバイ間貨物専用鉄道プロジェクト、同ムンバイ~アーメダバート間高速鉄道プロジェクト、インドネシアのジャカルタ都市高速鉄道建設プロジェクト(第2期)の3事業です。国家プロジェクトともいえる大規模な交通インフラ整備に取り組む双日の鉄道EPC事業について、その全容をご紹介します。
双日の鉄道事業の歴史は古く、1956年には前身の日商による戦後初の鉄道車両輸出をアルゼンチン向けに成約しました。1964年に東海道新幹線(東京-新大阪間)が開通すると、日本の鉄道技術が海外で評価され、日商はアフリカ諸国や新興国向けの輸出を次々と実現しました。その後、日商岩井は、当初、実現不可能といわれていた鉄道先進国の米国に対しても、1970年代末から80年代初頭にかけて、フィラデルフィアの路面電車やニューヨークの地下鉄向け車両などの納入をしてきました。
時代の変遷とともに、鉄道車両メーカーは車両、電機メーカーも変圧器などの電化設備を直接輸出するようになっていきました。そうした中で、双日は若年層を中心に人口が拡大し、経済成長が著しいアジア地域に焦点をあて、鉄道車両輸出の知見を生かしながら車両関連システムや部品の輸出のみならず、貨物専用線や車両基地の建設、高速鉄道や都市鉄道まで総合的な鉄道EPC事業に取り組んでいます。EPC事業とはEngineering(設計)、Procurement(調達)、Construction(建設)の3つからなる大型建設事業のことで、現在、インドのデリー~ムンバイ間の貨物専用鉄道とムンバイ~アーメダバード間の高速鉄道建設、インドネシアのジャカルタ都市高速鉄道建設(第2期)の3つのプロジェクトを進めています。
インドの鉄道は総延長13.5万km(2024年3月現在、*1)と日本の鉄道の約5倍(2022年現在、*2)の規模を誇り、管轄するインド鉄道省は従業員140万人を擁する巨大組織です。急速な経済成長に伴い、貨物輸送量は年10%以上も増加し、貨物鉄道の輸送能力は限界に近づいていました。さらに、貨物列車は鉄道輸送における優先順位が最も低く、同じ軌道を利用している旅客列車を優先させることで、輸送に時間がかかることも問題となっていました。
貨物鉄道のこうした状況を改善するため、インド政府はデリー・ムンバイ・チェンナイ・コルカタの4大都市を結ぶ世界最大級の5つの貨物専用鉄道(Dedicated Freight Corridor、以下DFC)を建設し、貨物輸送の大容量化・高速化を図ろうとしています。そのひとつが円借款で建設が進められているデリー~ムンバイ間のDFC西線1,500kmです。日本の東京駅~鹿児島中央駅間とほぼ同じ距離に貨物専用の鉄道を建設し、2段積みのコンテナ列車を最大速度約100km/hで走らせようという計画です。
(*1)出典:INDIAN RAILWAYS YEAR BOOK 2023-24(インド鉄道省)
(*2)出典:鉄道統計年報[令和4年度](国土交通省)
また、双日は円借款によるインド西岸マハラシュトラ州ムンバイ~グジャラート州アーメダバード間(508km)のインド初の高速鉄道建設プロジェクトにおいて、2022年12月に総合車両基地整備工事、2024年1月に電力工事、の其々をL&Tと共同で受注しています。東海道新幹線の東京駅~京都駅間とほぼ同じ距離であるこの鉄道が完成することによって、在来線特急で約7時間かかる同区間が約2時間に短縮できる見込みです。すでに土木・軌道工事が進められており、車両基地は掘削工事を開始、電力工事は本格的な施工に向けた調達・設計の詳細協議と基礎工事を進めています。
さらに、2024年4月にインドネシアのジャカルタ都市高速鉄道建設プロジェクト第2期として、地下鉄南北線のジャカルタ中心部のブンダランHI駅からコタ駅間(約5.8km)の延伸工事の鉄道システム一式・軌道工事を単独主契約受注しました。急速な経済成長を続けるインドネシアでは、ジャカルタの慢性的な交通渋滞や大気汚染が深刻化しており、地下鉄がその解決に寄与することが期待されています。
双日は1950年代にインド国鉄から電化工事を受注して以来、多くの納入実績をもちます。DFC西線建設では、インド最大のゼネコン兼総合エンジニアリング会社であるL&Tとコンソーシアムを組んで入札に参加しました。そのなかで、2013年から軌道工事パッケージなど6つの契約(*3)を獲得。これは、総受注金額が3,500億円超と日本企業1社が海外で参画する鉄道案件として最大級のものです。しかし、このプロジェクト発注者であるDFCCIL(インド鉄道省傘下貨物鉄道公社)からは、難易度の高い要求を受けることが多々ありました。さらに複雑かつ多層の承認プロセス、土地収用の遅れ、現地税制・法令の変更、残置物撤去の遅れなど、工事の進捗に影響を与える事象が多く発生するなど困難を極めました。
これに対し、双日は総合商社としての知見と総合力、およびL&Tとのパートナーシップを生かして、国際協力機構(JICA)や日本大使館、日本の各メーカー、インド政府との連携・協力のもと、問題解決に取り組んできました。その結果、現在全路線の90%近くが開通し、順次貨物列車の運行が始まっています。
こうした経験を踏まえ、高速鉄道建設プロジェクトにおいては設計フェーズから、事前に各種リスクの洗い出しなどをしっかり行い、着工後のトラブルを防いで、工事が遅れないよう工夫しています。一方、双日の単独主契約であるジャカルタ都市高速鉄道建設プロジェクトでは、インドでの経験も活用しつつ、双日インドネシア会社の現地ネットワークも活用し案件を履行しています。
双日はその国や地域のニーズがどこにあるかに常に着目し、拡張性と再現性を重視して鉄道EPC事業に取り組んでいます。拡張性とは、案件を受注することで、そのプロジェクトの中での繋がりを活かして次の案件を獲得できる見通しを立てること。再現性とは、同じパートナーと同じフォーマットでひとつの国の異なる案件、あるいは違う国の同様の案件を獲得していくことに繋げることを意識しています。
(*3)軌道工事パッケージ2件、電化パッケージ、信号・通信パッケージ、軌道・電化・信号・通信統合パッケージ、DFC西線工事の合計6件