鉄道の夢はつづく、どこまでも。
生田目誠也/航空・社会インフラ本部 社会インフラ事業部 交通事業第1課
(インド アーメダバード駐在)
2024.11.08
私は、子どもの頃から乗り物が大好きでした。機械の塊がスピードを出して走る姿に大きな好奇心を抱いていたのだと思います。モノづくりも好きだったので、自分でも段ボールで電車や船や飛行機をつくったりしていました。その後、私が大学、大学院を通して専攻したのが、輸送機器工学でした。輸送機器工学とは、電車、自動車、船、航空機の4つの輸送機器の仕組みを知る学問です。それぞれの輸送機器の利用環境を始め、動力システムや制御システム、効率的な輸送機形状やその運行方法といったことを網羅的に学びました。研究室に入ってからは、輸送機器が動く時の空気や水の流れについて専門的に研究しました。
そんな私が総合商社である双日を志望した理由は、チームが一丸となって新たなビジネスづくりにチャレンジする姿に惹かれたこと。そして、そのゴールを目指す中で自ら方針や計画を立て、実行にまで入り込むオーナーシップに感動し、自分もそんな働き方をしたいと考えていたからです。また、学生時代にカナダのトロントに留学したこともあり、海外で仕事をすることにも大きな興味を持っていたことも理由の一つです。
私は、双日に内定をもらった後も、鉄道EPC(*1) 事業に興味を持っていることを人事担当者に伝えていました。入社後は、現在の航空・社会インフラ本部の企画業務室に配属され、本部内の計数管理や戦略策定支援などを通して、数々のビジネスの仕組みを俯瞰的に学びました。その後、インドでの高速鉄道建設プロジェクトに日本側の主担当として携わり、ついに入社4年目の2024年、本プロジェクトのためにインドのアーメダバードにトレーニー (*2) として赴任することになったのです。私の夢の実現への第一歩が始まりました。
(*1)EPC・・・Engineering(設計)、Procurement(調達)、Construction(建設)の3フェーズから構成される大型建設事業
(*2)トレーニー制度に関する詳細はこちら: 人的資本経営|Sojitz ESG BOOK|サステナビリティ|双日株式会社
インドでは、急速な人口増加や経済発展により、慢性的な交通渋滞や大気汚染が深刻な社会問題となっています。それらの問題を解決するために、日本の新幹線システムをベースとした高速鉄道が検討されてきました。そして、日本国の円借款供与のもとインド高速鉄道公社(National High Speed Rail Corporation Limited)によって、ムンバイからアーメダバードまでの約508kmの区間に高速鉄道が建設されることになり、その車両基地建設工事と電力工事を、双日がパートナー企業であるLarsen & Toubro Limited(ラーセン アンド トゥーブロ リミテッド)とともに受注しました。この区間は、今まで在来線では移動に約7時間かかっていましたが、高速鉄道が開通すれば約2時間に短縮されます。
アーメダバードは、今インドでももっとも活気のある都市のひとつで、街中では商業施設やマンションがいくつも開発されており、郊外では多くの日系企業が拠点開発や工場建設などを進めています。この高速鉄道建設プロジェクトはインドでは誰もが知る意義のあるプロジェクトで、国民からの期待も大きく、私は絶対に成功させたいという思いで取り組み始めました。
プロジェクトは、まず現場をいくつかの区間に分けて設計作業を開始し、設計が完了すると土木基礎や構造物の工事が開始されます。これと並行して資機材・設備の設計、製作、出荷も進められ、様々な事象が同時並行で進捗します。また、このプロジェクトには日本・インド両国政府、顧客やコンサル、パートナー企業、ゼネコン、メーカーなどたくさんの関係者がおり、それぞれとの接点がものすごく多いんです。私の役割をひとことで言うとしたら、プロジェクトを前に進める潤滑剤のようなものだと考えています。 具体的な役割としては大きく4つありまして、まず、1つ目がパートナー企業とプロジェクトに関する各種方針の協議をすることで、2つ目が各社との商務協議、契約交渉及び締結です。3つ目が、問題解決。やはり、トラブルシューティングっていうのはプロジェクトを前に進める上ですごく大事で、 社外のさまざまな関係者だけでなく、社内関係者や上司も巻き込んで、解決のために奔走しています。4つ目が、インド高速鉄道公社やパートナー企業との技術協議の場で、日本の新幹線などの技術をインド側に正しく伝える役割も担っています。
日本とインドの商習慣や仕事の進め方にギャップを感じることがよくあります。日本人は計画性をもっとも重視して、物事を事前に決めた上で進めていきますが、インドの人はとにかく前に進めながら修正を繰り返して成果物を完成させるといった進め方をします。どちらにもいい面も悪い面もあるのですが、これを理由にお互いに不信感を抱いてしまうことや、ちょっとした対立や言い争いが起こり、プロジェクトが進まなくなってしまうこともあるんですね。そうした時に大事なのは、やはり、対話することに尽きます。日本でも本件に携わってきた経験を活かして、現場では日本の仕事の進め方、計画性の大切さを対面で誠実に伝えるようにしています。また、時にはインド側の生の声を日本側にフィードバックするなどお互いに前に進められる方法を探ります。現場にいるからこそ、自分よりはるかに知識も経験もあるパートナーの現場監督やプロジェクトマネージャーと何度も会話を重ね、最終的には同じ目線に立って、さまざまな手段の中からベストな解決策を見つけるようにしています。
以前、パートナー企業の方から「生田目さんは、3人分くらい働いているね」と言われたとことがあります。それは、時間的な話ではなく、私が契約から技術協議や関係者との交渉や調整までさまざまな分野の仕事をしているという意味なのですが、それがとてもうれしかったのを覚えています。インドは縦割り社会でそれぞれの役割がはっきり分かれているので、私のように多岐にわたる業務をひとりで進めていることが特殊なことに見えたのでしょう。そんな風に多くの関係者と一緒になって仕事を進めながら、一生懸命に働く姿を見てもらうことで、私はインドの関係者との信頼関係を一つひとつ築いています。
まずは、インド高速鉄道建設プロジェクトを無事完工させて、高速鉄道を運行させることですが、私の夢はその先に広がっています。鉄道の運行開始後、移動手段という価値が生活者に届くまでのバリューチェーンにも関わっていきたいと思います。例えば、双日がすでに手がける車両のメンテナンス事業を含めた運行を支える事業や、車両の運行そのもの、移動の利便性を高めるサービスなどにも興味があります。また、駅舎から発展して、その先の交通手段や駅を基点とした地域の開発などにもチャレンジできる日が来ると、とてもうれしく思います。
そして、私の夢は、もちろんインドに留まりません。新しい交通手段が切に求められている国があるなら、どこへでも飛んで行きたいと思っています。何もないところに、新しい交通手段を提供する。そこに私は、いちばんのロマンを感じます。