工場をつくる。工場をつかう。
桒原翔吾/経営企画部戦略企画課
(Japan Vietnam Livestock Co., Ltd.出向)
2025.05.27

大学時代の私は体育会の部活に明け暮れる毎日で、就職活動がはじまった後も、自分のやりたいことが見つからない状況でした。悩んだ末、短期間ではやりたいことは見つからないだろうと開き直り、自分にやりたいことが見つからないのであれば、自分がやらなければいけないことを探そうと考えるようになりました。それまでの自分を振り返ると、大学に入り、何不自由なく勉強して、好きなスポーツに没頭していた一方、水や電気、交通などの社会インフラが整っていない途上国にはそれができない人がたくさんいます。好きなことができる環境で育った私がやらなければいけないことは、そうでない人たちが好きなことができるようになる環境を作ることだという結論に至りました。そこで私は、途上国の社会インフラ整備に関わり、人々のクオリティ・オブ・ライフの向上、夢や目標の実現に貢献したいと考えるようになりました。そして、就職活動をしていた時に、まさに自分が思い描く途上国でのインフラ事業に双日が取り組んでいることを知り、双日を志望しました。
2016年に入社後、私は海外トレーニーを含む幾つかの部署を経験した後に、2020年、グループ会社である双日マシナリーに出向しました。双日マシナリーは産業機械の専門商社で、私が配属されたのは食品機械課でした。そこは、主にヨーロッパから食品機械を輸入し日本国内に販売する部署で、私は北海道を中心とした食品会社向け輸入販売を担当しました。
通常、海外の機械を輸入すると、現地から技術者が派遣され、組み立て指導から運転開始までのすべての作業をメーカーに任せられるのですが、当時はちょうどコロナ禍でそうはいきませんでした。私が北海道の工場へ直接出向いて、機械の組み立て指導から、オペレーションの初期設定、オペレーターへの説明など、すべてを行なう必要がありました。私は元々文系でしたので、機械についてはわからないことばかりでしたが、図面を必死で読み込んだり、トラブル発生時には機械の中の配線一本一本を確認したりすることで、機械の使い方だけでなく、機械の中身まで学ぶことができました。当時を振り返ると、商社の営業担当者と言うよりも、メーカーのセールスエンジニアのようだったと思います。
その頃、双日本社では、肥育から加工・販売まで一貫体制で行う、東南アジア最大級の牛肉加工工場をベトナムで立ち上げる計画が持ち上がっていました。プロジェクト内でと畜や肉の加工を行う機械を選ぶ段階で、「双日マシナリーにヨーロッパから食品機械を輸入して、北海道で販売している面白い社員がいるぞ」と言う話が同プロジェクトメンバーの耳に入り、私に声がかかりました。その後、私は、双日マシナリーの業務を続けながら、牛食肉加工機メーカーとの折衝、ベトナムのプロジェクトメンバーへの牛肉加工の技術や機械に関するリサーチ結果の報告など、新規事業の業務も行ってきました。そして、2021年秋にベトナム側から「現地に来て工場建設を手伝えないか」と提案をいただき、2022年春についにベトナムへと向かうことになったのです。
まず、ベトナムでの最初のミッションが、建設会社と工場建設契約を締結することでした。契約書作成は、かつての部署でも何度も経験していましたが、やはり一つの工場を建設するとなると、契約書の分厚さと複雑さは想像以上でした。とにかく頭に一語一句をたたき込むように、どんな時も契約書を読み続けました。そして、上司であるプロジェクトマネージャーやパートナー企業との綿密な壁打ち、および建設会社との数え切れない数の交渉を経て、双日・パートナー企業どちらも納得した内容で建設会社との契約締結にこぎつけました。当時はとにかくプロジェクトメンバーのスピードに付いていくのに必死でした。今、振り返ると、「根性」でしか成し得なかった業務だったと思います。
2つ目のミッションが、契約履行です。無事契約を結ぶことはできたのですが、その後の実行の段階でさまざまな問題が発生しました。設計、許認可、機器輸入、水や電気の引き込みから諸々の社内手続きまで、約2年間の建設期間の中で問題が起きずにスムーズに進んだものはありませんでした。いかなる問題を解決するにも、パートナー企業と二人三脚でチーム一丸となって対応する必要があり、そのために各種課題についてパートナー企業に丁寧に説明を行い、一つ一つ合意を得ていくというプロセスを何度も繰り返しました。それまでの私の機械関係のビジネスでは、パートナー企業と一緒にプロジェクトを進めるという経験があまりありませんでした。目の前の課題の解決のために、パートナー企業の同意をどのように得るか、また、彼らと一緒にどのようにプロジェクトを進めていくか、という思考をベトナムに赴任して身につけることができました。パートナー企業の考えを深く理解し、互いにサポートし合うことで、最良の解決策を導き出すということを学んだことが、大きな収穫になりました。
そして、3つ目のミッションが、生産です。私は赴任から約3年間、設計、調達、建設部隊のマネージャーをつとめましたが、2024年12月の工場の稼働開始のタイミングで急遽、と畜脱骨解体部隊のマネージャーになりました。自分たちでつくった工場を、自分でつかうことになったのです。今まで私はモノづくり、特に食品の生産には全く関わったことがなかったので、と畜脱骨解体部隊のマネージャーになった時には、「何十人ものチームを率いて、生産ラインの内外で正しい判断を下していけるだろうか」「東南アジア最大級の牛肉加工工場での生産を、私が担っていけるのだろうか」と、今までにないプレッシャーを感じました。今もなおプレッシャーは感じていますが、この工場をつくったのはプロジェクトマネージャーと私で、誰よりもこの工場のことを理解しているという自負があります。毎日一生懸命加工に励んでくれている工場のオペレーターたちもサポートしてくれています。また、机上の空論ではなく、現場を深く知る、経験することが一番大切だということも、これまでの業務を通して実感しています。実際に自分で生産ラインに入って、工場のオペレーターとともにと畜、脱骨解体の作業をしてみると、今まで気づかなかった改善点が見えてきます。機器の高さやスイッチの位置が適切かどうか、オペレーターの導線が合理的かどうか、自分が指示した内容が現実的にフォロー可能なのかどうかなど、数えきれない気づきがあります。ただ指示を出すだけでなく、現場に深く入り込んでとにかく自分でやってみることで、より安心安全な製品をつくることができるチーム、工場をつくっています。
工場の稼働開始から、もうすぐ半年になります。これまでの私の仕事を振り返ると、困難な壁に直面することばかりでしたが、その度に普通では得られないものをたくさん得てきたと思います。それは、スキルであったり、自信であったり、根性であったり、勇気であったり、いろいろな言い方ができるのですが、それらをもたらす幾つもの成功体験も積ませてもらいました。自分にしかできないと言えることも少しずつできてきて、それが自分の成長してきた証なんじゃないかなと思っています。また、ベトナムの増え続ける牛肉需要に応えること、おいしく安心安全な牛肉の提供によって暮らしを豊かにしていることに、私は誇りを感じています。
この工場が東南アジアでナンバーワンの牛肉加工工場になること、そしてそうあり続けることです。今後、競合企業がたくさん出てくるかもしれませんが、ナンバーワンの工場になるため、そうあり続けるために、私は成長を止めないチームを作り続けていきたいです。そのためには、まずは安全面や衛生面の基本動作を当たり前のこととしてチームに落とし込むこと、つねに自分たちがやっていることが正しいかを俯瞰から見つめること、そして場合によっては今までのやり方を柔軟に変えていくことも必要になってくると思っています。
私はベトナムの工場建設と生産運営で、1から何かをつくり出すことの苦労とよろこびを知りました。ここで得た経験をもとに、いつかは、自分でプロジェクトの種を見出し、それを1から育て、事業として開花させたいと思います。まったく知らない分野であっても、業界に深く入り込み、身をもって経験する。そして、自分の中に一つひとつ知識を蓄えていき、パートナーや上司・同僚と協働しながら、壁を乗り越えていく。そうすることで、必ずその道のプロになり、事業を成功に導いていけると信じています。そして、どんな国、どんな場所にいても「桒原がいてよかった」と言われるような人間でありたいと思います。