水資源
方針・基本的な考え方
水は人間活動および企業活動を支える欠かせない資源ですが、地球上の水資源の大半は塩水であり、私たち人間が利用できる淡水はごくわずかにとどまります。そのため、人口増加に伴う渇水や利用可能な淡水の取り合いが進むなど、世界的に水資源問題が発生しています。加えて、水資源は国や地域によって偏在性があります。
更に、気候変動による降雨パターンの変化といった『物理的リスク』の顕在化によって、市民社会や企業に与える影響も今後、一層甚大化することが予想されています。
この為、世界の様々な国と地域で事業を展開する双日グループにとって、水資源の確保および持続可能な利用は重要であり、双日が定めるサステナビリティ重要課題(マテリアリティ)において、水資源を含む『持続可能な資源の開発・供給・利用』を掲げるとともに、双日グループ環境方針では、水の節減をはじめとした省資源およびリサイクルに取り組むことを掲げています。
これらの方針に基づき、水使用量削減の取り組みを実施するとともに、水に関するリスクが当社の事業に与える影響を定期的に確認しています。また、事業を通じた水に関する社会課題の解決を目指します。
目標
当社は、気候変動の抑制に向けた新たな規制などの「移行リスク」に加え、気候変動が抑制できず温暖化が進行した場合の「物理的リスク」についても対応を図ることとしており、まずは、資産に対する洪水や干ばつなど主に「水」に関する物理的リスクに着目し、精査を行っています。
「物理的リスク」への対応として、当社事業への財務影響の把握・測定を進めていきます。また、当社が掲げるサステナビリティ重要課題(マテリアリティ)の内、「資源」の目標として、水資源の需要拡大が想定される新興国を中心に、生活水を安定供給する事業の組成・拡充を目指すことを掲げています。
体制
体制
水資源を含む環境への対応については、CEOが委員長を務める『サステナビリティ委員会』にて討議し、経営会議、及び取締役会に報告の上、取締役会より監督・指示を受けています。
また、事業投融資の審議にあたっては、水資源を含む、各種環境・社会リスクについての分析・評価も行った上で、サステナビリティの観点からの当該案件の推進意義を確認し、投資の実行を決議しています。
上記をサポートする専任組織として、サステナビリティ推進室を設置しており、サステナビリティ委員会の指示事項を遂行するとともに、投融資審議会の審議案件について、水資源を含むサステナビリティの観点からの確認を行っています。
サステナビリティ委員会
サステナビリティ委員会では、サステナビリティに関する全社方針や目標の策定、それらを実践するための体制の構築・整備、及びISO14001の管理体制を活用した各種施策のモニタリングを行っています。
サステナビリティ委員会メンバー(2023年6月20日現在)
**代表取締役
*取締役
委員長 |
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委員 |
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オブザーバー |
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事務局 |
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リスク管理
既存事業
双日は、世界資源研究所(World Resources Institute)が提供する水リスクの分析ツール『Aqueduct』を用い、資産に対する洪水や干ばつなど、『水』に関するリスクに着目し精査を行っています。
新規事業
新規事業投融資の審議にあたっては、申請部署に『環境・社会リスクチェックシート』の作成を義務付けています。申請部署は、『環境・社会リスクチェックシート』を活用して、土壌・地下水汚染や水質汚濁の可能性、水ストレス地域の水資源に及ぼす影響、先住民に与える影響などの各種リスクについて、必要なデューデリジェンスを行い、対策に漏れが無いように確認を行っています。
取り組み
水リスク調査の実施
水は企業の活動において欠かすことができない自然資源です。水は偏在しており、水が多すぎる、または少なすぎることで、事業活動やサプライチェーン上で影響を受ける可能性があり、具体的には「人口増加による淡水の取り合いリスク」、「物理的リスク」があります。
①人口増加による淡水の取り合いリスク:
人口増加によって水需要が高まることに伴う渇水が発生した場合、淡水を確保できないことによる操業停止など
②物理的リスク:
気候変動による異常気象の頻発に伴う洪水や干ばつなど
当社は、事業への影響を広く確認するため、世界資源研究所(World Resources Institute)が提供する水リスクの分析ツール『Aqueduct』を用いて、定期的に水リスク調査を実施しています。
淡水の取り合いへの対応
手法
①リスクの洗い出し:
双日グループ全体の水使用量の99%以上を網羅する上位グループ会社に対し、事業セクター固有のリスク、及び所在地に応じたリスク
(『Aqueduct』上の項目『水ストレス』、『水不足』、『年間変動』、『季節変動』など)を総合的に評価。
②洗い出したリスクへの対応:
抽出したリスクに関連するグループ会社に、対応状況を個別にヒアリング。
結果
グループ会社の事業現場での対策や、万が一懸念されるリスクが顕在化した際の対応と本社への報告体制などについて、問題がないことを確認しています。
尚、当社が操業を行う豪州の炭鉱の一部が『Aqueduct』の水ストレス地域に指定されていますが、他事業よりも工業用水の優先供給が保証されているため、当該水リスクが顕在化することは想定しておりません。
事業セクター固有のリスク○:懸念事項なし △:一部懸念事項あり○:懸念事項なし △:一部懸念事項あり
懸念リスクの有無と対応状況 | |||||||||
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農業 | 製紙 パルプ |
化学 工業 |
鉱山 | 食品 飲料 |
繊維 | 発電 | 金属 | 石油 精製 |
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排水規制 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | 今回の調査対象会社において 該当なし |
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綺麗な淡水の確保 | △(一部グループ会社に取水制限) | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |||
対応状況 | 水リサイクルなど 節水活動を実施 |
ー |
所在地に応じたリスク○:懸念事項なし △:一部懸念事項あり○:懸念事項なし △:一部懸念事項あり
懸念リスクの 有無 |
対応状況 | ||||||||
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水ストレス、水不足 | ○ | ー | |||||||
年間変動 | △ | 過去に洪水被害あり。排水や河川のモニタリングを実施。 | |||||||
季節変動 | △ | 過去に洪水被害あり。事業地周辺に堤防を設置。 | |||||||
河川洪水 | ○ | ー | |||||||
海岸洪水 | △ | 一部の事業所が高潮浸水想定区域に所在。影響度を継続して確認。 | |||||||
干ばつ | ○ | ー |
物理的リスクへの対応
手法
リスクの洗い出し:
喫緊の課題である『急性の物理的リスク』の内、特に投資家から関心が高い洪水に着目し、4℃シナリオ(RCP8.5)等を参照している水リスクの分析ツール『Aqueduct』を用いて、工場などグループ会社の拠点における河岸洪水・海岸洪水リスクを確認。
結果
東南アジア地域を中心に、一部の事業拠点における河岸洪水・海岸洪水リスクが高いことを確認しました。
<財務影響のある資産(有形固定資産)の額> 約310億円
※ 『Aqueduct』の評価において「Extremely High」 「High」に立地する拠点の22/3月末有形固定資産額(リース資産は除く)。
水ストレス地域での取り組み
淡水化事業への参画
当社は、水ストレス地域であるアラブ首長国連邦アブダビ首長国において、天然ガス火力発電・淡水化事業へ参画しました。
2021年5月にミルファ天然ガス火力発電・淡水化事業を運営する同国法人ミルファ・インターナショナル・パワー・アンド・ウォーター社(Mirfa International Power and Water Company)の株式20%を取得しました。ドバイ首長国金融大手シュア・キャピタル(SHUAA Capital)が保有する本事業の全株式を買収し、既存株主のアブダビに本社を置く、欧州・中東・アフリカ地域最大級の総合エネルギー会社であるAbu Dhabi National Energy Company PJSC(TAQA)と世界各国で大型IPP/IWPP事業の開発・運営実績を多数有するフランスの大手エネルギー会社Engieと共に事業運営を開始します。
本事業は出力1,600MWの天然ガス火力発電設備および日量52.5百万英ガロンの淡水化設備を保有・運営し、エミレーツ水電力公社(Emirates Water and Electricity Company)に対し残存契約期間約22年の長期契約に基づき売電および売水を行うものです。環境負荷の少ないクリーンエネルギーである天然ガスを利用し、アブダビ首長国の経済発展に伴い需要が拡大する電力・水の安定供給に貢献していきます。
<発電および海水淡水化プラント>
ご参照ニュースリリース 『双日、アラブ首長国連邦にて天然ガス火力発電・淡水化事業へ参画』
水ストレス地域における取水量
世界資源研究所(World Resources Institute)が提供する水リスクの分析ツール『Aqueduct』の評価において、水ストレス項目が「Extremely High」「High」の地域に立地する当社グループ拠点の2021年度の取水量は以下の通りです。
水ストレス地域の拠点数 | 7 |
---|---|
水ストレス地域における取水量(千㎥) | 192 |
節水の取り組み
繊維事業における取り組み
繊維の加工工程では、水の使用が欠かせません。双日のグループ会社である第一紡績株式会社(以下、第一紡績)は、ISO14001を取得するなど、事業運営において、環境への配慮を重視しており、節水・再利用にも積極的に取り組んでいます。
第一紡績は1947年に設立されました。当初は、紡績工場であった第一紡績は、1972年に編立工場を、1973年に染色工場を新たに併設し、紡績から編立、染色加工に至る一貫工程を実現しました。また、その後、縫製も含めた製品に至る一貫工程まで拡張しています。
一般的に、紡績工程では、紡績機から発せられる熱により、建屋内が非常に高温になります。そのため、品質の安定や従業員の就労環境の確保の観点から空調が欠かせません。この空調には大量の水を使います。
加えて、染色工程でも大量の水を使用します。編立後のニットを染色する前に、付着している糊や油分を除去する精錬工程や、染色液を使い高温で煮沸する染色時には、大量の水が欠かせないのです。
そこで、第一紡績では、紡績工程の空調で使用した水を廃棄せずに、防火水槽を経て、染色工程に送水し、一滴の水も無駄にしない工程を実現しています。
ひとつの水で、空調、防火、染色の三役をこなす、水の有効活用に配慮した取り組みです。
このような取り組みを通じ、第一紡績では、毎年、前年比3%の節水という目標の達成を目指しています。

紡績工程の空調用水槽

防火水槽

染色機
肥料事業における取り組み
ベトナムの双日グル―プ事業会社のJapan Vietnam Fertilizer Company(以下、JVF)においては、蒸気造粒法を使用し、高度化成肥料を製造しています。製造工程(原料粉砕)では、粉じんが出ますが、大気中への飛散を抑制する設備を導入しています。
また、肥料を混ぜ合わせ、成型する工程において、水が使用されますが、ここで使用される水は、先の粉じん回収時に使用した水で賄われています。このように水の工場内循環を行うことで工場からの排水ゼロを達成しています。
JVFはこのように、大気汚染を抑制しつつ、水資源の有効活用をおこなうことにより、サステナブルな事業運営を行っています。
ベトナムで展開する高度化成肥料製造・販売事業
(Japan Vietnam Fertilizer社)
ステークホルダーとの協働
日本貿易会(経団連(日本経済団体連合会)の団体会員)の「地球環境委員会」に参加し、水資源を含む循環型社会の構築に取り組んでいます。
パフォーマンス
水源別の水使用量(単位:㎥)
2018年度 | 2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | |
---|---|---|---|---|---|
上水、工業用水 | 659,934 | 3,020,934 | 3,351,857 | 2,971,193 | 3,318,064 |
地下水 | 530,800 | 521,059 | 456,654 | 462,202 | 472,977 |
海水 | 180,516,900 | 178,401,225 | 151,920,000 | 174,576,000 | 175,332,600 |
河川水 | 62,920 | 1,220,977 | 1,213,895 | 1,068,290 | 1,176,457 |
雨水 | 2,630 | 4,048 | 3,360 | 2,847 | 2,600 |
淡水合計 | 1,256,284 | 4,767,018 | 5,025,766 | 4,504,531 | 4,970,099 |
淡水・海水合計 | 181,773,184 | 183,168,243 | 156,945,766 | 179,080,531 | 180,302,699 |
集計範囲
双日単体(オフィス以外の拠点を含む)、および国内外全連結子会社
※2019年度以降に淡水の使用量が増加しておりますが、2018年度に海外の製紙事業会社を買収したことが主な要因です。尚、2018年度のデータには、当該製紙事業会社は含めておりません。
排水先別の排水量(単位:㎥)
2018年度 | 2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | |
---|---|---|---|---|---|
河川 | 596,454 | 2,741,447 | 2,827,894 | 2,679,339 | 2,942,748 |
海域 | 179,770,418 | 177,677,695 | 151,275,080 | 173,784,135 | 174,651,748 |
下水道 | 263,974 | 245,527 | 166,796 | 773,007 | 672,474 |
地下浸透 | 6,214 | 6,589 | 5,898 | 5,879 | 15,951 |
その他 | 97,353 | 112,954 | 68,323 | 33,471 | 66,065 |
淡水合計 | 963,955 | 3,106,517 | 3,068,911 | 3,491,696 | 3,697,238 |
淡水・海水合計 | 180,734,414 | 180,784,212 | 154,343,992 | 177,275,831 | 178,348,986 |
集計範囲
双日単体(オフィス以外の拠点を含む)、および国内外全連結子会社
※2019年度以降に淡水の排水量が増加しておりますが、2018年度に海外の製紙事業会社を買収したことが主な要因です。尚、2018年度のデータには、当該製紙事業会社は含めておりません。
双日グループの水リサイクル率
2018年度 | 2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 |
---|---|---|---|---|
16% | 9% | 8% | 3% | 1% |
(分子:リサイクルされた水の量/分母:水使用量)
集計範囲
双日単体(オフィス以外の拠点を含む)、および国内外全連結子会社
※2019年度以降に水リサイクル率が減少しておりますが、2018年度に海外の製紙事業会社を買収したことが主な要因です。尚、2018年度のデータには、当該製紙事業会社は含めておりません。
COD、BOD量(単位:t)
2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | |
---|---|---|---|---|
COD | 3,421 | 2,796 | 601 | 551 |
BOD | 3,345 | 2,694 | 427 | 441 |
集計範囲
双日単体(オフィス以外の拠点を含む)、および国内外全連結子会社
双日グループの取水・排水に関する法令違反の件数
2022年度 0件