多様性×オフィスのBCP
佐々木 智之/人事部 総務課課長
今津 尚登/人事部 総務課(防災担当)
高橋 昴大/人事部 総務課(オフィス運営担当)
2023.02.24
佐々木:災害発生時にも事業を継続させる「BCP(Business Continuity Planning=事業継続計画)」において、双日は明確なビジョンを持っています。
「社員の安心と安全を最優先すること」です。
今津:実は2年前に方向転換しました。
総合商社である双日は、あらゆるリスクを視野に入れたうえで、どんな状況でも業務を遂行する高いレジリエンス(柔軟性)が強みです。
ただ、それだけにBCPでも「業務を継続させること」を最優先することばかりに目が向くきらいがありました。
佐々木:しかし直下型地震などの大規模災害が起きた場合、無理な移動や出社は二次災害につながることが明らかになってきました。そのうえ、コロナ禍でリモートワークが進んだ結果、場所に縛られず、ある程度の業務を進められることも判明しました。
そこで我々は有事に最優先するのは「業務の継続」ではなく、「人命である」と、あらためて声高に伝えるようになったのです。
今津:もちろん大きな事故につながる可能性がある危険物を扱う事業会社などはさまざまな復旧対策を速やかにとる必要がある場合もあります。
しかし、最優先すべき考え方は人命優先。それに伴って、本社オフィスを中心に備蓄や訓練を見直して、より充実させています。
高橋:災害発生後、72時間を過ぎると生存確率は極端に下がります。また、帰宅しようとする人々が一斉に道路上に出た場合、自治体の災害対策の障害となったり、同時に群衆雪崩や火災等による二次災害に巻き込まれたりする危険があります。そこで東京都は「大規模災害発生時、3日間はむやみに移動せず安全な場所にとどまるように」と条例で定めています。この条例を踏まえて必要物資を整えています。
まず双日グループが入居するフロアは、共用・専用エリアともに広域停電発生後72時間は稼働する非常用発電の電源を引き入れています。加えて、各フロアにポータブル電源とソーラーパネルを配備、停電時の対応は万全です。また各フロアは男女別に切り分けて宿泊できるように計画済みです。
今津:また水と食料は全役職員の5日間分を備蓄しています。1日分は各フロアに、2日以降はオフィス内の倉庫室に保管してあります。食料は多様性にも配慮しています。
高橋:そうなんです。アレルギー物質のない非常食や、ベジタリアン向けの野菜だけのものを用意してあります。海外の方も多いため、ハラール対応の非常食も用意しています。
今津:またオフィスだけではなく、主要な役職員の自宅にはポータブル電源やソーラーパネルを貸与しています。今の時代、リモートワーク時に災害にあう可能性も高い。安全を確保したうえで、自宅でそのまま業務を遂行できるしくみを備えています。
佐々木:こうした取り組みは習慣化しなければ「いざ」というときに対応できません。そこで臨場感を追求した訓練を定期的に実施しています。
今津:たとえば「荷物を持って階段移動をする」「倉庫室まで水や食料を取りに行く」「キャスター付き昇降機を実際に使ってみる」といった有事での行動を実施。「水は重いので、リュックを使うべき」と改善すべき点も見え、日々アップデートさせています。
何より訓練を繰り返すことで、カルチャーとして根付いてきた感はありますよね?
佐々木:感じますね。訓練の当初は少し面倒な顔もされましたが(笑)、次第に皆とても協力的になった。商社のレジリエンスが一旦起動すると強いんだろうなと感じています。
佐々木:オフィスのBCPという意味では、コロナ禍でより進んだリモートワークも浸透しています。
もとより双日は早くから積極的にWeb会議システムやワークフローでの電子承認ツールを導入。総務省の「テレワーク先駆者百選」に認定されていました。そのためコロナ禍の緊急事態宣言時には、出社率が20~25%に。比較的スムーズに対応できた自負があります。
高橋:今は出社率も80%近い状況にあがっていますが、リモートワークとうまく組み合わせています。社内にもオンライン会議用の個室ブースを導入。海外とのオンラインミーティングやスキルアップのためのセミナーに使う社員もいますね。
一方で、リモートワークを体感した結果、オフラインの良さもあらためて見直された面もありますよね。
今津:ありますね。「上司にちょっとした相談をする」「柔らかいまま発想を広げる議論をする」。こうした場合は相手の状況や表情も見えやすいリアルなコミュニケーションのほうが向いている。
佐々木:私自身、娘の学校の行事などの場合、これまで半休をとっていましたが、リモートワークにすることで休む必要なく業務をすすめられるようになった。ただ、一人で練ったアイデアを膨らませたいときなどは、やはり対面で誰かとあれこれ話し合ったほうが良質かつ早く形にできると感じています。
リモートにせよ、オフラインにせよ、生産性と効率性を踏まえたうえで、ベストな働き方を選択する。ここでもコロナ禍にレジリエンスを活かして対応したと感じます。
高橋:その意味で、オフィスには、より気軽にコミュニケーションできるスペースをつくりたいと考えています。
クローズドな会議室スペースではなく、さっと気軽に集まって、雑談混じりで話がもりあがる場。それでいてすぐに解散もできるような、オープンなミーティングスペースを計画中です。
佐々木:このように双日では日々、安心で安全で、かつ生産性をあげるためのオフィス環境を整備しています。
ただ根っこの部分では「楽しいオフィス」をつくっていきたいとの思いがあります。しかめ面で仕事している方もいないわけではないので(笑)。
ひとりで集中するにしても、皆で議論しながらチームで働くにも、どこかワクワクするような楽しさを感じられる。そうした場をつくっていきたいですね。