米国の事業経営の先にあるもの
武岡脩/エネルギー・ヘルスケア本部
エネルギーソリューション事業第一部
副部長 兼 大洋州課 課長
2025.07.11

私は2008年入社ですので、リーマンショックが始まる前年に就職活動をしていました。当時は金融業界が学生に人気で、私も金融を中心に入社試験を受けていました。でも、就職活動をしている途中で、お金を動かすよりも、モノやサービスを動かす総合商社の方が面白いんじゃないかと思うようになり、商社志望に切り替えました。
私は、面接官が自分を選ぶのと同じように、自分も面接官を見ながら卒業後に働く会社をしっかり選びたいと考えていました。そういう意味では、双日の面接官の方々は実際にさまざまな挑戦をしていて、自分たちの仕事に誇りを持っている印象を受けたので、こういった人たちと一緒に働きたいと双日を強く志望し、無事内定をいただくことができました。実際、入社後に出会った上司や先輩もエネルギッシュで前向きな方ばかりで、あの時に面接官から感じた印象どおりでした。それが、「双日らしさ」なんだと入社後に改めて感じています。
入社後、私がまず配属されたのは、当時の金属資源部門内の金とプラチナのトレードを国内で行う部署でした。しかし、私は帰国子女だったこともあり、自分の能力を海外のビジネスで試したいという思いが強く、社内公募(※1)に手を上げて、機械部門(当時)の部署に異動しました。その部署では、主に中東やアジアで、プロジェクトマネージャーとして電力EPC(※2)事業を行っていましたが、2015年頃から新たな国に進出しようという動きがあり、米国北東部の2つの発電所に投資することが決まりました。私は、2018年に現地のプロジェクトマネージャーに抜擢され、米国に赴任することになりますが、そこで課せられたミッションは、その2つの発電所の運営・管理、そして、従来型の発電事業からの脱却のための新しいビジネスをつくることでした。
新しいビジネスをつくるにあたって重視したいと思ったのが、いわゆる発電所や建物などの資産に対する投資ではなく、人が事業を担っている会社に投資することでした。そうして、数ある事業領域の中から絞り込んでいったのが省エネルギーサービスです。双日はペンシルベニア州にある省エネ・ESCO事業(※3)を推進するMcClure Company(マクルーア)に出資することを決定し、私はその経営の一翼を担うことになりました。
McClure Companyは、省エネ機器や空調機器の提案力を強みとし、ペンシルベニア州の学校や病院でトップシェアの実績を持つ会社ですが、そこに双日の持つ発電事業の開発・運営の知見やノウハウを組み合わせて、事業エリアの拡大や分散型電源といった顧客への新たな事業提案の拡充を図りました。中でも、太陽光発電による学校向けの省エネルギー事業は、地域一体となって社会課題に取り組む新たなビジネスでした。子どもたちが通っている、あるいはその親やさらにその親もまた通っていた学校が省エネルギー化されていくことは、地域にとってもうれしく、大きな注目を集めたニュースでした。私は元々ニューヨークに住んでいましたが、地域に溶け込みたいという思いで、家族全員でMcClure Companyのあるハリスバーグに移り住んだことで、まさに地域に貢献している手応えを肌でリアルに感じることができました。
(※1)社内公募制度の詳細については、こちらをご覧ください:人的資本経営|Sojitz ESG BOOK|サステナビリティ|双日株式会社
(※2)EPC・・・Engineering(設計)、Procurement(調達)、Construction(建設)を一括して請け負う契約形態 「電力EPC事業」は変電所や発電所の建設事業を指す
(※3)省エネ・ESCO事業・・・お客さまが目標とする省エネルギー課題に対して包括的なサービスを提供し、実現した省エネルギー効果の一部を報酬として受け取る事業
私は、McClure Companyの事業に関与することで、さまざまな学びを得ることができました。まずは、はじめて資産への投資ではなく、人が利益の源泉となる事業会社への投資を経験したことで、相手は人であること、そしてお互いにパートナー意識を持つことが何より重要だということを知りました。McClure Companyはすでに会社として機能していて、経営陣がいて、社員がいて、社員の家族がいて、お客さんもいます。そうした状況の中で、私たちは株主として事業のプロに対してあれこれ指示するのではなく、一緒に事業をよくしていけるパートナーだと思ってもらうことを優先しました。そのため、出資の協議においては、短期目線ではなく、双日と組むことで描ける長期目線での成長ストーリーについて、細かく丁寧に説明することで相手の信頼を得て、結果として出資後の協業を非常にスムーズなものにすることができました。
日頃の業務において特に重要なのは、何かをお願いする際にその背景にある理由までロジカルに説明することで納得してもらうこと。実際、日本と米国でのやり方と少し違うことはありましたが、スモール・ウィンを幾つも重ねることで、双日グループに入ったことのメリットを感じてもらうことができたと思います。また、経営というのは、いわゆる人事的な要素を多く含んでいるということを初めて知りました。たとえば、会社の考え方をみんなに理解してもらうことはとても重要で、社員に向けてのスピーチには特に気を遣いました。また、日頃から社員全員と平等に話をして、ビジネスの話だけでなく、一人ひとりの心身や家族のことまで気を配ることで、つねに社員との関係を良好に保ち、モチベーションが高められるように努力しました。社員をリードするだけでなく、社員と歩調を合わせることの大切さを学んだのです。
こうして私が米国にいた6年間の間に、一つひとつステップを積み上げていくことで、McClure Companyは事業を大きく拡げることができました。米国での双日側のチームは元々は私一人でしたが、4〜5名にまで増えました。日本側もはじめは数名だったチームが現在は部として省エネ・ESCO事業に取り組んでおり、豪州にも事業を拡大しています。私は2024年に双日本社に戻り、現在は副部長として引き続き米国と大洋州での省エネ・ESCO事業を、課長としてオーストラリアの再生エネルギー発電所や空調関係の省エネ事業の運営を担当しています。
ひとつは、課になり、部になったこの組織を、さらに事業を拡大することで、今度は本部の単位にまで大きくしたいという思いがあります。もうひとつが、米国での省エネ・ESCO事業を得た経営の経験と実績を活かして、エネルギー事業に限らず、ひとつでもふたつでも双日らしい新しい事業の「塊」をつくっていきたいと思います。省エネ・ ESCO事業がそうでしたが、私が特に目指したいのは、収益が出るまで10年、20年と長期間かかるビジネスではなく、2~3年程度の短期間で収益を生み出せるビジネスをつくり上げることです。スピード感を持って次の事業を育てることが、私の使命だと思っています。
また、私を育ててくれた上司がそうであったように、私も若手社員の育成に力を入れたいと思います。実は、私は、米国にいた頃から現在に至るまで、毎週、人事コンサルタントのプロフェッショナルにコーチングをしてもらっています。その中で、事業の計画や進捗、後輩への指導における悩みなどを率直に話すことにより、私の思考プロセスや行動をわかりやすく整理し、言語化することができるようになりました。なかなか伝えづらかった私の頭の中にあるものを文書として残し、組織内で共有することで、組織力の強化を図っています。そして、若手社員にはビジネスのノウハウをきちんと継承することで、彼らの今後のチャレンジに貢献したいと考えています。
これからも、強い意志を持って、仲間や後輩、パートナーと共に動く。そして、「双日と言えば、武岡」と言われるようなビジネスをつくるために、私はチャレンジを続けます。