共創×社会変革
川端 克/電力インフラソリューション事業部 第二課 課長
伴 遥奈/双日ベトナム会社 ホーチミン店 エネルギー (Web参加)
原 昌也/双日プラネット インダストリーセグメント モビリティ・エレクトロニクスBU 担当BU長
2023.06.28
川端:ケーブルをつなげる手間なく、荷物をおろしている間に、非接触で商用EV(電気自動車)のバッテリーが充電できる――。
2023年3月、双日とダイヘン、大日本印刷の3社は「ワイヤレス充電」を商用EVで日本初の登録認可を実現。公道での実証実験をスタートさせて、実用化に向けて歩みはじめています。
原:EVの試作車両は双日が提供。これにワイヤレス充電システムの開発を推進してきたダイヘンのシステムを採用し、また大日本印刷が開発した薄型軽量のワイヤレス充電用シート型コイルを組み込みました。
急速に普及がすすむEVですが、ボトルネックは充電の手間でした。専用スタンドと有線ケーブルによる充電が不可欠、さらに急速充電でも30分~1時間もかかっていましたからね。
川端:物流事業者にとっては充電時間のロスは、売上・利益に直結します。ドライバーの過重労働にもつながりかねない。EVに二の足を踏む理由でもありました。
もっともオペレーション上、積荷の時間が1~3時間必ずある。もし、その間にケーブルを抜き差しするような手間のない、地面などに設置したシートから非接触で充電できる「ワイヤレス充電」の設備があれば、課題解決の大きな一歩になります。
伴:実証実験を足がかりに、ワイヤレス充電のインフラが整えば、EVはさらにシェアを伸ばす、と考えられます。それは私たちの生活の利便性が高まるのと同時に、世界的な課題となっている脱炭素社会を実現させる大きなステップになると信じています。
川端:ダイナミックに新市場の創造を、共創によって実現させるチャレンジングな試みです。極めて商社らしい取り組みで、双日らしい取り組み、といえますよね。
川端:「Hassojitz」は新規事業につながる、年に1度、全く新しいアイデアを全社員に向けて募集するプロジェクトです。
商社は資金を入れ、人材や技術をつなぎあわせてビジネスを生み出すのが仕事。2019年度から開始したHassojitzはそこからさらに一歩踏み出し、「あるべき未来」を想像して新しいビジネスをゼロからつくりだすバックキャスティングの手法で、斬新な発想を実現させていこうという試みです。
具体的には「2050年のビジネスを創り出す」と銘打っています。
伴:現在のHassojitzは双日の社員なら誰でも応募できるのですが、初年度だけ、役割等級によって応募制限があったのです。
当時、入社3年めだった私は、その制限にひっかかり、指をくわえて見ていました。それだけに「ワイヤレス充電」のアイデアが実現に向けて走り始め、事業化のための新チームに、声がかかったのはとてもうれしかった。
原:伴さんがジョインした頃は、まだEVのワイヤレス充電に絞らず「ワイヤレス給電」という幅広なアイデアだったんですよね。
伴:そうです。充電ケーブルのみならず発電所からの送電線も含めて、世界中がケーブルによって給電されています。これをWi-Fiのように無線で伝送できれば、送電のコストが下がり、また新たな可能性が生まれると考えました。
とはいえ、その技術を双日が有しているわけではありませんからね。まずは「ワイヤレス給電の技術を研究している」「新しいEVの実験をしているらしい」といった話を聞きつけては、数多の大学や企業の研究所にアポをとり、泥臭くリサーチを重ねました。
川端:チームメンバーで手分けして合計二十社以上の企業や研究室にお邪魔しましたね。中には「大気圏外の衛星上で太陽光発電した電気を、電波にして地上に給電する」なんて大胆な研究をしているところもありました。
伴:ありましたね。そうした既存の送電網から開放される「ワイヤレス給電」チームと、もう一方の可能性としてEV向けの「ワイヤレス充電」チームに分かれ、実用化を探っていきました。
もっとも、私が属していた「ワイヤレス給電」のほうはまだ法制度や技術面で超えなくてはいけないハードルが高いことがヒアリングを重ねるごとにわかっていきました。1年ほど検討した後に、「給電」のほうはペンディングになったんですよね。
原:1年間のリサーチが白紙に戻るのは、ショックも大きかったのではないですか?
伴:関わってくださる方も増えていたので、心苦しい面はありました。チームメンバーも、自分たちの仕事をしながら、このプロジェクトをまわしていたので。
一方で、川端さんが中心になって進めていたEVのワイヤレス充電のほうは実現化の可能性が高いと分かったので、リソースを固めることになりました。
川端:そうですね。広範囲に多くの企業や研究室に足を運んだからこそ、時間軸のイメージを持つことができた実感があります。研究の現場や実験のお話をうかがうと、「実現可能性が高いか否か」「いつまでに事業化できそうか」がおぼろげながら見えるようになる。商社目線として「ビジネスの匂いがする」と言いますか、嗅覚が鍛えられた(笑)。
中でも大きかったのはASF社との連携でしたね。ブレイクスルーのきっかけとなる「共創」の呼び水になりましたから。
川端:ASFはEVをサービスとして提供するビジネスモデルのスタートアップ企業です。佐川急便と提携して、配送のラストワンマイルを担うサービスなどを提案している。
多くの企業や大学を回る中で、偶々ご縁があって立ち上がったばかりの同社を紹介してもらい、新たなビジネスモデルで社会変革をもたらそうとする高い視座に共感して、2020年末に資本業務提携をはかることになったのです。
原:この資本提携のニュースを聞いた大日本印刷から、私のところに「実はワイヤレス充電に活用できる薄型コイルを開発している。一緒に何かできないか」とご相談がありました。
以前から大日本印刷とはおつきあいがありましたが、そんな新技術を開発しているとは、驚きでした。聞けば、大日本印刷側は、独自に自動車メーカーに共同開発の提案を試みていたらしいのですが、なかなか話がすすまなかったという。
川端さんにその旨を伝えると「渡りに船だ!」と。
川端:でしたね。資本提携したASF社のサービスに、数多のヒアリングの中で知り合ったワイヤレス充電システムの開発をしているダイヘン社の技術をあわせて実用化出来る可能性はないかと思案していたところでした。
ダイヘン社から聞いていた課題は、EV側に搭載する受電コイルが重くて厚いこと。大日本印刷のシート型コイルの特徴は薄く、軽量なうえ、漏洩も少ない。まさに求めていた技術でしたから。
原:こうして双日×ダイヘン×大日本印刷の共創が実現して、実証実験にまでこぎつけられた。実のところ、その後、テスト車両を作成して、公道実証の認可を得るために1年以上の難産にはなったのですが(笑)。それも含めて3社が揃わなければなしえなかった。
川端:おもしろいもので、バラバラにはすでにあった技術やサービスが、ハッソウジツを起点にして形になった。小さいけれど強い光を放っていた火が集まった、大きな炎になったよう。
あらためて商社の仕事の醍醐味をあらためて感じましたね。
原:まだ実証がはじまったばかりですが、社会のあたり前のインフラになる実感はしています。
高速道路のETCが普及して、インフラになったあの感覚に近いのかなと思っています。当初は業界すべてが乗り気だったわけじゃなく、ユーザーの方々も懐疑的だったけれど、設備が徐々にととのっていき、利便性が伝わると一気にスタンダードになっていった。
伴:世の中の課題を解決する、社会をよくする。そうしたニーズを丁寧に掘り起こして形にして、最終的にビジネスにしていく。しかも、メーカーやスタートアップなどの垣根を超えたつながりをつくってそれを実現するのは、とてもワクワクする経験でしたね。
川端:そうですね。「こういう世の中になったらいいな」とか「自分の子供にこんな世界で生活してほしいな」とか、そんな理想って、潜在的なニーズだと思うんですね。それをどうやって実現するか、真剣に考えて、実践できるのは総合商社、そして双日のいいところだと思うんです。
社会の課題解決と、企業のビジネスと、個人の理想を重ねて邁進できる。ワイヤレス充電のしくみを社会に実装するとともに、これからもそんな仕事を、双日のみんなで実現させていきたいです。