双日には、国際弁護士がいる。
十時啓/法務部 第四課 課長(NY州弁護士)
2025.01.24

私は、大学時代から海外での生活や仕事に興味があり、弁護士として国際的なプロジェクトに関わりたいと思っていました。日本での弁護士資格取得(*1)後は、まずは日本にあるアメリカ系の法律事務所に入り、キャピタルマーケットグループで株や社債の発行によって資金調達をする業務を行なっていました。しかし、海外のプロジェクトの契約書は基本的に全て英国法等の外国法準拠であり、外資系の事務所とは言え、日本人弁護士である私が海外のプロジェクトに関わる機会は多くはありませんでした。そこで、当時色々な方のアドバイスを受け、総合商社の法務部であれば、「海外案件に携わりたい」という私の夢がかなうのではないかと思い、双日に転職しました。
2年間外資系の法律事務所で働いていたので、双日でもある程度の仕事はできると自負していました。しかし、実際に入社してみて、法務部の社員は、英語力や法律の知識、案件に対する理解などすべてのレベルが高く、驚かされました。法律事務所では法律的なアドバイスは行いますが、最終的な判断はクライアントに委ねるという関わり方でしたが、双日での仕事の場合は営業担当者の思いに寄り添い、共に判断し、一緒にビジネスをつくっていくという業務内容で、それがとても面白いと感じました。英語での交渉や契約書作成、さまざまなバックグラウンドを持つ関係者との協働など、とてもダイナミックでエキサイティングな業務を担当することができて、入社前に思い描いていた通りの仕事内容でした。
(*1) 本記事掲載時点で、日本での弁護士登録は未登録です。
その後、私は、社内の研修制度を利用して、ワシントンDCのロースクールで学びました。私にとって初めての海外生活でしたので、とても楽しみにして現地に向かったのを覚えています。私が受講したのは、LLMというプログラムで、基本的にはアメリカ人以外の弁護士資格を持った外国人が集まって、アメリカ法の勉強をするというものでした。学生は英語ネイティブではないのですが、みなさん語学レベルが高く、驚きました。ロースクールでは、class participationといって、クラスでの発言やディスカッションの姿勢、内容が成績に影響するのですが、私は思うように言いたいことが言えず悔しい思いを何度もしました。しかし、その分、語学以外では絶対に負けたくないと思い、レポートや期末テストでは高得点が取れるように万全の準備をしました。その甲斐あって卒業時には最高成績評価となりThomas Bradbury Chetwood, SJ Prizeというアワードを受けました。また卒業後は、ニューヨーク州の司法試験を受験し、同州の弁護士資格も取得することができました。今振り返っても、この研修期間中が、自分の人生の中で最も勉強した期間だと思います。
ロースクール卒業後は、会社のトレーニー制度(*2)を利用して、ニューヨークの双日米国会社で働きました。初めての海外勤務でわからないことばかりでしたが、現地のメンバーがとても優秀かつフレンドリーで、その現地メンバーとチームになって多くの米国でのプロジェクトに関与することができました。現在私は本社で勤務していますが、双日米国会社の経験を活かして、案件で協業する外国弁護士メンバーにも「営業は何をやりたいのか」「今何が起こっているのか」をなるべく細かく説明して、彼らと一体となって案件を進めるようにしていますし、課員にもそれをお願いしています。円滑に案件を進めるためには外国法の専門家であり、ネイティブスピーカーである彼らのサポートが必要になりますし、彼らをなるべく巻き込むことが成功への近道であると感じています。
(*2) トレーニー制度・・・当社は経営人材の育成・確保のため、国内外の事業会社や現地法人への派遣、MBA派遣・語学自己研鑽制度など、様々な研修を行っています。
詳細はこちら: 人的資本経営|Sojitz ESG BOOK|サステナビリティ|双日株式会社
私は、入社して1、2年目に、中東のインフラ案件の入札を担当したことがあります。契約内容も詰まり、いよいよサインのみという段階まで来たのですが、相手方の内部の最終的な承認が下りない状況に見舞われました。特定の期日までに契約締結できないと差し入れた保証金を取られてしまうというリスクもあり、そのまま内部承認を待ち続けるか、すぐに入札から降りるかの判断が必要となりました。事業規模も大きな案件だったため、社内でも早急な対応が求められました。そんな中、私は当時の社長に呼ばれ、上司とともに契約内容について直接説明したところ、「それなら、もうこの案件は辞めた方が良いかな」と言われました。しかし、営業部と長い時間をかけてそこまで持ち込んだ案件でしたので、私個人としてはあきらめたくなく、「契約書以外の部分ではポジティブな事情もあるので、もう少し待っていただけませんか」とお願いしました。最終的には、さらなる事情変更も重なり、双日としてその案件は断念することになりましたが、一担当者にすぎない私が、社長に直接契約の説明をし、その意思決定に意見を言う機会があるということに、社内弁護士として大きな醍醐味を感じました。
また、コロナ禍はやはりいろいろな問題がありました。あるトレーディング案件では、契約の相手方が一方的に契約を破棄し、サービスの提供をキャンセルすると言い出したことがありました。明らかな契約違反ですが、契約上は、欧州で仲裁をしなければならない条件になっており、そうなると、欧州で弁護士を雇い、解決までの費用も期間も相当なものになってしまいます。そこで私は、欧州での仲裁ではなく、日本で訴訟を提起する方法を検討し、外部弁護士とも相談の上で実行に移しました。日本の訴訟であれば欧州での仲裁よりも低コストで手続を開始できますし、おそらく相手方も日本国内にある資産が差し押さえられることは避けたいと思うので訴訟を嫌がるのではないかと考えました。前例がなく、それがベストな選択であるか不安もありましたが、私はやってみる価値があると思い実行しました。日本で訴訟を提起した後、私は再度米国に駐在となったため、その件の担当からは外れたのですが、しばらくして営業担当者から双日に有利な条件で和解に至ったという連絡をもらいました。営業部と共に案件の当事者として戦略的でチャレンジングな提案ができるのが、法律事務所にはない、社内弁護士ならではのよろこびだと感じました。
法務部員の役割は、法律の知識や論理的な思考を駆使して、営業部と共にビジネスをつくりあげることです。さまざまな国で、新しいビジネスにチャレンジしているため、前例がないことも多く、どんな契約書が必要なのか、その契約書の中身はどうあるべきなのか、つねに考えながら案件を進める必要があります。難しい部分も多いのですが、同時にとても面白い仕事であると感じています。私自身、双日で経験した海外でのさまざまな案件を通じて自分の能力を高めることができたと感じています。
また、現在は課長として課を運営する立場にありますので、課のメンバーにはできるだけ多くのグローバルでチャレンジングな案件に関わってほしいと思います。それらの案件を通じて自身の能力を磨き、成長を実現すると同時に、その磨き上げた能力を使って新たなビジネスの創出にチャレンジし、会社に利益をもたらすというように、社員と会社が共に成長していけるような組織の実現に向けて少しでも貢献できればと思っています。