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Vol.03

資源は次なるステージへ。
サーキュラーエコノミーのいまとこれから

2022.05.11 UP

2032年、サーキュラーエコノミーのある"わたし"の生活

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2022年4月に施行されたプラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(以下、プラ新法)。世の中のエコ意識はこれまで以上に高まり、廃棄されていた製品や原材料などを「資源」と考え、リサイクル・再利用などで活用し、資源を循環させるサーキュラーエコノミーを取り入れた生活の提案が加速しています。いまから10年後の2032年。循環型経済のサービス・プロダクトはいまよりも浸透し、エコやサステナビリティの意識は日常に溶け合っているはず。サーキュラーエコノミーが当たり前になりつつある、とある一人の生活者の暮らしを覗いて、一歩先の未来を想像してみましょう。

Illustration_Shinpei Onishi
Text_Keisuke Kimura, Shota Kato
Edit_Shota Kato

生活、社会、国、大小さまざまなサーキュラーエコノミー

貧困、紛争、気候変動、感染症――。世界はこれまでに経験したことのないような数多くの課題に直面しています。このままでは、わたしたちは安心して暮らしていけるのでしょうか? そんな危機感の芽生えから、国連サミットで世界中の人々が話し合い、課題の解決方法を考え、 2030年までに達成すべき具体的な目標を立てました。それが「SDGs(持続可能な開発目標)」です。

そして、SDGsや持続可能と近い意味をもつ「サステナビリティ」という言葉も世の中に浸透してきたなか、また新しい言葉を見聞きするようになりました。それが「サーキュラーエコノミー」です。

では、私たちのまわりにはどんなサーキュラーエコノミーの実例があるのでしょうか? 身近な生活、そこから少し離れた社会、そして、それらを包括する国の3つに分けてみると、大小さまざまな取組みやアクションが行われていることがわかります。

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マイバッグ・マイボトル・マイ箸などを持参して、プラスチックカトラリーの生産・廃棄を防ぐ。プラスチックを再資源化して、素材そのものをリサイクルする。使わなくなった服を回収して、新しい服に再生する。植林後5年でバイオマスにできる早生樹の植林や、動植物から生まれる有機性資源のバイオマスの利活用などを通じて、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量を抑え、脱炭素社会を実現する。サーキュラーエコノミーを加速させるための法律を制定する。

他にもたくさんのサーキュラーエコノミーへの取り組みが2022年のいまも世界中で行われていますが、わたしたちの生活はどう変わっていくのでしょうか。循環型経済にまつわるサービスやプロダクトはいまよりも増え、浸透し、サーキュラーエコノミーは当たり前の社会になっているはず。それでは、10年後の2032年、一歩先の未来を想像してみましょう。

2032年の普通の日常

7:00

今日は大事な商談がある日。ふだんの仕事はリモートワークでだいたいのことはこなしているけど、会って話すからこそ一気に進む仕事だってある。プチプラのコスメもいいけど、AIが気分に合わせて色を調合してくれるリップマシーン(もちろん天然由来成分)で自分の気分をさらにアゲていく。

さあ、メイクを済ませたら、古着を回収してつくられた「ブリング(BRING)」の服を着て、自然素材から生まれた「オールバーズ (allbirds)」の靴を履いて、身支度は完了。昔は洋服のタグに「再生ポリエステル100%」や「自然素材由来」を見つけるたびに驚いていたけど、その表示をほとんど見かけなくなった。それってサーキュラーエコノミーがファッションに浸透していることの表れだったりする。

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8:00

出勤前のルーティンは、家の前に設置された再生資源循環プラットフォーム「POOL」にごみを入れること。洗剤などの詰め替えパック、お菓子や野菜などの包装材、ボトル容器を分別して入れられるようになっていて、ここで分別されたプラスチックはそのまま工場へ。わたしが捨てたプラスチック資材が新しいプラスチック資材に生まれ変わっていく。

生ごみを入れる場所もあって、ここに生ごみを集積しておくだけで堆肥が完成。同じ地域に住む人同士は自由に使えるし、いつも飲むオーガニックスムージーはこの堆肥を使って育てた野菜からの手づくり。これがまた美味しいのだから、ごみをまとめる時間から楽しくなる。

9:00

家を出たら、街なかを巡回する無人の自動運転車に乗りこんでいざ出勤。車内のエアディスプレイにつないでプレゼン資料をつくっていたら、あっという間に会社に到着。

オフィスで使う電力はすべて、近隣のバイオマス発電所から送電されている。バイオマスというのは「バイオ(生物)」と「マス(量)」を組み合わせた言葉で、木材のような生物から生まれた資源のこと。バイオマスで発電すれば、発電でCO2は発生するけど、植物が生育するなかで吸収してくれるから、地球にとってエコで効率的な電気を使っていることになる。わたしも少ないエネルギーで効率よく仕事を進めていかなくちゃ。

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12:00

楽しみなランチタイムは、親しい同僚と屋外で。ドリンクを入れたマイボトルも、持参したマイカトラリーもすべて、100%生分解性。土に埋めれば、自然へと還ってくれるもの。昔はマイボトル・マイカトラリー・マイバッグを持つことが特別だったけど、いまではそれがバイオマス由来になっていることまで当たり前の世界に。それもそのはず、バイオマス由来でない製品は高い税金がかけられて、むしろ高級な存在に。

近所で買ってきたお弁当の容器は、植物由来のデンプンや糖などを使用したプラスチックに変わる新素材「ポリ乳酸」が使われている。食材は、規格外であったり不揃いの野菜たち。スマホのゲーム内で推しキャラクターが育てた野菜がリアルに届く、推しのキャラクターが育てた野菜だと思うと、一層おいしい。まだ農作業が上手なキャラじゃないから不揃いの野菜が届くけど、これでフードロスも減っているみたいで、楽しみながら環境にも貢献できていてなんだかいい気分。

15:00

仕事で使うPCは、今まで以上の速度や規模で情報処理する量子コンピューターが主流に。これからいくつも営業先に行かないといけないけど、量子コンピューターがボタンひとつで、交通情報も考慮した効率的なルートを提案してくれるから本当に助かってる。

スマホはどんどん新商品が出て、昔は廃棄の問題もあったみたいだけど、いまは金属とかプラスチックとか、ほとんどのパーツがリサイクルされているんだとか。リサイクルの品質もあがって、新品と同じ見た目と性能なのにお手頃価格で、新人のわたしにはありがたい存在。

ところで、わたしたちが買い物、リサイクル、修理とかでサーキュラーエコノミーなアクションをすると、ポイントが還元される仕組みが全国で始まったってニュースでやっていた気がする。いつもの何気ない行動が気持ちのいい循環をつくってくれる社会になってきたかな。

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18:30

慌ただしかった今日の仕事も終わってようやく帰宅。家で使う電力は、いまではすべて自分たちで賄っている。「省エネ」だけじゃなくて、太陽光発電とか「創エネ」設備も地域の家庭に揃っていて、余った電力を蓄えておける「蓄エネ」設備も充実。電線を伝って流れてくる電力は、会社と同じバイオマスなエネルギー。水洗トイレの水は溜めておいた雨水を代用して、生活排水は濾過装置を通すことで、庭の畑に散布できるほどクリーンに。

ちなみに、わたしの家は釘を1本も使われずに建てられた木造建築。なるべく土に還る素材を選んでいるから、いつか建て壊すことがあっても土へと還ってくれる。そう、家まるごとがサーキュラーエコノミー。

 

19:30

今夜のメインディッシュはプラントベースミート。いまでは技術も進化して、本物の肉や魚と、味も見た目も変わらない。それによって、温室効果ガスのひとつであり、牛のゲップに含まれるメタンガスもずいぶんと減ったみたい。野菜やフルーツは、ランチと同じく不揃いで規格外のものをなるべく使って。料理に使えなかった部分は、翌朝コンポスト入れるために、玄関にまとめておこう。

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21:00

やっと一息つける時間。家を見渡せば、インテリアにも100%バイオマス素材が使われるように。アンティークのインテリアショップで見つけたソファやテーブル、中身にリサイクル部品が使われた最新の家電製品も並んでいる。服を新しく買うことも少なくなって、部屋着は昔から着ているスウェット。少しの傷みなら、自分でリペアを繰り返して、大事に使っていこう。いまでは長くものを使うことこそがかっこいい、という価値観なんだ。

晩酌は、近所でつくられている量り売りのクラフトビールをテイクアウト。バイオマス素材のビアグラスで飲みながらSF映画でも観ようかな。そういえば未来って、こんな映画みたいに、無機質な世界が広がっていると思っていたけど、むしろ物を大事にしていた昔の時代に戻っているような? 地球にも、私にも、居心地のよいいまの生活がこれからも続くといいな。

あっ、そろそろ寝る時間だ。樹木から抽出した天然のアロマを焚きながら、今日はそろそろおやすみ。またあしたも仕事を頑張らなくちゃ。

 

いかがでしたか? 10年後の何気ない日常。「循環型経済」を意味するサーキュラーエコノミーとは、これまで活用されることなく廃棄されていた製品や原材料などを「新たな資源」と捉え、廃棄物を出さずに資源を循環させる経済の仕組みのことです。

世界的な人口増加と経済成長を背景に、大量生産と大量消費が繰り返されるなか、処理しきれなくなった大量の廃棄物が自然環境を汚染し、生態系にも甚大な被害をもたらしています。また、資源や自然エネルギーにも限りがある上で、地球環境を守りながら経済を持続していくためには、循環型の経済システムに変えていく必要があります。このような背景から、サーキュラーエコノミーは持続可能な成長を実現するための新しい経済モデルとして注目を集めているのです。

こうした動きが続いていくと、2032年には、サーキュラーエコノミーという言葉は、いまよりもかなくなっているかもしれません。なぜなら、その考えや生活様式が日々のなかに溶け込み、知らず知らずのうちにサーキュラーエコノミーな生活をしているはずだから。いや、そうした未来をつくっていかなくてはならないのです。来たるときに向けて、ここに描いた未来のイメージを少しでも、いまの生活に取り入れてみて。

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