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2022.01.25 UP

【NewsPicks掲載記事】
【真相】使い終わったパソコンの末路、知っていますか?

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(以下は2022年1月にNewsPicksで公開した記事です。)

増え続ける「電子ゴミ」

私たちの生活に1日たりとも欠かすことができない、パソコンやスマホなどのIT機器。

新しいモデルが次々と発売され、コロナ禍の巣篭もり需要で買い替えも進む。世界的に見ても、スマホの利用者数は、右肩上がりに増加している。

出典:Worldwide; Ericsson; 2016 to 2020 (Statista より引用)

一方で、私たちがこれまで目をつぶってきたのは、それらIT機器の"使用後"の話だ。

国連大学などの調査によると、2019年に世界で排出された電子ゴミ(バッテリーや電気回路、電子回路を搭載する電気製品の廃棄物の総称)は5,360万トンで、1人当たり7.3キログラムにものぼる。2030年には、7,470万トンまで増加するとの予測だ。

出典:United Nations University, Global E-Waste Monitor in 2020 (2020年以降は予測の数値)

実は日本は、この状況に大きく加担していると言える。2019年には、中国、アメリカ、インドに続き、4番目に多く電子ゴミを排出しているのだ。

出典:United Nations University, Global E-Waste Monitor in 2020

電子ゴミは増え続ける一方で、正規に回収されリサイクルされた割合は、わずか17.4%。残りの82.6%がどのように処理されたかは、確認されていないのが現状だという。

同調査は、処理ルートが確認できない電子ゴミの一部は、ゴミとして焼却・埋め立てられるほか、廃棄物処理のルールが緩いアフリカなどの発展途上国に輸出されていると推定する。

行き場がなく積み上げられた電子ゴミの山の中で、現地の人々が金属を探している映像を見たことがある人もいるだろう。

電子ゴミに含まれる有害物質を吸い込む健康被害はもちろん、その有毒物質が地域の空気、土壌、水路に拡散される環境汚染も深刻だ。

出典:United Nations University, Global E-Waste Monitor in 2020

これからも増え続けると予想される電子ゴミ。なぜ再利用は進まないのか。解決の糸口はあるのか。

企業で不要となったIT機器を回収し、リユース・リサイクル事業を展開するTES-AMM JAPAN代表取締役社長の小沢国彦氏と、双日の資源リサイクル部からTES-AMM JAPANへ出向し、営業部門を担う稲村歩氏に話を聞いた。

データ消去したつもりでも

──電子ゴミのリサイクル率が、2割以下にとどまっているとは驚きました。改めて、なぜリサイクルは進まないのでしょうか?

小沢 様々な要因がありますが、リサイクル事業に求められる高い専門性は要因の一つです。

(注)ITAD事業とは、安全・安心・環境に配慮して、IT資産を処理する事業のこと。回収、データ消去、買取、セキュリティ処理をワンストップで提供する。ITADは「IT Asset Disposition」の略称。

電子ゴミを再利用するには、専用の設備や機械が必要で、設備投資も大きい。さらに、パソコンやスマホに含まれるリチウムイオン電池など、発火の恐れがあるような取り扱いが難しい物質は、輸送するにも特別な認可が必要です。

その分当然コストも高くなりますので、経済合理性を見出しづらいのが現状です。

さらにIT機器の再利用に特有なのが、機器内に残存している機密情報や個人情報の処理の難しさです。

機密情報がデバイス内に残存してしまうリスクを恐れて、再利用なんてせずデバイスごと粉砕してしまおう、と考える企業も少なくありません。

そこで私たちは、企業で不要となったIT機器を回収し、データを徹底的に消去した上で再利用まで担う、ITAD事業を展開しているんです。

── 具体的に、どのようにIT機器を処理するのですか?

小沢 今日はTES-AMM JAPANのソリューションセンターに来ていただいているので、一緒にセンター内を回りながらご説明しましょう。

まず、企業で不要となったIT機器を回収した後、大きく分けて二つのフェーズで処理していきます。最初のフェーズは、IT機器のデータ消去

パソコンやスマホはもちろん、プリンターなどにも企業情報がデータとして登録されているケースがあり、データ消去の対象になるんですよ。

データ消去のために、粉砕されたIT機器の基板。顧客の要望によっては、専用の機械でこの細かさまで粉砕して、デバイスを物理破壊するケースもあるとのこと。

──データ消去ソフトは個人でも気軽に買うことができますが、それでは足りないのでしょうか?

小沢 ええ、足りないケースも多いのです。実は2018年に、ある実験をしたんです。いわゆるネットオークションサイトから、中古のHDDを無作為に50台購入し、残存データがあるか調べてみたのです。

その結果、2台はデータ消去未実施、13台はデータ消去作業が行われていたものの、なんらかのデータ復旧が可能な状況でした。さらにそのうち8台は、社員の給与や顧客データなどの重要な情報が、丸ごと残されていたんですよ。

──それは怖い......。TES-AMM JAPANでは実際に、どのようにデータを消去するのでしょうか?

小沢 まず一つ目の手法は、物理破壊によるデータ消去。HDD/SDDなどの記憶メディアを、物理的に粉砕することでデータを復元不可能にします。

たとえば記憶メディアの破砕についても、HDDに4つ穴を開ければデータ消去できるとしているITAD事業者が主流なのですが、それでは甘い。私たちはシュレッダーによる破砕を行うことで、より徹底してデータを破壊しています。

専用の機械で全面に穴をあけられたSSD。

また、近年需要が高まっているのは、データ漏洩の危険性を徹底して防ぎたいお客様に向けた、お客様の施設内での物理破壊。シュレッダーを搭載して、車輌内で物理破壊が行えるトラックを独自に開発しました。

二つ目の手法は、ソフトウェアによるデータ消去。こちらに関しては、米国国立標準技術研究所(NIST)の規格に準拠した、信頼性の高いBlancco社製のソフトウェアを採用しています。

データ消去のために、ずらりと並んだパソコン。希望する顧客には、データ消去証明書の発行や、デバイス粉砕のBefore/Afterの写真提供も行う。

──そして完全にデータを消去した後は、リサイクルの工程に入るわけですね。

小沢 はい。再利用の方法には、使用済みの機器をそのままの形状で再利用するリユースと、資源として再利用するリサイクルがあります。

再利用と聞くと、リサイクルを思い浮かべる人が多いのですが、金属を一度溶かして別の資源に作り変えるよりは、そのまま再利用できるリユースの方がコストも環境負荷も低い。

だから、私たちはリユースを優先して、「使えるものは使おう」という姿勢で再利用を進めています。

そのため、IT機器の解体は基本的に手作業。機械で一気に壊せば楽なのですが、そうするとまだ使用可能なパーツまで粉々になってしまうためです。

機器としては再利用ができなくとも、部品単位では使用可能な場合もあるため、部品単体の再利用を行うパーツハーベスト事業にも取り組んでいます。

そのままでは使えないパーツについては、製錬所に送って金属を取り出して再利用したり、リサイクル用の工場を備えるシンガポール本社に輸送して資源化したりしています。

手作業で基板を解体する様子。

日本のセキュリティ意識は低すぎる

──TES-AMM JAPANがそこまでリサイクルにこだわる理由はなんでしょうか?

小沢 そもそもTES-AMMの祖業は、リサイクル事業なんです。電子ゴミ問題を解決することをミッションに、2005年にシンガポールで創業しました。

つまり「時代の潮流に合わせてリサイクル事業もやっておこう」ではなく、「IT機器を再利用するためには、データ消去技術が不可欠だから、ITAD事業も始めよう」という順番で発展してきたのです。

リサイクル事業の強化もしており、今年はシンガポールで東南アジア最大級のリチウムイオン電池の精錬工場の稼働を始め、オランダと中国でもリチウムイオン電池のリサイクル工場を建設中です。

すでに、埋立処理場に送る廃棄物をゼロにする「ゼロランドフィル」は実現できていますが、リユースできる機器や部品をさらに増やし、より精度の高いリサイクルを推進したいと考えています。

──そんなTES-AMM JAPANは、総合商社である双日との提携を発表しました。

小沢 2021年の1月に提携を発表し、それからは双日の資源リサイクル部の稲村さんが、TES-AMM JAPANのオフィスに出向してくださっています。

もう「アユちゃん(稲村)、行こうぜ!」という感じで、毎日のように一緒に営業に行っていますよ(笑)。

──双日はどんな経緯で、TES-AMM JAPANへの出資を決めたのでしょう?

稲村 言うまでもありませんが、環境問題は商社が取り組むべき喫緊の課題ですよね。もちろんCSR活動として取り組む姿勢も欠かせませんが、社会的なインパクトをもたらしたいならば、ある程度の事業規模は必要です。

そこで、「ビジネスを通してサーキュラー・エコノミーの実現に貢献する道はないか」と模索していた時にシナジーを感じたのが、もともとパソコンの基板等の取引でお付き合いがあったTES-AMM JAPANでした。

TES-AMM JAPANは、純粋に「不要なIT機器をリサイクルします」というだけではなく、顧客にデータセキュリティ向上という付加価値を提供した上で、リサイクルに取り組んでいる。そのビジネスモデルに大きな可能性を感じて、一緒に事業を大きくしたいとお声がけしたんです。

小沢 パートナーシップを始めて1年弱が経ちますが、TES-AMM JAPANの技術と双日のネットワークがあれば、より急ピッチで電子ゴミ問題の解決に貢献できると、すでに手応えを感じています。

残念なことではありますが、日本にはデータセキュリティへの意識が低い企業が、まだまだ多いんです。

もしデータが漏洩したら、ものすごい損害を被るにもかかわらず、「どれだけ低いコストで処理できるか」という目先の課題に囚われている企業がほとんど。これでは結局、IT機器の再利用も進みません

私たちはまだ日本での知名度が低いので、双日のネットワークを活用して、この啓蒙をしていきたい。日本の経営者のマインドセットを、私たちが先頭を切って変えていき、お客様を増やしていこうと考えているんです。

リサイクルは1社では実現できない

──双日とTES-AMM JAPANが一緒になって、IT機器のデータセキュリティと、再利用の啓蒙をしていくと。

小沢 それだけではありませんよ。事業自体を拡張するという意味でも、双日と組む意味は大きい。その例が、リチウムイオン電池から作った蓄電池の販売事業です。

リチウムイオン電池とは蓄電装置の一つで、私たちが回収するIT機器の多くにも含まれています。

そのリチウムイオン電池を再利用して、TES-AMM本社として新しい蓄電池を作り、商品化しようと。

ただ、私たちは売り先が全くわからないんですね。元来、お客様の依頼を受けて業務を行う事業が主流ですから、自社プロダクトを発信するスキルが弱い。

そこで双日が、蓄電池の需要がありそうなアジアの電力会社や、通信基地局事業者等を紹介してくれました。

こういった取り組みを経て感じるのは、リサイクルは1社だけでは完結できないということ。様々な事業者をつなぐことではじめて実現するものだと、双日と組んで改めて感じています。

稲村 本当にそうですよね。その点で、商社は昔から「ラーメンからロケットまで」と言われてきたように、事業内容が多岐にわたり、それぞれの部門にはその道の専門家がいる

多様な専門家集団の商社だからこそ、「こんな企業と相性が良いのでは」という風に企業をつなげ、事業を拡張していけると考えています。

──2021年、双日は立て続けにリサイクル関連企業への出資を発表しました。双日全体として、どのような戦略を描いているのでしょうか?

稲村 2021年には、TES-AMM JAPANの他に、廃PETなどのケミカルリサイクル事業の日本環境設計、再生資源調達プラットフォームのレコテックに出資をしました。

同じリサイクルの領域の中でも、あえて異なる専門性を持つ企業との提携を進めてきたのです。

なぜならば私たちが目指すのは、総合リサイクル事業だから。というのもリサイクル事業は、一つの資源では、なかなか付加価値や競争優位性が出せないものなんです。

たとえばIT機器を解体するにあたって、金属だけではなくプラスチックも出てきますよね。「金属のリサイクルしかできません」では、価値を出しづらい。

そうではなく、どんな素材も双日ネットワークの中でリサイクルできるよう、枠組みを整えていく必要があります。

商社の総合力を武器に、リサイクル事業を通して、環境問題に地に足つけて取り組んでいく。

今は点としての出資に見えるかもしれませんが、これからはTES-AMM JAPAN含め、様々なパートナーをつないで、線にしていきます。そうすることで、サーキュラー・エコノミーの実現に貢献していきたいと考えています。

制作:NewsPicks Brand Design
執筆:シンドウサクラ
撮影:後藤渉
デザイン:藤田倫央
編集:金井明日香

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