HomeArticle人事と大学講師と和菓子屋のパラレルワーク? キャリアをフルに活かした、これからの働き方

2022.12.13 UP

人事と大学講師と和菓子屋のパラレルワーク? キャリアをフルに活かした、これからの働き方

22top.jpg

「働き方改革」と叫ばれて久しい中、自身のキャリアを見つめ直し、副業や兼業、起業・独立といった新たな働き方を模索する人が年々増えています。こうした働き手の多様化するニーズを叶える受け皿として、双日は2021年3月、ジョブ型雇用の新会社「双日プロフェッショナルシェア」(以下、SPS)を設立しました。今回は、SPSの第1号にあたる遠田和彰さんの1日に密着。そこには新しい働き方が生み出す、ポジティブな変化がありました。

Photograph_Masayuki Nakaya
Text_Miwa Kinoshita
Edit_Shota Kato

いままでの業務を継続しながら、副業・起業を可能に

働く場所や時間、雇用体系など、これまで当たり前だった働き方や仕事に対する価値観に大きな変化の波が押し寄せている現在。「これから、どう働きたいのか?」という問いは、働き手だけではなく、企業にとっても重要なテーマとなっています。

こうした状況下で立ち上がったSPSは、双日の業務を週2~3日相当継続しながら、それ以外の時間をフリーランスとして副業や起業に挑戦したり、育児や介護、リカレントなど自分の時間に充てたりといった、自由度の高い働き方を可能にする新会社。利用対象は双日でキャリアを重ねてきた35歳以上の社員で、本人の希望によって転籍する形となっています。

また、ジョブ型雇用のため、個々の専門性やスキルをより発揮しやすいというのも特徴のひとつ。双日で習得した経験やスキルを社外にも積極的に提供することが、本人のキャリアアップとなり、ゆくゆくは外部での業務経験を通して得た新たな着想やアイデアを双日に還元することが双日全体の企業価値向上につながっていくという未来図を描いています。
 

22_001.jpg

自分だけの経験とスキルで、世の中に貢献したい

SPSが新設されて真っ先に手を挙げたのが、人事部に所属していた遠田和彰さん。2003年にニチメン(双日の前身会社のひとつ)に入社以来、14年間の営業と5年間の人事を経験。その間には北京大学への語学留学をはじめ、中小企業診断士やキャリアコンサルタントの資格を取得するなど、都度自身のスキルアップを図ってきました。

22_002.jpg

そんな遠田さんが自分の専門性やスキルを軸に働きたいと思うようになったきっかけは、人事部で新卒採用や社員の異動に関わったことでした。「自分自身はこれから双日でどう働き、どう生きたいのか?」を強く意識するようになったと振り返ります。

「学生たちに将来のビジョンや仕事のやりがいを尋ねていくうちに、それが自分への問いとして返ってきて、自問自答する日々でした。それで浮かび上がってきたのが、人生の次のステップでは、もっと自分の視野や活動範囲を広げたい、双日のみならず、社会全体に貢献したいという気持ちだったんです。入社以来20年近く働いてきた双日には、もちろん思い入れがありますし、引き続き携わっていきたい。そんな、ともすれば相反する希望を抱いていた時にSPSという選択肢ができたんです。『SPSこそは自分のやりたいことが両立できる場所だ』と、迷わず転籍を希望しました」(遠田さん)

2021年7月にSPSに転籍した遠田さんは、双日に出向する形で人事部の業務を継続。それと並行して、中小企業に対する経営・人事コンサルタントと、私立大学でキャリアデザイン授業の非常勤講師を務めるなど、まさにパラレルワークを実践しています。そのうちのひとつで、現在進行形のプロジェクトとして動いているのが、岩手県平泉町に本社を構える和洋菓子の製造・販売会社「千葉恵製菓(ちばけいせいか)」の経営コンサルティングです。

昨年末、ビジネス副業人材のマッチングサービスで人材を募集していた岩手銀行のコンサルティング会社「いわぎんリサーチ&コンサルティング」を通じ関わるようになったという、このプロジェクト。縁もゆかりもない地域の企業で、どのように関係性を築き、業務に携わっているのか。現地に赴く遠田さんに同行し、千葉恵製菓の本社を訪ねました。
 

22_003.jpg
遠田さんは週4日7時30分から13時30分まで双日人事部の業務、それ以外の時間は他社での業務を行いパラレルワーカーとして活動している。

どうしてウチのサポートを? 何か企んでいるんじゃないか?!

22_004.jpg
創業以来愛されている千葉恵製菓の名物のひとつ、揚げドーナツ。

千葉恵製菓は、昭和37年に初代社長があぶら麩や揚げドーナツをリヤカーで販売したことに始まり、以来60余年、東北地域に密着したお菓子づくりと販売を行っている和洋菓子メーカーです。ほっとするおいしさ、手頃な価格で買えるお菓子として、地元を中心に広く親しまれています。しかしその一方で、同社の千葉正利社長と佐藤均工場長・本部長は今後の経営に危機感を抱いていました。

22_005.jpg
千葉恵製菓の菓子づくりを支える自社工場。写真は一関工場の様子。平泉本社にも工場を構える。

「私たちの商売は9割が東北6県のスーパーやコンビニ向け。ところが、東北6県を合わせた全人口って、東京都民はもとより神奈川県民よりも少ないほど。ここ何年も人口流出が続いているんです。だから、これまで通りに東北だけで販売したところで先細りの一途。そこで、これまでの事業戦略の見直しをサポートしてくれる人がいないかと、長年お付き合いのある岩手銀行さんに相談したところ、遠田さんを紹介してもらったんです」(千葉社長)

「私たちは"中小企業診断士の資格を持った経営コンサルタント"として紹介してもらったので、初めてお話させていただいた時、双日に在籍している方だと知って驚きました。これは遠田さんにはじめて伝えることですが、その後しばらくは頭の片隅で『なんであの大企業の人がウチのような零細企業のサポートを?』と思っていましたし、ウチの専務も『何か別に企んでいるんじゃないのか!?』と疑っていましたから(笑)」(佐藤工場長・本部長)

「そうだったんですね(笑)。でも確かに、最初の入口が双日に在籍している私か、個人の経営コンサルタントである私かによって、関わり方は大きく変わってきますよね。双日社員であれば会社員としての意思が働いて、上司に稟議を通さなければ、利益はあがるのか......となる。その意味でも、このプロジェクトは私一人がただ千葉恵製菓さんのことだけを考えて動けばいいので、ダイレクトにお付き合いができているという実感があります」(遠田さん)

22_006.jpg
千葉恵製菓の千葉社長(右奥)と佐藤工場長・本部長(右前)。遠田さんに抱いていた疑念を明かすフランクなコミュニケーションからも、距離の近い関係性が垣間見える。

2021年末の初顔合わせ以来、オンライン会議を中心にリモートで打ち合わせを重ねてきた両者。遠田さんが任された当初のミッションは事業戦略の見直しでしたが、現在は新たな販路開拓や商品計画の相談も受けているといいます。

「東京と岩手で離れていても、画面越しに遠田さんの人柄が伝わってきたし、なにより私たちが持っていないモノの見方や、俯瞰した商売の考え方を持っています。何気ない会話の中でも視野を広げてもらっているなと感じますね。これから形にしていく新商品も遠田さんの助言からアイデアが生まれ、発売に向けて動き始めました。個別の事業だけでなく、いろいろな決断事項やこれから当社が向かうべき方向性といった経営戦略を一緒に考えていけるパートナーだと思っています」(千葉社長)

「コロナ禍以降、世の中が目まぐるしく変化して、お菓子の市場もトレンドや求められるものが日々変わっています。そうした時代を先読みして、次に何をつくってどこに売るかというのが、私たちの一番不得手なところ。その弱点を遠田さんが助けてくれるのはとてもありがたいです」(佐藤工場長・本部長)

「そう言っていただけるのは、とてもうれしいです。私も千葉恵製菓さんのお菓子づくりに対する熱い想いを感じたからこそ、どうにか役に立ちたいという気持ちが強くなっていきました。地元のお客さまに笑顔になれるお菓子を届けたいという真摯な気持ちと同時に、新しいことにもチャレンジしなければという危機感や積極性を併せ持っている。そこに確かなポテンシャルを感じています」(遠田さん)

22_007.jpg
地元の土産物として販売されている商品、「かりんとうまんじゅう」。蒸して揚げたサクッとした饅頭の食感が好評を得ている。

自分は誰に対して、どんな価値を生み出せるのか

22_008.jpg
伝統的な練り菓子も千葉恵製菓の得意とするところ。繊細な手技を駆使して、ユニークかつカラフルな菓子づくりにも挑戦している。

まだ詳細は公にはできませんが、遠田さんが携わって千葉恵製菓が開発している新商品は、同社の強みである"揚げもの"をいかしたお菓子です。現在、遠田さんはその商品を製造するにあたって、どのような商品のコンセプトにするか、どんな設備を入れるべきか、どのような営業戦略を描くか、どんな販売方法・パッケージデザインをしていくのかといった提案を進めているところにあります。

「双日で蓄積してきた経験とノウハウをフルに活かして、自分にしかできない提案や関わり方で千葉恵製菓さんのお役に立ちたい。その一心ですね。自分が頑張った分だけ何らかの形になって、そこで成果が出たら取引先の皆さんと一緒に喜びを分かち合える。それが本当にやりがいなんです」(遠田さん)

22_009.jpg

双日という看板を掲げない。双日というネームバリューやブランドに頼らない。自らのスキルと経験を軸にしたパラレルワーカーとして活動し始めて約1年。遠田さんの中にこれまでとは異なるやりがいと、仕事へ向かう気持ちの変化が芽生えました。

「今後は双日や社外企業の価値向上に貢献するのはもちろん、これまでの経験や副業で得た知見を活かして、社会で柔軟に活躍したい人材を活かす活動や、地方と都市を結び付けてもっと元気にするような地方創生ビジネスにもチャレンジしていきたいですね」(遠田さん)

副業・兼業・起業・独立など、働き方を柔軟に選んでいける世の中になりつつあります。終身雇用や転職なども含めて大切なこと。それは、ただ盲目的に業務をこなすのではなく、「自分は誰に対して、どんな価値を生み出せるのか」という軸をつくることです。遠田さんが実践している働き方は、まさにそれを物語っています。

あなただからできること、誰かの役に立てることは何ですか? それを追求した先にきっと、あなたにベストな働き方が見つかるはず。

22_010.jpg

INFORMATION

双日プロフェッショナルシェア

35歳以上の希望する社員のやりたいことを支援するキャリアプラットフォームとして設立したジョブ型雇用の新会社。多様なキャリアの選択肢のためにも70歳定年、就業時間・場所の制限無し、副業・起業可能とする新たなキャリアパスを創り出している。新会社に移籍する社員が、双日で培ったスキル・経験を社内外で活かして価値を提供することが可能となる仕組み。

/jinzai/jp/challenge/sps/


有限会社千葉恵製菓

岩手県西磐井郡平泉町平泉字佐野原59-3
https://chibakei.co.jp/

PROFILE

遠田和彰

双日プロフェッショナルシェア株式会社 / 中小企業診断士 / キャリアコンサルタント

北海道出身。2003年大阪大学人間科学部卒業後、ニチメンに入社。営業、人事を経験し、2021年7月に双日プロフェッショナルシェア(SPS)に転籍。週4日の双日業務と並行して、経営・人事コンサルタント(中小企業診断士)、キャリアコンサルタントとしてこれまで中小企業6社の仕事と私立大学の非常勤講師として活動している。

Share This

  • Twitter
  • Facebook

おすすめ記事