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2022.08.19 UP

平等と公平。スプツニ子!と語る、女性活躍の先にあるグローバルスタンダードなイノベーション

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テクノロジーとアートを融合させた作品づくりで世界的な活躍を続けるスプツニ子!さん。高い発信力で次世代のスポークスパーソンとしても注目を集める彼女は、アーティスト活動の一方、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進を支援するサービス「Cradle(クレードル)」を手がけ、多様性を強みに活かせる組織づくりの実現をサポートしています。実際にCradleを導入する双日社長・藤本昌義との対談を通して、女性活躍の推進や多様性の尊重から期待される展望が見えてきました。

Photograph_Wataru Yanase (UpperCrust)
Text_Hayato Narahara
Edit_Keisuke Tajiri

女性社員割合の増加でわかってきたこと

スプツニ子!:私は普段、いろんな企業やイベントで社長や役員の方々と対談をさせていただきますが、個々人の多様性を尊重して活かしていく、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の動きが加速しているのを実感します。双日もD&Iに向けていろんな制度に取り組まれていますよね。

藤本:私が2017年に社長になった前後から、女性の新卒総合職の採用割合30%以上を続け、今は20代の社員549人の約47%が女性という構成になっています。

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スプツニ子!:女性の採用比率をあげていったのには、どんな経緯があったのでしょう?

藤本:たとえば当社と上位5商社で内定がかぶったとしても、女性の方が企業規模やネームバリューよりも、事業内容や企業風土、働く環境に共感して就職する方が比較的多く、そういった考えを持つ方々を大切にするために女性を積極的に採用しています。

スプツニ子!:なるほど。私も大学で優秀な女子学生たちと話す機会が多いですが、たしかに自分の価値観に合っているか、働きやすいかどうかをすごく見ていると感じますね。それに、女性の働きやすさに与している企業は、性差に限らず多様なバックグラウンドを持っている人たちに理解があると思います。

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たとえば、ちゃんと育休を取りたいと思っているようなミレニアル世代の男性も、そうしたポイントに注目しているんじゃないかなと。時代の要請にいち早く対応できる企業は、社会にグローバルスタンダードなイノベーションを起こせると思うので、これからの社会で大切なことだと思います。

仕事の方がラク? 理解されにくい育児の大変さ

藤本:もうひとつですね、私は1985年にアメリカに駐在していたのですが、現地で妻が出産をしました。昼間は会社や出張に行ったりしつつも、土日は自分が子どもの世話することも多く、子どもの夜泣きとかも経験して思うのは、子育ては本当に大変だということ。むしろ会社に行っている方がラクだと感じていました。なので、仕事の方が大変というのは育児をやったことない人の意見なのではないかと。

スプツニ子!:本当、仕事の方がラクです。私も今子どもを保育園に預けて来ていますけど、ひと息つけているなーって感じながら話していますから(笑)。最近、「育休」ではなく「育業」という呼び方も出てきましたが、まさに育児は休んでないよねっていう感じです。

藤本:双日は育休取得率が80%まで来ていて、一般的にも取得率はあがってきていると思いますが、育休といって数日だけ休むことがあったりします。それではダメで、半年ぐらい休んだほうがいい。育児と家事の大変さって、それくらいやってようやくわかってくるじゃないですか。

スプツニ子!:たしかに。たとえば男性社員が昇進して部下をたくさんチームで抱えたときに、出産や育児を経験する人たちがどんなふうに過ごすのかというのを理解する上でも、男性も育休を取るのは必要なことだなって思いますね。

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多くの双日社員がオーディエンスとして参加

あと知らない方も多いんですけど、私の場合は行政のベビーシッターサービスも利用させていただいたりもしました。私が住んでいるところだと、生後3ヶ月以降で待機児童になると保育園と同じ料金でフルタイムのベビーシッターを派遣してくれるんです。責任感から「自分でやらなきゃ」と抱え込んでしまい、育児へのハードルを高くしてしまう方も多いので、社会全体として支えられるようなカルチャーがもっと認知されるのも大事ですね。

ちなみに藤本社長と打ち合わせしたときに、すごい勉強されてるなと感心してしまったのが、アイスランドでの女性たちの育休についてのデモや、ジェンダー関連の歴史にもすごく詳しいですよね。やはりアメリカでの経験が大きいのでしょうか?

藤本:そうですね。ちなみにアイスランドのデモは母親革命のことですね。1970年代にアイスランドの母親たちが全国規模で1ヶ月くらい労働ストライキを起こしたことをきっかけに国の制度が整備され、現在は妻が半年産休したら夫も半年育休を取ることが義務化されています。

日本もそこまでやらなくてはいけないと本当に思いますが、大企業の管理職は育休をあまり取ってこなかった世代です。だから、たとえ会社の中で制度が整備されても、形骸化されてしまうケースも少なくないので、管理職の人たちにこそ理解を深めてほしいですね。

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女性の昇進を妨げるのは「謙虚であることの美徳」?

スプツニ子!:本当にそうですね。あとこういう制度の運用でよく感じるのが、男性だけではなく女性自身へのマインドセットも重要だなと思っていて。たとえば、女性って自分自身の能力を低く見積る傾向がある気がしています。120%ぐらいできないと、なぜか「私にはできないかもしれません!」と。

興味深い論文が出ていて、とある会社での人材募集の際に、たとえばエクセルが使えるとか、プログラミングができるとか、男性はそれを8割ぐらいできると応募しようと思うらしいんですよ。でも女性はそれを100%できないと応募しようと思わない、できないから応募はやめようと思ってしまうようで。

藤本:たしかに、謙虚で「私にはできません」という控えめな方もいますね。

スプツニ子!:どうやらそれは、子どものころからの社会的な暗示や、自信を削がれるような経験をしてきたことによるもので、そのせいで昇進や出世することを嫌がってしまうケースもあります。いわゆるアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)の問題ですね。

たとえば女性は謙虚でないと嫌われやすいというのは、アメリカの「ハイディ・ハワード実験」という研究データでも示されていて。リーダーシップを発揮したり、スケールの大きいビジョンを持ったりするのが女性であるだけで偏見を受けやすいんです。

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藤本:上昇意欲のある人にはもっともっとチャンスを与えてあげてほしいし、積極性を妨げてしまうような事態は避けなくちゃいけない。こうした知見を社会全体に根付かせていくのが本当に難しいなと思っています。

スプツニ子!:女性はこういったアンコンシャス・バイアスを身に沁みて感じているから、自己防衛しちゃっていると思うんですよね。ここで私が出世したら、リーダーになったら、誰かに疎まれるかもしれない、みたいな。「出る杭打たれないか」みたいに思っている女性たちの気持ちを配慮して、ちゃんとヒアリングしてあげる、あなたならできるよと背中を押してあげるのが本当に大事だと思います。

必要なのは、「平等」ではなく「公平」な視点

藤本:そうですね、やはり後押しするのが大切。それは制度や運用面の整備でも同じで。アメリカではアフリカ系アメリカ人が社会進出できなかった時代に公民権運動があって、その後にいわゆる「5分の4ルール」として、採用や昇進における人種・性別等の構成ギャップは20%以内に収めなさいっていうのが出来ました。

そのおかげで今は誰もが能力を発揮できるような仕組みになってきている。だけど最初は構造的な問題があったことを考えると、環境面からのアシストは必要だと思います。

特に当社は20代社員の半数が女性ですので、男女問わず働き続けられる、続けたいと思える環境を根付かせないと会社が続いていかない。

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Equality(平等)とEquity(公平)の違い "Illustrating Equality VS Equity" by Angus Maguire

スプツニ子!:女性を特別扱いするのは平等じゃない、男性への逆差別だ!という議論も散見しますが、イコーリティ(平等)とエクイティ(公平)の違いなんですよね。もともとあった構造的な偏りを是正するために、まずは平等さではなく公平さが肝要だという問題意識が生じないと、悪気なく無自覚になりやすいものだと思います。

たとえば女性は出産すると、2万トンぐらいの引力で育児に足を引っ張られている感覚になる(笑)。それだけじゃなくて、生理や更年期のことでも悩んでいる。でもわざわざ男性に「私、生理と更年期で悩んでいるんです」って言わないじゃないですか。そういった気づこうとしなければ気づけないことがあるのを知るのが、まずスタートだなと思うので。

藤本:そうなんですよね。実はね、うちの会社も生理休暇制度ってあるんですよ。だけど取る人がいないんですよ。

スプツニ子!:そう、やっぱり結構大変みたいです。「F休暇」っていう名前にして、取得しやすくしている会社もありますね。「女性全般の休み」としないと取りづらいですよね。

藤本:それもやはり運用の問題で、私たちも考えていかなくてはいけない課題です。そういった環境整備やエクイティへの理解の浸透が、事業の多様化にもつながり、「双日らしさ」になっていくかもしれない。

スプツニ子!:そういった意味で、双日さんはビジョンを持って積極的に動いてるなと感じるんですけど、今後どんな組織、会社にしていこうと考えられているのでしょうか。

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藤本:双日は女性活躍では一歩進んでいると自負しています。制度的にはね。その上で、今後は他社でも課題とされる運用面においても、私たちがその壁を最初にぶち破っていこうと。たとえば2030年、女性がより活躍できる社会になったら、双日は総合商社の中で一番になれるかもしれない。そういうふうに思っています。

スプツニ子!:ありがとうございます。多様性の時代をチャンスとして捉えるという意味ですよね。私も話していてすごく体感するのが、ひと足ふた足抜けてD&Iに取り組んでいらっしゃるので、本当にグローバルなイノベーションにつながると思います。真に多様性の尊重されるような組織をつくれたら、という思いに共感していますし、応援しています。

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PROFILE

スプツニ子!

スプツニ子!

MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボ助教授、東京大学大学院特任准教授を経て、現在、東京藝術大学美術学部デザイン科准教授。2019年よりTEDフェロー、2017年より世界経済フォーラム「ヤング・グローバル・リーダー」選出。第11回「ロレアル‐ユネスコ女性科学者 日本特別賞」、「Vogue Woman of the Year」、日本版ニューズウィーク「世界が尊敬する日本人100」 選出等受賞。2019年、株式会社Cradleを設立、代表取締役社長就任。

藤本昌義

藤本昌義

1958年生まれ、福岡県出身。1981年、東京大学法学部卒業後、日商岩井に入社。アメリカ、ポーランド、ベネズエラへの赴任を経て2012年、双日米国会社兼米州機械部門長に就任。その後執行役員などを経て、2017年に代表取締役社長に就任した。

アンコンシャス・バイアス ダイバーシティ 働き方 学び 組織づくり

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