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2022.03.31 UP

色とかたちを探す、新しい空の旅

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日本全国各地の観光名所や絶景ポイントを空から楽しみたい。気軽な空の旅を叶えたサービスがヘリコプターによる遊覧飛行です。移り変わる都市と自然のグラデーション。その中にあるさまざまな風光明媚な景色。そんな私たちを心躍らせる普遍的な美しさを写真家が捉えたら。気鋭の写真家・安藤瑠美さんとともに「色」と「かたち」を探す空の旅に繰り出しました。

Photograph_Rumi Ando
Text / Edit_Shota Kato

ワクワクする未来は空のモビリティから広がる

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ドローンの活用や宇宙旅行が身近になってきた現代。近い将来には空飛ぶ車の開発と実用化が注目されています。新たな空のモビリティの構想によって空の利活用に期待が高まっていますが、それでも私たちにとって空の時間は特別な体験です。

全国各地の観光名所や絶景ポイントを空から楽しみたい。そんな要望に応えたサービスがヘリコプターによる遊覧飛行です。遊覧飛行を提供する企業はさまざまありますが、その中でも最先端を走るのが、双日が出資するスタートアップAirX。全国の遊覧飛行プランを手軽に予約ができるプラットフォームを展開しています。

未来における空のモビリティの特徴として、移動時間の短縮が挙げられます。目的地に早く到着できる手段が増えるのは革命的ではあるものの、やはり風光明媚な景色はじっくりと味わいたいものです。空中からひたすらに都市や自然が織りなす美しさに圧倒されるのもいいですが、目を凝らしてみることではじめて出会える都市と自然の魅力があります。そんな空から眺める景色の新しい視点と奥深い世界を伝えるために、ある写真家と空の旅に繰り出しました。

写真で表す、虚構の東京

14_img03.jpg2020年に発表した『TOKYO NUDE』より。

ありのままの無垢の状態でさえ、私たちの琴線を揺さぶる都市と自然の魅力。そんな普遍的な美しさを上空から、しかも、独自の視点をもって被写体と向き合う写真家がとらえると、どんなものに昇華されて私たちの前に表われるのでしょうか。

 安藤瑠美さんは2020年に発表した写真集『TOKYO NUDE』を代表作にもつ気鋭の写真家です。「虚構の東京を写真でつくる」というコンセプトのもと、合成や加工などのレタッチ技術を使って街の「ノイズ」をすべて消し、裸の状態へと変換された東京の街には、心地よさと違和感が混在し、まるでパラレルワールドに迷い込んだかのような感覚を見る人々に覚えさせます。

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広告看板の文字や、ビルの窓、室外機など、人間が生活することで装飾されたノイズとなるような視覚情報をできるだけ除去する。そこに色彩や配色を変え、雲や建築物までも合成する。それによって虚構の風景を生み出す。これは『TOKYO NUDE』のアプローチですが、安藤さんは今回の空撮写真では自身の代表作に通ずる世界観を残しながらも、新たな写真表現の開拓に挑戦しました。

都市と自然、色とかたちが織りなす無国籍感

今回の撮影におけるテーマ、それは「都市と自然に潜む色とかたち」です。冒頭でも綴ったように、空からの眺めの醍醐味は地上の目線とは異なる非日常感にあります。目の前に広がる絶景に思わずため息が漏れますが、風景の一部分やそれを構成する要素に着目してみることで、これまで見えなかったものが浮き彫りになってきます。それがテーマに含まれている「色」と「かたち」なのです。

 安藤さんと繰り出したのは、東京から神奈川、富士山を往復する都市と自然のグラデーションを味わう空の旅です。

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都会のビル群や高速道路が織りなすグラフィカルな直線、郊外に密集する集合住宅の屋根のカラーパターン、田畑が構成する自然の美しいグリッド、工場地帯に大量に並ぶ重機やタンクが醸し出すインダストリアル感......。それらを効果的にトリミング、レタッチすることで、日本という地でありながらも、どこか無国籍感が漂っています。そこに混在する心地よさと違和感は、安藤さんならではの作品。私たちが生きる世界と同時に存在するパラレルワールドのような感覚をもたらす作品は、Web上に数多く存在する空撮・航空写真と一線を画するものに仕上がりました。安藤さんは一連の写真について次のように語ります。

 「空撮写真といえばワイドビューが一般的ですが、もっと何かのポイントに寄った視点から場所や人、コミュニティにフォーカスする感覚で撮影しました。はじめてヘリコプターからレンズを覗き込んでみて、散歩している人やサーフィンしている人などを見つけるたびに愛おしさが湧いて、穏やかな気持ちになりました。

 『TOKYO NUDE』は違和感を意識した作品シリーズですが、今回の引いた写真では、看板などのディテールを消す演出は効果的ではなさそうだなと感じたんですね。それに、遥か上空からの撮影ということで、風景の色合いが弱くなってしまう。建物や自然の配色は変えず、コントラストや色味をはっきりと立ち上げて、おもちゃ箱をひっくり返したような街に見せたいと思いながら写真をセレクトしました。今回の写真は名前が付かないような偶然出会った風景ばかりなので、抽象的なタイトルを置きたくなる。そこに一番の意味があると思いますし、写真の良さ、都市や自然の魅力を再発見したような喜びを実感しています」

空の移動をもっと身近に変えていくAirX

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日本はヘリポート数が世界トップクラスであるにもかかわらず、規制などにより多くが有効活用されていません。今後は、電動の垂直離着陸機(eVTOL)をはじめとする「空飛ぶクルマ」の事業化を見据えた規制緩和が進められていくとともに、移動の利便性の認知やコロナ禍における集団移動を避けた移動手段としてヘリコプター需要が増大すると予想されています。

 AirXはヘリコプターの遊休機の活用をはじめ、新しい予約プラットフォームの開発などによって、遊覧飛行の予約に要する時間が長い・高価格といった課題を解決し、これまでなじみが薄かったヘリコプター移動の普及に貢献しています。その結果、自動車の約4分の1の移動所要時間と従来のヘリコプターサービスの約10分の1の利用料金を実現しました。

 AirXのWebサイト上では、10種類以上の遊覧飛行プランが展開されています。特徴は東京や大阪といった主要都市だけでなく、宿泊施設や商業施設とのコラボレーションを積極的に行うことで、御殿場プレミアム・アウトレットなどにもヘリポートを開設してきました。これから空き地活用を通じて、将来的なeVTOLの活用を見据えた地方のヘリポートをさらに増やしていくといいます。

 今回の撮影が終わった後、パイロットから「空から眺める地上に、ここまでさまざまな色や形があるとは思いませんでした。遊覧飛行の新しい醍醐味を知りました。お客様に案内したくなりますね」と、ヘリコプターに乗り慣れていても新鮮な発見を得られる機会になったというコメントがありました。これから、空の移動はもっと身近になっていきますが、新しいモビリティ文化が生まれようとしている今だからこそ、ひと味違った遊覧飛行体験を楽しみ、特別な眺めを記憶に焼き付けてください。

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