HomeSpecial母として、副社長として、 日本とベトナムをしなやかに渡りあう

Vol.06

これまでも、これからも、ベトナムと共に

2023.11.02 UP

母として、副社長として、
日本とベトナムをしなやかに渡りあう

vietnam4_01.jpgベトナムには世界中の国々から日本で働くことを選び、そこで培った経験を故郷のために還元している人たちがいます。双日に入社し、現在、出向先である工業団地の開発運営会社の副社長を務めるチャン・ティ・トゥ・フォンもその一人。日本の大学へ留学してから10年以上の日本での暮らしを経て、久しぶりに暮らす故郷ベトナムで何を想い働いているのでしょうか。「仕事が大好き」と真っ直ぐに話すチャンに、文化が異なる国での困難の乗り越え方や、仕事をする上で大切にしていることについて聞きました。

Photograph_Takuya Nagamine
Text_Tami Ono
Edit_Shota Kato

異国でのビジネスがうまくいくように、工業団地の縁の下の力持ちとして

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ホーチミン中心部から40km離れたドンナイ省ロンタン地区。東京ディズニーランド6個分ほどの広大な敷地に、さまざまな企業のロゴがついた建物が並んでいます。2013年、双日が大和ハウス工業、神鋼環境ソリューションとローカルパートナーとともに開業したロンドウック工業団地には、日系の製造業を中心に約70社が入居。それらの企業が安心して生産活動に集中できるよう、きめ細かなサポートを行っています。

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この工業団地の開発運営会社で副社長を務めるのが、チャン・ティ・トゥ・フォン。広大な工業団地内を案内してもらいました。まずは、オフィスであるサービスセンターの前を真っ直ぐ伸びるメイン道路から出発です。その距離はなんと2.3kmにも及びます。この道路では毎年入居企業対抗の駅伝大会が開かれ、大変な盛り上がりに。また、月に1度は、入居企業の代表が一同に会する全体会議を行うほか、度々企業間交流の機会もあるのです。

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電気やガス、上水の供給施設など、工業団地内のインフラを24時間監視。停電などにより、工場を安定的に稼働するには心配な面もあるベトナムのインフラ事情において、ロンドウック工業団地は日系企業の高いクオリティでの運営体制があり、入居企業が安心して事業に専念できるように運営されている。

手際よく工業団地内の見学をコーディネートし、流暢な日本語で案内してくれたチャン。入社した2012年からロンドウック工業団地の設立準備に携わり、以来ずっと、この場所の変化を見守ってきました。

「日本の大学に留学して、都市環境工学を勉強していました。入社してから知りましたが、双日が工業団地の事業を進めるうえで、私の専攻が活かせると期待していただいたみたいです」

彼女のルーツと学んできたことは、現在の仕事内容と重なりますが、双日を知ったのは「たまたま」。とはいえ、持ち前の前向きさが導いた出会いだったようです。

「私の出身大学では理系の留学生は、ほぼみんな大学院に進んでから、メーカーに就職していたんです。私は勉強も好きだけれど、社会活動としてアルバイトに一生懸命な学生時代を送っていました。だから、大学院に進学するとしても、社会を知るために会社説明会には行ってみようと思って。

合同説明会で双日の会社紹介を聞いたら、泣きそうなくらい共感を覚えたんです。若くて純粋だったのもあるんですけど(笑)。ここに就職するためにがんばろう、と、周りの友人とは違う道を選ぶことにしました。いろいろな面接官と話し合うなかでも感化されて、そのたびに双日を好きになっていきました」

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めでたく入社が叶って配属されたのが、工業団地担当の部署。すでに1996年に開業していたドンナイ省ビエンホア市にあるロテコ工業団地の管理と、翌年にオープンを控えたロンドウック工業団地の準備に追われていました。

「ベトナムにロンドウック工業団地のプロジェクト会社ができたばかりで、日本からの事業会社の管理と、企業に工業団地に入居してもらうための営業が主な仕事でした。営業先は日本企業なので、日本国内での仕事が中心でした。関わっているプロジェクトが軌道に乗ったタイミングで子どもを授かり、2015年の10月に半年間の産休に入りました」

「日本社会のなかで働くのが好き」と言い、学生時代には10種以上のアルバイトを経験したというチャン。異文化のなかで働く困難やカルチャーショックを、どうやって解消しているかが気になります。

「それがですね......。私はずいぶん変わっているタイプみたいなんですよ。最初から大変なことを前提にしていて、覚悟しすぎているから、結局あまり苦労を感じないのが正直なところなんです(笑)。強いて大変だったことといえば、仕事が楽しくてがんばりすぎちゃったことはあったかな。丈夫で病気もあまりしないタイプだからこそ、無理をしないように気をつけなくちゃと思っています」

彼女の物事の捉えかたなら、妊娠や出産、そして子育てといっためまぐるしい変化の只中にあっても、覚悟の上で軽やかに乗り越えていったのでしょう。そして、半年間の産休を経て復帰した先で、新しいプロジェクトチームが立ち上がることになりました。

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新卒入社して3年ほどは会社のアウトドア部に所属して山登りにもよく行っていたそう。「子どもが生まれてからは、保育園のママ友や同僚などとホームパーティーをしたり、キャンプに行ったりしたのも日本のいい思い出です」。

日本でできること、ベトナムでしかできないこと

チャンが育休から復帰した2016年4月の段階でロンドウック工業団地の販売は軌道に乗っていました。そこで、新しい収益の柱をつくる目的から、プロジェクトチームが発足しました。当時のメンバーはチャンを合わせて4人。東南アジアを対象に、新規事業の候補プロジェクトの検討が主な業務でした。

「さまざまな新規ビジネスプランをつくって、採算性を検証していく作業を3年くらい続けていました。そして2019年8月、ベトナムに行って達成すべきミッションができて、まずは研修を受けるトレーニーとして赴任することになったんです。ミッションというのは工業団地の開発です。たくさんの土地を必要とするし、調整する機関も多いので、現地でなければできないことがたくさんあります。2020年からは正式な駐在員になり、ロンドウック工業団地の副社長として開発・管理業務を行っています。」

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17時を過ぎると工業団地内の道路は帰宅ラッシュで慌ただしくなる。たくさんのバイクが過ぎていく様子はホーチミンの街中さながら。

ロンドウック工業団地の管理業務は、ベトナム人スタッフを含めて60人弱の体制で行っています。約70社の入居企業の多くは日系企業。日本とは異なる商習慣や言語の壁に、各企業で対処するのはなかなか大変です。そこで、チャンを含むサービスセンターのスタッフが、現地で生じる問題やミスコミュニケーションについて、相談を受け解決をサポートするのです。

「異なる文化のなかで仕事をしていると、日本だったら一度で通じる話も、3,4回やりとりしなくていけないことだってあります。お客さまである企業は、せっかくベトナムに投資してくださっているので、本業に専念し、成功していただきたい。だから、現地の関係機関との手続きなど、こちらで肩代わりできることは任せてもらっています。

100%完璧に円満に、というのは無理だとしても、私たちが力添えしてトラブルを解決したり、業務がスムーズに運ぶお手伝いができると嬉しいんです。そういう役割としてとても信頼してくださっているのは、仕事の大きなモチベーションになっています」

一方、新規事業開発では、さまざまな行政機関をはじめとして、膨大な関係各所へのプロモーション、交渉などが続きます。その現場は、ときにはとてもタフなもの。相手の立場も尊重しつつ、「双日で教わった商社の仕事のやり方が役に立っています」とチャンは言います。

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屋台
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チャンのベトナムでの息抜きは、週末に家族や友達とブランチに行くこと。「ベトナムは朝ごはんの時間からやっている店が多いんです。カフェでのんびりして、午後は子どもの習い事に付き合うことが多いですね」(上)。ベトナムでは朝6時台から食堂や屋台が多くの人たちで賑わっている。フォーにバインミー、カラフルなフルーツなどが並び、その日常の風景はベトナムの食文化を物語っている。(下)

異なる文化のなかで、しなやかに渡り合うための秘訣

チャンが担当している、新規の工業団地をつくり、入居企業を募っていく業務。もっとも難しさを感じるのは、土地利用やさまざまな業務を行うための許認可を、関係機関から得ること。そのプロセスがなかなか進まずに、開発がこう着状態になりかけたこともあるそうです。

「ローカル企業と日系企業、どちらのやり方でも難しいこともあるんです。私がいつも心がけているのは、いかに相手に共感してもらうか。セオリーやマニュアルには反映できない部分で、自分たちの良さや社会へ貢献できることをちゃんと伝えていく必要があります。と言いつつも、ケースバイケースで成功するためにできることは違うので、共感してもらうのは前提として、毎回試行錯誤していますね」

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それぞれの立場に立ったハートフルな彼女のコミュニケーションは、困難な状況に風穴を開けてきました。

「ありがたいのは、私が13年間日本で暮らしていたことで得られる信頼があること。『日本の旅行先はどこがいい?』なんて雑談がいい入り口になることもあるんですよ。ビジネスの判断でも、日本でしばらく働いていた経験があったからこそわかることがあると感じます。さらに、長年わたって、双日がベトナムで事業を行ってきたことへの信頼もありますね。日本のことなら双日、と思ってもらえていて、ベトナムでの日本関係のイベントで日本語の司会や通訳を頼まれる機会も、結構あるんです」

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2022年11月、チャンはドンナイ省人民委員会と経済産業省 近畿経済産業局主催のビジネスマッチングイベントにて日本語の司会を担当。写真は当日のチャン。

わたしも仲間も、一番輝ける場所を探したい

チャンのベトナム駐在の任期は4年で、残りはあと1年ほどの予定。日本に戻ったら......と今後を考える機会も増えているようです。

「どんな仕事をするにしても、私がチームに参加することによって、組織全体の成果を最大化することをいつも目指しています。その軸を大切にして、どこにいてどういう配属ならそれが叶うのか、上司と相談しています。副社長という管理職のポジションにやりがいを感じているので、また役職に就きたい想いはあります。

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管理職の仕事は、従業員一人ひとりの個性と能力をしっかり見て、可能性を最大限生かせるようにチャンスを与えること。本人もハッピーになるし、組織にとっても成果があがる。そんな仕事ができるのは、すごくモチベーションが上がります」

自分を最大限に生かせる場所。その軸さえぶれなければ、チャンはベトナムに関わることはマストではないといいますが、自分の能力と向き合うと、ベトナムに関係する仕事が適職だろうとも考えているそうです。

「双日という企業、ひいていえば日本という国は、すごく大きな器を持っていると強く思います。それをどう生かすかがキーポイントだとすると、ベトナムの事業に関わっていたほうが、ベトナム人である私が力になれることが多いのかな。一度きりの人生ですから、自分が納得いく道を選んで、責任感を持って取り組んでいくしかありません。そうやって頑張っていたら、神様が味方してくれるんじゃないかなと思います」

インタビューの最後を、力強い言葉で締め括ったチャン。目の前で熱を込めて語る彼女は、「人事を尽くして天命を待つ」という言葉の意味を体現していました。目標を定めたのなら、自分のなかで大切にするものを肝に銘じて、精一杯働く。その姿勢を貫いた彼女が、進んでいく未来は、きっと明るいに違いありません。

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INFORMATION

ロンドウック工業団地

ベトナムドンナイ省ロンタイン県ロンドウックに位置する総開発費270haの日系工業団地。Long Duc Investmentが運営。日系企業を中心に約70社が入居し、工業団地としては完売しているが、ベトナムへの進出を検討している企業などに対してレンタル工場のサービスを提供中。

PROFILE

チャン・ティ・トゥ・フォン

Long Duc Investment 副社長 インフラ・ヘルスケア本部 エネルギー・産業インフラ事業部

ベトナム・ナムディン省出身。国費留学制度にて来日し、東京の大学に入学、工学部都市環境工学科卒業。2012年に入社し、本社の工業団地事業主管部(産業・都市基盤開発部、当時)に配属。2019年よりベトナムに赴任し、2020年より現職業務に従事。

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