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Vol.05

DXで変えていく、これまでの“当たり前”

2023.05.24 UP

DX時代に"必要とされる人材"になれていますか?

dx4_top_square.jpg「DX(デジタルトランスフォーメーション)」はいまや世界的なビジネストレンド。2030年の未来を見据えると、デジタル技術の進化による人材の流動化やビジネスの激化が予想され、企業は経営戦略にDX推進を掲げて、競争力を高めようとしています。その中で、企業で働く私たちにはどのようなスキルセット・マインドセットが求められているのでしょうか。双日のデジタル推進第一部の宮脇俊介と、人事部の山谷友美のお二人に話を伺いました。

Illustration_Saki Obata
Photograph_Wataru Yanase (UpperCrust)
Text_Yasuhiro Kaizaki
Edit_Michiru Haga

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デジタル推進第一部の宮脇さん(左)と人事部の山谷さん(右)。

DX人材の育成は経営課題。背景にある危機意識とは?

――はじめに、おふたりの担当業務について教えてください。

宮脇:私が所属するデジタル推進第一部は主にふたつのミッションを持っています。

ひとつは、双日に7つある事業本部の各営業部と連携し、デジタル(データとテクノロジー)によって既存のビジネスモデルを変革し、新たな価値や強みを与えること。そしてもうひとつは、それを実現するために、デジタルソリューションやDX人材など必要なリソースを構築することです。私は主に後者の人材育成を担当していて、人事部の山谷さんと協力しながら育成体制の構築と研修カリキュラムの制作を担当しています。

山谷:私は人事部の人材開発課に所属していて、DX人材育成のほか管理職研修などを担当しています。カリキュラムを作成するだけでなく、研修中・研修後のフォローアップも大切な業務です。学んだことを実際に現場で活かしてもらうことを重視しています。


――双日をはじめ多くの日本企業がDXに取り組むのはなぜですか?

宮脇:BtoC(企業と消費者の間の取引)の業界では、IoTやAIといった新しい技術が次々に生まれてくる中、最先端のデジタル技術を活用する新興企業に、従来の大企業が牽引してきた市場の主導権を奪われるという、いわゆる「デジタル・ディスラプション」が起こりました。映像コンテンツではNetflix、タクシー業界ではUber、ホテル業界ではAirbnbなどが例に挙げられます。それがBtoB(企業間の取引)においても同じことが起こり得るため、多くの企業が改めてデジタルの重要性を痛感したというのが大きな要因の一つだと考えています。そうした危機感があるなかで、双日においても2021年10月末に、日本アイ・ビー・エムで初代CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)を務めた荒川朋美を、双日のCDO(当初は顧問)として招いたことは、ひとりの社員としても弊社の本気度がうかがえる衝撃的な出来事でした。

――DXに取り組む中でもDX人材の育成を重視しているとのことですが、ここに着目された背景を教えてください。

宮脇:「事業や人材を創造し続ける総合商社」という2030年までに双日が目指す姿があり、そのベースとしてデータとテクノロジーを活用できる組織をめざしています。

2021年にCDO室(現在のデジタル推進第一部)が発足されて以来、営業部と一体になってDXを推進し、事業のバリューアップとバリュークリエーションすることをミッションとしています。既存事業の価値をデジタルの力を使って高める、または0を1にする価値創造をしていくということです。一方、総合商社には多種多様な特性や事情を持つ事業があるため、デジタル推進部隊だけで個別に対応していたのでは、事業のスピードに追い付くことができません。ですから、デジタル技術やデータ分析を理解し、私たちと一緒に共創できる人材を各営業本部に配置することが重要であるため、社内におけるDX人材の発掘や育成を加速させるようになりました。

――社外からDX人材を登用する企業も少なくありませんが、社内育成しようとする狙いはどこにあるのでしょうか?

宮脇:これまで総合商社である弊社は、時代の流れやマーケットのニーズに応じて、取り組むべきビジネスの姿・形を柔軟に変えてきました。弊社のDXは、それらにデジタル活用の要素を更に加えることで、顧客のサービス体験を変革していくという取組です。ですから、各事業のビジネスモデルに精通した人材が、強い武器としてデジタルの知識・スキルを身に着けることが非常に重要だと考えています。

山谷:商社以外にも、提案型のサービスを提供する企業は同様の理由で、社員をDX人材として育成しようとするケースが多いと感じます。特定の製品・サービスに縛られず、掛け合わせによって価値を生み出そうとする企業が自社らしいDXをめざすには、まず社内の人材に向き合う必要があるのです。

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デジタル技術は特別ではない――当たり前のツールとしてビジネス変革に役立てることがDX人材のあるべき姿

――双日が考えるDX人材とはどのような人のことでしょうか? 求められるスキルセットやマインドセットを教えてください。

宮脇:まず、マインド面で重要なのは、デジタルに苦手意識を持たず、「特別なものではない」という感覚を持つことです。例えば、スマートフォンは非常に高度なデジタルツールですが、多くの方が何の違和感もなく、様々なアプリを使いこなせていますよね。それと同じように、デジタル技術は課題解決のための手段であり、便利な道具のひとつなのです。

また、DXの「X」はトランスフォーメーションを意味し、「ビジネスモデル変革」に重きを置いています。ですから、従来の商習慣に囚われたり、データやテクノロジーがあるから何かできないかといったプロダクトアウト的な考えでは、新しい発想を生み出すことは困難です。お客さまが困っていることは何なのか、それを解決するために何ができるのか深堀りしていくことが求められます。その手段としてデータやテクノロジーを活用すべきなのです。

スキル面では、企業や業界によっても求められる領域やレベルが様々ですが、総合商社という観点では、まず多種多様な事業のデータを活用してデータドリブンな意思決定を行うため、データ分析のスキルは必須だと思っています。また、弊社は「営業と職能」という大きく2種類の職種でしか分かれていません。ですから、ビジネスモデル変革のためにデジタルサービスを実装するためには、エンジニアなどの高度なIT専門人材というよりは、一人の商社パーソンが幅広いデジタルスキルのエッセンスをバランスよく吸収し、社内外のデジタルパートナーと正しく意思疎通しながら共創する能力が求められます。これこそが、総合商社ならではのDX人材像だと思います。

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――DX人材を育成するために、具体的に取り組んでいる研修カリキュラムや施策の内容を教えてください。

山谷:弊社では、DX人材のレベルを入門、基礎、応用という3段階に体系化しています。応用はさらに応用基礎、エキスパート、ソートリーダーに細分化され、全部で5段階のスキルレベルが設定されています。入門、基礎はデジタルとビジネスの基礎知識を習得することを目的としており、全社員の「共通言語化」することを目指しています。

宮脇:応用レベルは応用基礎とエキスパートから構成されていて、スキル分野はデータ分析とビジネスデザインに分けて行っていきます。研修はほぼハンズオンであり、例えば、人工知能(AI)開発に必須とされるプログラミング言語「Python(パイソン)」を学んだり、ビッグデータの解析のために機械学習のモデリングを行ったりしています。エキスパートは、社内外のパートナーと連携するプロジェクトのリーダーとして活躍し、応用基礎はエキスパートのもとで、デジタル活用の推進を担うイメージです。

最上位のソートリーダーは、双日や業界を代表するリーダーとして後進の人材育成の指導・統括する役割と位置付けています。

山谷:研修のほかには、デジタルスキルを持った学生を対象としたインターンも行っています。デジタルの素養を持った学生を迎え入れることで、より弊社のビジネスにフィットした高度なDX人材を育成していけるのではないかと考えているんです。

宮脇:研修をつくる過程で、弊社が学生に求めるスキルセットや届けたいメッセージも明確になったと思います。特定のプロジェクトへの参加を前提にした、ジョブ型の受け入れも検討が進むようになってきました。

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――一連の取り組みの中で見えてきた成果や課題はありますか?

宮脇:既存の社員の中でDX人材としての素養を持った人材の発掘につながっていることは思わぬ成果でしたね。実は大学時代にプログラミングを勉強していた人や、自分のビジネスに対して、既にデータ分析を行っている人などが、取り組みを進めるなかで会社にすでにいることが明らかになっていったんです。そうした人材を適材適所に配置することで、より大きな成長と活躍が期待できるのではないかと思っています。

山谷:研修プログラムの受講率や到達率などを社内で公開しているのですが、弊社には競争意識や向上心を持った社員が多く、入門・基礎レベルの研修は着実に進んでいますね。

宮脇:一方、課題となっているのは、応用レベルを目指す社員に対する育成時間の確保です。彼らは日頃からたくさんの業務を抱えています。彼らの上長にしてみれば、できるだけ業務に充てる時間を削らないでほしいと思うのは当然のことです。将来的に事業本部に還元される価値を本部長などの経営層に対して丁寧に説明することで、各組織から積極的な人選をしてもらえるようになりました。DX人材の育成を進めていくうえでは、その意義を社内に継続的に発信し、応援・参加してもらう雰囲気をつくっていかなくてはなりません。
ちなみにエキスパートの研修期間は6ヶ月(約150時間)におよぶもので、受講生の中には休日も使って個人ワークをした人もいましたが、参加者から「面白かった、やってよかった」という声が聞けたことが何よりうれしかったですね。参加者のスキルも確実に伸びて、各事業本部でDXを推進する中心的存在になりつつあります。

山谷:今後の課題としては、応用レベルに到達した社員が活躍できる仕組みづくりになっていくでしょう。スキルは身に着けて終わりではなく、しっかり活用することが本来のゴールです。今後応用レベルの人材が増えていくことを考えると、彼らのスキルを存分に発揮できる機会・環境を作ることも大切になってきます。せっかく身に着けたスキルを活かせなければ、かえってモチベーションを低下させかねませんから。スキルアップした人材を監督する管理職に対しても、DX人材と共通言語で議論していくために、研修を通じてデジタルリテラシーを高めてもらう必要があります。

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変化を楽しみ、キャリアを築く――DX人材のその先へ

――企業が求めるDX人材像は、これからテクノロジーの進歩に伴って移り変わっていくかと思います。この先、どんな人材の活躍が期待できると思いますか?

宮脇:日々進化し続けるテクノロジーを継続的に活用していくために、それらに対して「わくわく」や「楽しい」といった感覚が無ければ長続きしないと思います。そのためには、どんなに小さなことでも良いので、学んだこと・出来るようになったことを社内で発信し続けることが大切です。そして、それに対して興味を持ってくれる人が見つかったら、その人を仲間に引き入れて、スキルセットやキャリアデザインについて語り合ってみるのも良いかも知れません。そういった切磋琢磨を楽しんで継続できる人にとっては、これからのキャリアはとても明るいものになると思います。なぜなら、デジタルスキルの重要性の高まりに応じて、いずれは個々人のスキルがより詳細に可視化される時代が到来し、そうなると、働き方も大きく変わってくるからです。

特に日系企業にありがちな「所属組織の中で何となく仕事が割り振られる」という状態が、今後はプロジェクト毎に必要なスキルセットをもった人材が組織横断で選抜されるといったジョブ型雇用に近い世界がやってくるのです。そうした世界をイメージし、自らスキルセットを選択し、学ぶといった積極的な姿勢も求められるのではないでしょうか。

山谷:もちろんこうしたマインドセットを持つことは簡単ではありません。社員の皆さんに、会社からの"やらされ感"やデジタルに対する苦手意識を払拭してもらうようサポートすることが、企業の人事担当にいま求められていることでしょう。もちろんDX人材を育てることがゴールではありません。デジタルはベースにあるものであり、そのうえに、多様性を持ち、自らキャリアを切り開こうとする自立心を持った社員を育てていくことが大事です。人事部としてもデジタルを活用して社員の成長支援に役立てられるようになっていかなくてはなりません。

宮脇:そのためにはDX人材のロールモデルを送り出していくことがとても重要だと思っています。デジタルを活かした働きぶりで評価される人が増えていけば、「自分もああなりたい」と前向きになる人がきっと増えていくはずです。そうしたロールモデルを輩出し、良質な人材循環のドライバー役となることが、私たちのミッションです。

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――企業で働く読者にむけてメッセージをお願いします。

山谷:DX関連スキルの学びを得るだけはなく、活用しようというマインドを持って取り組んで欲しいです。今まで意識していなくても、普段の業務のなかで使えそうだということに気づき、「デジタル」へのハードルが下がることもあると思います。そうすると、苦手意識を持っていたり、自分にはあまり関係ないと捉えている人も取り組みやすくなると思います。

宮脇:テクノロジーの進化が止まることはないでしょう。10年先、20年先も、必要な知識・スキルはアップデートされていきますし、私たちの当たり前も常に変化していきます。そんなときどうすべきなのか、とにかく、まずは気軽に使ってみる、そしてビジネスに応用できないかと考えてみる。こうした繰り返しが学びにつながっていきます。何か新しいものが出てきた時に、なんでも楽しみながら試してみるというマインドがこれから大切になってくると思います。企業において英語で意思疎通できる人のことを「英語人材」というケースは少なくなってきていると思います。それと同じで、いずれはデジタル活用が当たり前となり「DX人材」という言葉自体もなくなるのではないかと思っています。ですから、DXと聞いて自分にあまり関係ないとは思わず、むしろその世界に自分から飛び込んでいき、「わくわく」しながら、自身のキャリアを形成していただきたいですね。

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PROFILE

宮脇 俊介

デジタル推進第一部 デジタル・データ活用推進課

2009年新卒入社。財務部でファイナンス業務を担当、ロンドン駐在を経てデジタル推進第一部に配属。海外でデジタル・ディスラプションを目の当たりにし、日本企業もDXを推進しなくてはならないという危機意識を持ったことがきっかけとなり現職につながった。

山谷 友美

人事部 人材開発課

2012年新卒入社。広報部で双日グループWebサイトの運営やグループ広報誌の制作、双日メキシコ会社化学部で営業を経験した後、人事部に配属。社員・管理職研修のほかに、双日アルムナイ事務局等を担当

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