HomeSpecialユーグレナCEO永田暁彦さんと探る、<br>テクノロジーと商社の「最高の関係」

Vol.05

DXで変えていく、これまでの“当たり前”

2023.04.14 UP

ユーグレナCEO永田暁彦さんと探る、
テクノロジーと商社の「最高の関係」

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「DX」という言葉を聞いたことがありますか? 正しくは「デジタルトランスフォーメーション」。デジタル技術を活用し、生活をより良いものへと変革することを意味します。双日も多岐にわたる既存のビジネスにデジタル技術を結びつけて、総合商社ならではのDXを模索しているところです。

今回は双日の初代CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)としてDXを推進する荒川朋美が、株式会社ユーグレナのCEOである永田暁彦さんと対談。ユーグレナといえば、双日のビジネスジェット事業でバイオ燃料「サステオ」を提供したビジネスパートナー。使用済み食用油や微細藻類ユーグレナを活用した次世代エネルギーでジェット機飛行を成功させたことでも注目を集めるバイオベンチャーです。永田さんはリアルテックファンドの代表としても、日本における研究開発型ベンチャーへの投資環境をつくり出しています。二人の軽快なトークはDXにとどまらず、時代を生きる上での本質を突いた言葉が盛りだくさん。長編インタビューとしてお届けします。

Photograph_Shuhei Tonami
Text_Mitsuhiro Wakayama
Interview_Yuichiro Yamada
Edit_Shota Kato

テクノロジーだけで社会は変わらない、だから「意識」を変える

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永田:荒川さん、どうしてIBMから双日に転職されたんですか?

荒川:前職での職務は、大企業のお客様がほとんどでテクノロジーをお客様のために適切に使うということでした。テクノロジーがどんどんエンジニア中心にシフトする時代となり、エンジニアコミュニティーを創りながらスタートアップの支援もするようになり、テクノロジーをイノベーションの次元で語る永田さんとの出会いは新鮮だったんですね。思い返せば、自分が双日という商社に入りたいと思った理由もそこにあったんです。つまり、テクノロジーでイノベーションを起こしたいと。その導火線に火をつけたのが、永田さんだったというわけです。私のセカンドキャリアを決定づけた方と言っても過言ではないかもです。

永田:うれしいです。転職されたきっかけに僕がいたんですね。僕は世界を変える方法って2つしかないと思っていて。それは「テクノロジー」と「意識の変化」です。

いまでこそ超優秀なエリートたちが集まるようなかっこいいIT企業だって、最初はナードな"陰キャ"の集まりだったのかもしれない。そこにお金と人材が集まる流れをつくったのは、やはり「意識」の変化にほかならなくて。そして意識の変化はルールを変え、ルールが変われば人々の行動が変わり、行動が変われば社会の仕組みが変わっていきます。

荒川:まさに、私が双日に入って最初に直面したハードルは、「意識」でした。テクノロジーでイノベーションを起こすという想いがなかなか伝わらなかった。もちろん、いまでは、双日の経営はテクノロジーへの投資に非常に理解があります。

とはいえ、どれだけの利益がいつまでに上がるのか、その見通しが立たなければ投資はできない。なぜなら、多くのステークホルダーがいるからです。長期的なテクノロジーへの投資と中短期の経営的達成をどう両立していくか、まさに勉強している最中といった感じです。日本の企業はその辺りの経験値が少ないと思います。

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永田:大企業の双日はその屋台骨を支えるだけでもかなり大変なことです。「企業の存続」や「継続的な成長」のためにという視点も当然必要なのはわかります。でも、その題目以上に「パブリックにおける役割」こそ、語られないといけないと思うんです。かつて企業の社会貢献は「儲かったら木を植えましょう」というものでした。それがこれからの時代は「木を植えることで儲けましょう」という発想にシフトしていく。つまり、儲けを得るプロセス自体が世の中を変えていくビジネスじゃないと社会貢献にならないんです。

DXには二通りの文脈があります。一つは、未来に儲けの種を増やしていく側面。もう一つは、企業の社会的意義を高めていく側面。大切なのは後者です。例えば、この事業は子どもに自慢できることなのか、孫の代に価値ある未来を残せるものか。その問いに「イエス」と胸を張って答えられること、自分の仕事はそのためのプロセスなんだという意識を持つことが社会貢献につながるし、ひいては働く人の幸福度を支えるんだと思います。双日のDXは、そういうDXになりそうですか?

荒川:そういうDXにしたいです。総合商社にはデジタル・テクノロジーを組み込むことで、世界を変えるような事業規模と多様なフィールドがある。その中から価値あるものを探し出そうと思ったんですね。

大切なのはテクノロジーを「経験」すること

永田:具体的に双日でどのようなことを実践されようとしているのでしょうか?

荒川:私が双日で最初にやりたいと思ったテクノロジーの活用のひとつが、マグロの養殖事業でした。双日は大手商社として初めてマグロ養殖事業に参入しました。長崎県の鷹島にある半径20メートルほどの生け簀でマグロを養殖しているんですが、実はこの生け簀にマグロが何尾いるか、広くて深い生け簀と濁度のある水質、マグロの遊泳特性があまり知られていなくて、正確に把握できていなかったんですよ。でも、尾数の把握は事業の効率化につながるし、農業など別の事業への展開も可能だから、チャレンジしてみる価値があるなと思ったんです。そこで導入したのが生け簀のデジタルツインでした。

私はこの事業への取り組みは、世界規模におよぶ食の問題にアプローチできると思ったんです。なおかつ、それを「日本発」として打ち出していくことが重要だと考えたんですね。サーモンの養殖はすでにノルウェーなどで技術開発が進んでいます。日本の生け簀を使ってテクノロジーと水産を結びつけることで、地球を守る、社会に貢献できることがあるはず。そのテーマに魅力を感じて、マグロの養殖へのテクノロジーの適用を始めました。

パートナーのJAMSTEC(国立研究開発法人海洋研究開発機構)と巡り会えたのですが、この事業でシミュレーションモデルをつくって機械学習のプログラムを組むのは双日社員がやると決めていました。そして、それを実行しました。ただ、彼らはそれまで一度も実務経験はなくて、イチから勉強して。

永田:え......!?

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荒川:大学で触ったことがある程度です。でも、ほぼゼロからですね。昨年入社の新入社員は、生け簀にダイバーと一緒に潜って自ら生け簀内にカメラを設置しました。カメラやソナーの設置角度によって取れるデータって変わってくるんですよ。だから、目的に応じた最適な方法を自ら割り出してみたと。ハードテックとデジタルテックは組み合わせないとうまく機能しません。

なぜこの話をしたかというと、大事なのは「自ら経験すること」なんです。テクノロジーは自分で経験してみなければ、活用できるようになりません。誰かにやってもらうばかりでは、その本質や可能性は見えてこない。いま私のチームでは、メンバー全員が経験値を積んでいる最中です。それをひとつの事例として、双日全体としても、そういった経験を蓄積していきたいと考えています。

永田:テクノロジーの活用を「自分たちでやってみよう」って思う商社はほとんどないんじゃないですか。

荒川:そうかもしれませんね。生け簀に潜ったその入社1年目の社員も「荒川さんのチームに配属されて、こんなことをやるとは思わなかった」って言っていました(笑)。でも、まずは自分たちでやってみる。そうしないと、どこに問題があって、どこにチャレンジが必要なのかがわからないんですよ。

永田:ほんとその通りだと思いますね。

*現実世界の物体や環境から収集したデータを使い、仮想空間上に全く同じ環境をあたかも双子のように再現するテクノロジーのこと

経験を積むことで駆動する、「商社3.0」

荒川:私はマグロの養殖をDX化することがゴールだと思っていないんです。ここで築けたスキルアセットが社員にインストールされて、その技術や経験がほかの事業にも活用されていくことこそ重要であって。日常のビジネスに「テクノロジー」が入ってこなければ、DXは起こらないと思うんです。本当の意味でのテクノロジーの活用は一朝一夕でできるものではなく、地道な積み重ねが必要なんだということを証明するためにもやっていて。

永田:双日、めっちゃいい会社じゃないですか。商社って最初はトレーディングカンパニーとしてスタートしましたよね。それがいつからか、モノの移動と資本の移動がセットになって、商社マンが金融のリテラシーをある程度もっていることは当たり前になりました。

それに加えて、これからの商社マンには「テクノロジーへのリテラシー」が必要になってくると思うんです。つまり、どういうテクノロジーを、どう持ち込めばより良い成果が出せるのか、それがプロジェクトの初期段階からわかっていないといけない。これを「商社3.0」と言っていいのか、どうなのかはわからないけど。

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荒川:まさしく。私たちは「商社3.0」の時代をリードする存在になっていきたいと思っていて。私は前職がIT企業でしたから、デジタルテクノロジーが次代の必要不可欠になることは見えていました。トレーディングに始まり、金融へと"シフト"してきた商社は、不連続的な進化を促すテクノロジーというものを未だ自分の中に上手に取り込めていないんですよ。一方で、そのリテラシーが投資先の会社にはあったりする。だけど、そのリテラシーも技術も自分たちのものではないわけです。したがって、投資とテクノロジーへの理解にギャップが生じている。私たちはそれを自ら「経験」によって埋めたいんです。そうすることでDXへの展望が拓けてくると確信しています。

永田:なるほど。「経験が大事」ってそういうことなんですね。

荒川:双日は経験を積ませてくれる会社なんです。みんなで「わー、数えられた!」ってマグロの尾数がわかって喜べる会社ですから。例えば、双日は世界で初めてマグロのCTスキャンを取っていて、それを役員会で見せると一同大盛り上がりするんですよ。

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永田:それってすごいことですよ。「これでいくら儲かるんだ」じゃなくて?

荒川:そう、みんな大喜び。普通は「お前ら、一体何やってんだ!」って怒られそうなものでしょう? でも、双日は「そうか、これは世界初か! これで世界一のマグロ養殖ができるようになるんだな! すごい!」ってエキサイティングできる会社なんです。

DXに向かう商社のあるべき姿とは?

荒川:おそらく、商社のDNAはこうした初めてやチャレンジを喜べるんだと思います。でも、その要素にテクノロジーが上手に組み込めていなかった。だからこそ、テクノロジーが予感させる未来に人一倍ワクワクするんじゃないかなって。双日の場合は何より、社長がそうやってチャレンジする社員がいることを喜ぶんですよ。「そんな社員がいてくれたら、どんな明日でもつくれるじゃないか!」って言ってくださるんです。それが会社の活力だけじゃなくて強さにもなっているんですよね。

永田:人間を駆動するのは、自分の根源から湧き上がる好奇心なんですよ。テクノロジーのいいところは、その好奇心を強く刺激することだと思うんです。逆に、儲かるとかは、人間が社会のなかで後天的に獲得する価値であって、それを測る価値観って僕らの根源には備わっていないと思うんです。

サルが生まれた瞬間から金を稼ごうなんて思わないけど、アリの巣穴に指を突っ込んで何がいるのかなって見るわけです。この行動を促すのは好奇心ですよね。何が言いたいかというと、与えられた価値観より内に備わっている価値観の方が、人を駆動する力は絶対に強いんですよ。だから双日のように、内に備わった価値観を自分たちの中心に据えられる会社って本当に強いと思うんです。

荒川:そういう意味では、双日は本当に素直な会社だと思います。自分たちの好奇心を「儲かるかどうか」という価値観で押し潰さない会社。たしかに、双日よりも売上の多い商社はあるけど、彼らが守りたいものと、私たちがチャレンジしたいものは別だと思っているので、一概に比較する必要はないと思うんです。

永田:それはユーグレナにも言えますね。例えば、燃料系の大手企業はたくさんあるけど、やりたいことができるのはきっとユーグレナ。所属する企業の売上や社員数って、働く個人の幸福度になんら関係ないと思うんですよ。幸福度にとってより重要なのは、自分の価値観にかなった仕事ができるかどうか。もし、売上が大きいから大手企業に入りたいと思うんだったら、それは選んでいるんじゃなくて、選ばされている。でも、世界を変える燃料をつくりたいと思ってユーグレナに入るのは、たしかな選択の結果だと思うんですね。この話は商社業界に置き換えても一緒ですよね?

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ユーグレナ社は、微細藻類ユーグレナを主に活用し、食品や化粧品の販売、バイオ燃料の研究などを行っている。「からだにユーグレナ」で豊富な栄養素を毎日手軽に摂取できる。

荒川:はい、その通りですね。

永田:外的要因や相対的な価値ではなく、自分の内にある確固とした理由で入る会社を選べたら、それってすごいことだと思うんです。双日は、そういう人が選んで入ってくる商社なんだと思いますね。

DXで新しいビジネスを生み出す「条件」とは?

荒川:双日はユーグレナとバイオ燃料「サステオ」を使ったビジネスジェット事業もやっていますし、そういった意味では最良のパートナーの一人だと思っていますよ。

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2022年9月、双日のグループ会社で、ビジネスジェットを運航するフェニックスグループの Phenix Jet Cayman SEZCは、ユーグレナ社が製造・販売する国産SAF「サステオ」を使用した初めてのフライトを実施した。

永田:僕らベンチャーは、オセロでいう最初の4枚のうちの1枚です。ひっくり返せるのは1枚しかない。ただ、双日がひっくり返せる枚数は、盤面の色が一気に変わるくらいのものなわけですよ。たしかに、確立された既存事業を持つがゆえに難しいことも多いのは事実だけど、それをひっくり返すからこそ社会的インパクトが大きいとも言えるわけで。

荒川:双日も合併当初は厳しい時代を経験しました。でも、そういう厳しさを味わったからこそチャレンジに積極的だし、起爆力がある会社になったんだと思うんです。そうでなければ、私はセカンドキャリアにこの会社を選んでいませんね。

永田:商社って人生のファーストキャリアとしてはいい場所だと思うんですよ。ただ、商社と言っても、そのカラーはさまざまです。トレードファイナンスから次へ行かないと商社の未来が切り開けないなかで、「商社3.0をいちばん最初に実現する会社はどこか」「そのファーストペンギンになれる会社はどこか」という視点は、いまキャリアを考える上でとても重要だと思います。そして、双日はDXで商社の先端を走る企業として、その筆頭に上がってくると思いますね。

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荒川:ありがとうございます。

永田:双日が経験値を重視する理由がよくわかるんです。なぜなら、僕が代表のリアルテックファンドと出資者が本当に共創していくためには、健全なコミュニケーションが必要だから。つまり、お互いに同じ土俵に立っていることが了解されていないといけない。

例えば、リアルテックファンドのサイエンティスト相手に、「文系なんでそういうのよくわかんないんですけど」と言った瞬間、そのサイエンティストの心の扉はバタンと閉まるんです。逆に、「私も大学で虫の研究をしていたんです」とか、あるいは近しい実務を経験していれば、相手の心の扉はガバッと開くでしょう。

「テックファンド<商社=出資者」みたいな資本主義社会の強弱を前提にコミュニケーションを進めると、全然うまくいかないんです。でも、DXやテクノロジーに邁進している双日は「経験を大切にする」という考え方をすでにもっている。これはとても重要なことですよ。

荒川:商社はテクノロジーの本質を理解していなければいけない。私がそう考えるのは、自分がもともと商社パーソンではなくエンジニアだったからだと思います。逆に、エンジニアにはできない、商社ならではの強みもわかります。商社の強みをわかっていないのは、実は商社自身なのかもしれない。「既存の事業がテクノロジーの付加価値でいくら儲かるのか」ではなく、商社自身が「テクノロジーを活用して何ができるのか」と発想できれば、商社が次のステージにいくのは難しくないと思っています。

永田:トレーディングに金融知識が不可欠になるまでには、それなりに長い時間が必要でした。同様に、テクノロジーが商社にとって不可欠のファクターになるまでにも相応の時間がかかるでしょう。その点、双日はもう10年先を行っている。商社2.0の時代にテクノロジーを自ら経験して活用することを、すでに「当たり前」にしようとしているからです。要するに、すでに時代の先を読んでいる。世の中が変化に気づくのは、テクノロジーが花開く時です。でも、その時点で気づくようでは遅い。先行者利益を得られるのは、テクノロジーに理解ある企業だと思います。これからが楽しみですね。

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PROFILE

荒川朋美

双日執行役員 / CDO

1985年、日本アイ・ビー・エム株式会社にシステムエンジニアとして入社。サービス、ハードウェア、ソフトウェア、デジタル営業などを担当し、2014年に取締役、2015年には初代CDOに就任した。2021年12月に双日の執行役員CDOに就任。以来、双日グループのDXの戦略をリードしている

永田暁彦

株式会社ユーグレナ取締役 代表執行役員 CEO リアルテック代表

慶応義塾大学商学部卒業後、独立系プライベート・エクイティファンドに入社。2008年に株式会社ユーグレナの取締役に就任。未上場期より事業戦略、M&A、資金調達、資本提携、広報・IR、管理部門を管轄。現在はCEOとして全事業執行を務め、健康寿命延伸を目指したリブランディング実施、脱炭素社会を目指すバイオ燃料開発、経営に10代を取り込む制度設計をするなど次世代経営を推進。また、日本最大級の技術系VC・リアルテックファンドの代表としてファンド運営全般を統括する。

ユーグレナ コーポレートサイト
https://www.euglena.jp/

リアルテックホールディングス コーポレートサイト
https://www.realtech.holdings/

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