HomeSpecial「明るい廃墟」問題、突然の百貨店撤退―窮地の地域商業施設を救った再生メソッドとは

Vol.04

津々浦々、地域の魅力を再発見

2022.11.22 UP

「明るい廃墟」問題、突然の百貨店撤退―窮地の地域商業施設を救った再生メソッドとは

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県内外からの集客ポイントとして、また新たな雇用の創出ポイントとして、地域の活性化に欠かせないのが大型商業施設の存在です。かつては「明るい廃墟」と呼ばれて話題になった滋賀の「ピエリ守山」、そして百貨店の閉店後、全館リニューアルを遂げた神戸の「エキソアレ西神中央」の2つの施設。地域社会との結びつきに着目することで来館客を劇的に回復した地域創生のフラッグシップ施設は、どんな打ち手を講じてバリューアップへと導かれたのでしょうか。キーパーソンへのインタビューを通じて、双日による商業施設再建プロジェクトのビハインド・ザ・シーンが見えてきました。

Photograph_Wataru Yanase (UpperCrust)
Text_Hayato Narahara
Edit_Keisuke Tajiri

流行を追ってしまう恐ろしさ

若年層の人口減少やオンラインショッピングの拡大、コロナ禍によるインバウンド需要の減少など、実店舗の集客減にまつわる話題が頻繁に取り沙汰される昨今。とりわけ地方経済においてその傾向は顕著です。滋賀県守山市、琵琶湖のほとりにある商業施設「ピエリ守山」も、かつては集客減により店舗数が約200店舗からわずか3店舗まで激減。営業中なのにお客もお店もほとんどいないという、広大で閑散とした館内の様子がネット上で「明るい廃墟」と呼ばれセンセーショナルな話題になってしまうほど、極度の集客減に悩まされた大型施設でした。

そんなピエリ守山が今、老若男女の集う人気スポットとして文字通りV字回復を遂げ、安定的なにぎわいを取り戻していることで注目を集めています。最初に登場するのは、そんなピエリ守山再建のキーパーソンたち。絶望的とも思える窮地から抜け出すターニングポイントは、経済的なヒットとは一見無関係とも思える「地域ファースト」の着想にありました。

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左から、双日商業開発 津田栄子 双日 耜田(すきた)誠高、双日商業開発 大畠千明

――津田さんは、「明るい廃墟」当時からピエリ守山に勤めていらしたんですよね。

津田:2008年の施設オープン準備の時からいます。オープン当時はものすごい人だったんですよ。お客さまが集まりすぎたことで交通渋滞が多発し、近所からはクレームの電話が殺到。警察からも指示をもらって、なんとか対応していました。でもほんの数ヶ月で客足も売上も目に見えて減り、「明るい廃墟」と呼ばれるようになる2012〜2013年ごろまでは下降の一途でした。

思えば、休日などでもあまり出かける場所のなかった守山では、大型商業施設へのニーズや期待は元々あったと思います。でも当時のピエリ守山は、お客さまが回遊しにくい建物構造になっていたり、テナント構成に偏りがあったりと、お客さまの期待に応えられるような施設になれてなかったですね。

――閑散ぶりがネット上で話題になったのはご存じでしたか?

津田:もちろん(笑)。ものすごい閲覧数でしたから。物珍しさで来て、スタッフの制止も無視して撮影やSNS実況するような人がすごく増えたし、ゴミの投棄も多くなって、駐車場を運転練習所代わりに使われたり。とても治安が悪くなっていきました。

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閉鎖したテナントが並ぶ当時のピエリ守山

津田:従業員4人で施設運営のすべてを行なっていたので、自分たちでぐるっと屋内外の掃除をしたり、車椅子のお客さまのお手伝いをしたり、そういった日々の業務に手一杯で...状況を打開するというところまではできませんでした。ただ施設に愛着はあったので、その時にできることをなんとかやっていたという感じです。

耜田:そんな中、2014年にリニューアルがあって。双日としてはそこからまず運営事業者として参入しました。H&MやZARA、GAPなど、競合となる周辺施設にはないようなファッションブランドを誘致して広域のヤングファミリー層を取り込む一方で、地元で支持されているスーパー「TOKUYA」に入ってもらって近隣の方々にも日常的にご利用いただく、というように幅広い商圏、顧客属性をターゲットにテナント構成の偏りを調整しました。加えて、建物の構造自体を改修したこともポイントだったと思います。具体的には通路を贅沢に広くつくって、その本数自体もかなり増やすことで、お客さまに居心地良く過ごしてもらえることを重視したんです。

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共用部が広く、利用客が自由度を高く感じられる構造に。また集客の核となるH&MやZARAがメゾネットの大型店舗のつくりとなっており、「行ってみたけど目当ての店が小さかった」といった不満感も解消している

――でもそうすると、その分テナントが入れるスペースが減ってしまいますよね。

耜田:そうなんです。ビジネスモデルとしては当然、貸し床が減るので賃料収入も下がってしまう。そこは身を切ることになるけれど、お客さまは利便性が低いと感じたらそもそもリピートしてくれない。事業継続性の観点をもってそれまでの失敗を踏まえたら、必要な判断であったものと考えます。

地域と向き合うことがなぜ必然なのか

耜田:また、これまでになかった大型のイベントを積極的に打ち始めたのもこのころです。E-girlsさんとかX JAPANのTOSHIさん、中川翔子さんなど著名な方々のお力を借りて、広域からも多くのお客さまを流入できるようなイベントを開催することで、来館顧客数が増加しました。するとイベント時の3000人以上の人が列を成している写真がSNSで拡散されたり、でも平日はまだまだガラガラだ!みたいな投稿が並行して上がったり(笑)。明るい廃墟としての知名度が、逆に意図していなかった情報拡散力として広告効果をもたらしてくれてました。

津田:やるなピエリ、っていうお客さまの声もそこかしこから届くようになって。反響がもう全然違いましたね。明るい廃墟状態からまさか回復するなんて、誰も思ってなかったんだと思います。

大畠:そんなポジティブな反響とネガティブな反響が7対3、いや5対5くらいか、という日々が続きましたが、まだトータルの客数や売上高は苦しい状況でした。平日と休日の集客数にギャップがあるという課題を認識した一方で、のびしろも見えてきました。そこでより積極的に施策を展開するために運営事業者としての関与ではなく、ピエリ守山そのものを買ってはどうか、という議論が社内で起こり始めていました。

そして2018年11月に物件を取得。運営事業者という立場にオーナーとしての観点を織り込んで生まれたテーマが「なんとなくのピエリ守山」。休日のお出かけ先だけでなく、いかに日常使いしてもらうか。結局、地元の方々に愛用してもらえる「拠り所」のような施設になれないと、永続的には動いていけないですよね。そこで琵琶湖を一望できる温浴施設「守山湯元水春」を誘致したり、さまざまな割引施策の強化や、平日イベントも開催するようになりました。

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取材を開始した月曜日正午過ぎの様子。平日午前から多くの来館者でにぎわっていた

大畠:琵琶湖には豊かな資源がたくさんあります。ピエリ守山も琵琶湖沿いにありますが、湖畔に蓋がされている源泉があってもったいない、という話が前からあったんですよね。温浴施設はそれを活かしています。また、滋賀県が推奨しているびわ湖一周サイクリング「ビワイチ」に賛同して、駐車場を提供したり。ピエリ守山を盛り上げることで、地元の方々だけでなく、ひいては広域商圏の潜在顧客にも滋賀県の魅力をアピールしていける。自治体や地元の商工会議所と意見交換を通じて、積極的にコミュニケーションを深めるようにもなりました。

耜田:これはピエリ守山に限った話ではないんですが、地方行政と商業施設ってお互いにwin-winな関係にあるんです。商業施設はエリアに人をもたらすという意味で市にとっても大きな財源になります。集客力のある施設が近くにあれば、商工会議所が支えていこうとしている個人商店などの市の事業者さまにも、人流が波及する機会は多くなってきますよね。つまり我々が成長することは行政側もメリットがある。

また、たとえば地域振興券を施設内で販売いただくといったかたちで施設をご活用いただくことで、施設としても新たな人流が生まれ、地域住民への便益も高めることができます。お互いメリットを享受できるのはどの地方でも共通なのかなと思います。

――それでも、行政との連携を意識的に行なっている商業施設があまりないのはなぜなんでしょうか?

耜田:手間がかかるからですね。たとえば実際に運営する運営事業者の立場からすると、地域連携を強化するほどに業務量が増え、人件費もかかってくる。一方で、地域連携を通じて施設集客・売上が向上したとしても、運営業務に対する業務委託収入が固定であれば運営事業者の利益は増えず、結局コストだけが負担になってしまいます。ただオーナー目線で考えると、行政との連携は持続的な運営につながり、施設集客・売上向上、これに連動した賃料収入の増加につながります。

このいわば「ひと手間」は、ほかの運営事業者との差別化の観点で以前から意識してきた部分でしたが、今回物件オーナーというポジションになったことで、行政とコミュニケーションを深めることの重要性がより一層実感をもってわかり、注力できていると考えています。

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大畠:1年2年と単発的にウケても、地域住民に愛されるような持続性がなければ続けていけません。商業施設は地域のインフラでもあります。5年10年、ひいては50年と続いていけば、雇用や文化などいろいろな側面で地域へ恩返しができると思っているので、地道に泥臭くがんばっていきたいですね。

津田:「明るい廃墟」当時は、スーパーが撤退してから急激に全体もダメになってしまいました。ネット上での情報拡散力は確かにすごいけど、ネットを使っていないような年代の人とか、あるいは純粋な口コミの伝播力の強さはやはり地元にありますよね。去年の暮れに、近くの小学校からピエリ守山についてたくさんの質問が届いて。お返事に時間はかかってしまったんですけれど、そういうつながりをひとつずつ大切にしていけたらと思っています。

行政と連携することで加速する「地域ファースト」

事業継続性における失敗から地域と向き合う重要性を実感し、地元の人々とコミュニケーションを深めることでバリューアップの成功事例となったピエリ守山。この再建スキームの知見も反映された新しいプロジェクトが、2022年4月神戸市と連携してフルリニューアルオープンをした西神中央駅直結の商業施設「エキソアレ西神中央」です。

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左から、双日 堀島淳史、稲本あゆ実

――元々は百貨店「そごう」の撤退に伴って、神戸市が後継の運営事業者を公募したところから始まったそうですね。

堀島:30年近く営業され、地域住民から親しまれていたそごうさんの撤退が急遽決まり、2020年8月に閉館することになりました。この建物は神戸市が保有していて、神戸市としては利活用をしたいけど、それと同時にそごうを愛用していた地域住民から「不便だから早く再開してほしい」という要望もたくさん届いているという、急を要する状況でした。

稲本:そこでややイレギュラーですが、特に要望の多かった1Fの食物販と5Fの飲食フロアを「西神中央駅ショッピングセンター」として同年12月に臨時オープンさせ、双日はPM(施設運営者)として2フロアの運営を続けながら、2022年4月の全館フルリニューアル「エキソアレ西神中央」のコンセプトも構築する複合的なスキームになったんです。

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行政との連携がキーとなった本件。取材は神戸市役所の担当者、佐藤麻子さんを交えて行われた

佐藤:本件は多くの事業者さまから関心をいただいてはいましたが、当時コロナの影響が深刻化する中で、事業が立ち行かなくなったのでやっぱり撤退します、という事態を招いてしまうことをもっとも懸念していました。そのため、全国各地で商業施設を手がけ、幅広いコネクションを持ち、さらに市民からの要望にも応えられ、熱意と柔軟さを持って事業計画を仕上げてくださった双日さんにぜひお願いしたい、という判断になりました。

おそらく、神戸をルーツにされている企業さま(双日の前身である鈴木商店は神戸市発祥)ということもあって、より強い気持ちを持っていただいてるのかな、というところも安心のポイントでしたね。

――具体的にはどのようなミッション、ビジョンを共有されたのでしょうか?

堀島:神戸市が2019年から推進している「リノベーション・神戸」という都市ブランドの向上と人口誘引につなげるプロジェクトがあり、西神中央駅もその計画の一部になっています。「進化する上質なまち」というコンセプトのもと、区役所の移転に伴う新庁舎建設や、文化芸術ホールの建設、駅前広場のリノベーションなどが一体となった計画で、エキソアレ西神中央リニューアルはその中心であるというビジョンを神戸市さまとは共有出来ていたと思います。街自体のコンセプトに沿ってエキソアレ西神中央のコンセプトも「日常にある上質な暮らし」としました。周辺住民に愛されて日々利用される場所でありながら、ほかのエリアからの人口誘引も促進できる、いわば人流の要所としての役割を期待されるプロジェクトだったため、そういった施設にすることが双日としてのミッションだと考えていました。

臨時オープンしていた1Fと5Fに来てくださるお客さまの声なども取り入れていけたのは、PMとして事業に参入していることのメリットでしたね。双日グループが運営している他商業施設の各支配人や担当者とも、どうすればお客さまに喜んでいただけるかについて協議も行いました。

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エキソアレ西神中央を捉えた駅前風景。周辺にはリニューアル中の駅前広場と区役所、文化芸術ホールがあり、バスターミナルも備える神戸西部の拠点。そのまさに中心にエキソアレ西神中央がある

稲本:そこでポイントになったのが、これまで百貨店のメインターゲットでなかったヤングファミリー層への訴求でした。ワンフロアまるごと入ったニトリを目玉に、ほかにも若い世代がよく利用するような無印良品や、カフェを併設したTSUTAYA BOOKSTOREなどを誘致しています。ただ、地域の方からは「百貨店の良さは残してほしい」という声も多くいただきました。そこで、そごう時代に入居されていた1階のいわゆる「デパ地下」業態の食物販テナントには引き続き営業いただいたり、一度撤退したテナントに戻ってきていただいたりして、百貨店の良さも残すことができたと思います。

消費だけでない、商業施設に求められる新しいかたち

――リニューアル開業時の反響はいかがでしたか。

堀島:行政の方々、地域の方々とコミュニケーションを深めながらコンセプトの全体像を構築していけたことで、2022年4月のフルリニューアルオープンの時には500人以上のお客さまに並んでいただけて、改めて身が引き締まる思いでした。

佐藤:フルリニューアルオープンしてからとてもにぎやかで、まさに老若男女、いろんな世代の方がエキソアレ西神中央に吸い込まれるように入っていかれます。みなさんが楽しそうにお買い物している姿を見られるようになったことは、非常に嬉しく思っています。

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1F、正面玄関を入ってすぐの様子

佐藤:これから芝生広場も完成すれば、エキソアレ西神中央やほかの施設も連動したさらに大きなイベント開催もできるようになります。駅舎のステンドグラスをモチーフにしたロゴも好評ですし、これからも西神中央のランドマークとして、地域の方々にとっての憩いの場として、エキソアレ(駅+ソアレ=太陽の意)でいてもらえたらうれしいですね。

堀島:双日は商業施設の事業を多く手がけていますが、共通の課題って案外なかったりするんです。いかに地域のニーズに応じてカスタマイズしていくか、お客さまを飽きさせずに新しい販促やアップデートをしていけるか、というのが大切。本件はもはや街おこしのような一大プロジェクトで、どうにかうまくスタートは切れましたが、まだまだこれからですね。いろいろ探りながら新しい施策を検討しているところです。

――検討されていることを具体的に教えてください。

稲本:今年6月に、エキソアレ西神中央横の駅前広場における利活用支援業務を双日が行うことが決定しました。リニューアル後には地域の皆さまが楽しめるお祭りや発表会などのイベントが開催できるように、利用希望者の募集と支援を行う予定になっています。

また、地下鉄が通っておらず、大きな商業施設もない買い物が不便な地域をどうにかできないかと住民の方々より相談があり、エキソアレ西神中央を拠点とした移動販売も開始しました。こちらは神戸市さまと神姫バスさまと共に国土交通省から補助金を受けて、テナント商品を路線バスの後部座席に乗せて運ぶかたちで、実証実験として始めています。

こういった地元の方々に喜んでいただけるような取組みを通して、エキソアレ西神中央を起点とした街全体の活性化をこれからもめざしていきたいと思っています。

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地域との密接なコミュニケーションによって、事業の新しい継続性を見出したピエリ守山とエキソアレ西神中央。商業施設のあり方が変わっていく中で、世間を見渡せば、もはや物を売らない商業施設が出てきたり、メタバース空間における商業施設が構想されていたりと、その変容は多種多様です。それでも、人々が暮らしを営み、社会を形成していく以上、商業施設という機能は必ず残っていくでしょう。

消費や娯楽の場としてだけでなく、地域全体の活性化の起点となり、その街の魅力を高めることが求められる、これからの商業施設。「そこに集う人々が求めるニーズを察知して、地道に泥臭くカスタマイズしていくしかない」。期せずしてそう口を揃える地域ファーストのキーパーソンたちから、地域創生の確かな源泉が垣間見えました。

INFORMATION

双日商業開発

2001年に設立した双日商業開発。滋賀県のピエリ守山をはじめ首都圏を中心に静岡県・佐賀県などで商業施設の企画、設計、運営、保有、維持管理、プロパティマネジメント及びコンサルティングなどを行っています。

https://www.sojitz-sc.com/

 

ピエリ守山

〒524-0101
滋賀県守山市今浜町2620-5

https://www.pieri.sc/

 

エキソアレ西神中央

〒651-2273
兵庫県神戸市西区糀台5丁目9-4

https://ekisoare.jp/

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