HomeArticleSANU福島弦さんと描く、木材トレーサビリティの先にある未来

2024.03.28 UP

SANU福島弦さんと描く、木材トレーサビリティの先にある未来

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日本は世界でも高い森林率を誇り、豊富な森林資源に恵まれています。しかし、木材の扱いについてはさまざまな課題を抱えています。木や森を取り巻く課題に対するアクションとして欠かせないのが、木材トレーサビリティの確保。製品が「いつ・どこで・誰によって・どのようにつくられ、届けられるのか」を見える化することです。 木材の源流とつながることで地域社会の問題をともに考え、日本と世界を取り巻く森林の状況をより良い方向へ導く一歩となります。

今回は、双日グループの双日建材で木材トレーサビリティを推進する田中佳典と、自然の中のもうひとつの家「SANU 2nd Home」を提供するSANU CEO福島弦さんが語ります。木を扱い、木を想うふたりが見つめる、日本と世界の森林のいまと未来とは。

Photograph_Hinano Kimoto
Text_Michiko Sato
Edit_Shota Kato

建物としての役目が終わった後を想う

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SANU 2nd Homeのひとつである「SANU CABIN」。長野県、山梨県、静岡県、千葉県、栃木県など都心からアクセスの良い、海、山、湖に近いロケーションにある。

田中:(SANU CABINの床を指しながら)実は僕、新入社員のころ、こういったパーティクルボードの営業担当だったので、懐かしい気持ちになりました。床の表面材として使うのはおもしろいですね。

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SANU CABINの床材に使われているパーティクルボード。廃材の木片などを集積してつくられる。

福島:そうでしたか。普通はフローリングの下地材に使いますよね。

田中:スピーカーやカラーボックスの裏面にも使われたりします。SANUのサーキュラー建築という考え方はすごいですね。建物に釘やビスを使わないことで解体、再活用しやすい工夫がされているし、収益の⼀部で植林を⾏っている。この仕組みはどんな経緯や想いから生まれたんですか?

福島:僕は雪山に遊びに行くんですが、気候変動の影響が圧倒的で、この先、自分たちがワクワクできることがなくなってしまうという危機感を感じました。育ててくれた自然にポジティブなアクションを取れるように、すぐ答えが出なくても、50年後に少しでもプラスになるものをつくろうと決めたんです。

SANU CABINの設計を手がける安齋好太郎さん(株式会社ADX CEO)との出会いも大きかったです。安齋さんの将来まで見据えた建築に取り組む姿勢にとても共感しました。僕も各地域を回っていると、廃墟になった建築を見ることがすごく多くて。これを繰り返してはいけない。軽やかな建築をつくろうと思うきっかけになりました。

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見つめる森によって、とるべきアクションは変わる

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福島:双日建材はどんな事業をされているのか、聞かせていただけますか?

田中:双日建材は総合建材商社として、合板をメインに、柱などに使われる木材、石膏ボードやフローリング材などの建築用材を供給するビジネスを行っています。僕はマレーシア、ベトナム、インドネシアなど東南アジアからの合板の仕入れを担当しています。

福島:よく現地出張にも行くんですか?

田中:年1、2回はマレーシアやベトナムに行っています。2017年から20年まではマレーシアに駐在していました。現地にはラワンやメランティと呼ばれる、合板の材料になる木が多く生えているんです。最近はアカシアなどの植林も増えてきましたね。

――双日建材のトレーサビリティの取組みについて教えていただけますか。

田中:2015年に双日グループの「木材調達方針」を制定しました。そのころから世界的に問題意識が高まって、双日グループでも調達する木材や合板は、国内外に関わらず、きちんと自分たちでトレースしたものを扱おうと決めたんです。木材調達方針を決めるにあたっては、WWF(世界自然保護基金)からアドバイスを受けながら進めました。毎年、調査結果は監査法人の確認を得て、第三者の評価を受けています。2018年にはトレーサビリティ100%を達成し現在も継続しています。

福島:具体的にはどのように調査しているんですか?

田中:トレーサビリティの調査シートに沿って仕入れ先に確認します。原木の伐採地、加工工場はどこで、どんなルートで双日建材に届けられるか。さらに、森林が適切に管理されているか、違法伐採されていないか、児童労働が行われていないか、原住民や地域住民への人権侵害が行われていないかなど。500社ほどのすべての仕入れ先を調査します。メールやFAXが使えない先には、現地にシートを持ち込んで「書いてください!」とお願いして回ったこともあります。双日建材としては、トレースができなければ取引をやめるというところまで徹底しています。

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福島:覚悟を決めて取り組まれているんですね、すごいと思います。東南アジアでは、森林伐採がかなり進んでいる状況なんですか?

田中:この10年ほどで状況は変わって、計画的な伐採に移行しつつあります。たとえば、伐採可能なエリアを30分割して、1年ごとに切るエリアを変えながら、30年後に同じエリアに戻ってくる。また、木の成長具合の基準を設けて、周囲長45cm以上の木でなければ切ってはいけないといった決まりをつくり、伐採エリアが丸裸になるようなことはしない。そうやって管理されているところから僕らも調達するようにしています。

福島:切るべき木と切るべきではない木を選定しているんですね。山主*1 さんの目が行き届いていない一本まで見ているとも言えるので、究極のトレーサビリティかもしれない。仕入れ先の意識も変化してきたと思いますか?

田中:調査シートの記入は、仕入れ先にとっては手のうちを明かすことでもあるので、初めは「なぜ明かさなきゃいけないんだ」という反応はあって。商売を続けるために必要だし、しっかりしているから買われているということはアピールになると伝え、徐々に分かってもらえるようになってきました。

福島:双日建材は国内・海外の両方を見ているので、日本と東南アジアでは抱える課題の違いがあるんだろうなと思います。日本の場合は二次林・人工林が非常に多くて、そのまま放置すると土地が荒れ、災害を引き起こす原因にもなる。適切な伐採が求められています。一方、海外では大量皆伐*2 を阻止するという厳しい現実と向き合ってビジネスされてきたんだなと。森をどうサステナブル、トレーサブルに維持していくかは、見つめている森によって、とるべきアクションが変わってくるのかなと感じました。

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田中が担当するマレーシアの森林。環境・社会に配慮した森林管理計画に基づいて伐採された原木は合板に加工され日本に届けられる。

*1 山林や鉱山の所有者。
*2 森林を構成する林木のまとまりを一度に全部伐採する方法。

ローカルコミュニティの存在なくして、健全な森は担保できない

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――SANUは「Live with Nature. / 自然と共に生きる。」を掲げて、都会に生きる人たちが自然の中にもうひとつの家を持つことで、暮らしや環境が豊かになることをめざしていますが、サステナビリティの要素について教えてください。

福島:最終的な目標としては、SANUが広がるほど、森や自然が豊かになることをめざしています。最近、「リジェネラティブ」(直訳:再生型)という言葉に触れるようになってきていると感じていて、僕らも「自然を再生させる」ことに向き合っていきたいと思っています。

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福島:それをめざすうえで大きくはふたつ。ひとつは「好きになることから始めましょう」ということ。SANUに泊まった子どもたちが30年後とかに、ここでの体験をベースに自然に対してポジティブなアクションをとるようになればいいなと。長期目線では、文化やライフスタイルに触れることがなければ、エコ活動が本質的なものとつながらないと考えています。

もうひとつは、僕も北海道の自然の中で育ったので、傷ついた自然をケアしながら事業を続けていこうという想いがあります。僕らは木をパートナーに選びました。木は土をグリップしていて、土の中は川の流域と通じて、海につながっている。木から自然の循環像を漠然と感じると思っていて。それを押し付けるのではなく、お客さまが自ら発見できるように体験の中に忍び込ませるというのが、僕らのやっているサステナビリティです。

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田中:SANU CABINにはスギ材をはじめ100%国産材が使われているそうですが、SANUはトレーサビリティにどのように取り組んでいるんですか?

福島:実は、最初からトレーサビリティを意識していたわけではなくて。SANU CABINの建築にあたってウッドショック*3 で木を手に入れることが難しかったんです。木が手に入らないから建築ができないというリアルな問題から始まって、「どこからどうやって木を調達するんだっけ」と探し回りました。商社にも電話しましたし、人づてに紹介してもらった山主さんと4時間くらいお話しした後に「供給できるものはない」と言われ、「えー!」となることも(笑)。

田中:山主さんのエピソードは僕も同じような経験をしているのでわかります(笑)。木はただ切って使えるわけではないんですよね。

福島:そうなんです。「木材とは、そもそも乾燥が必要だ」と聞いて、はじめて納得できました。加工のプロセスも時間がかかり、さらに事業者を通過して自分たちの手元に届く、ということを理解するようになりました。

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福島:木のことを考えるうえで、地域社会は僕たちにとって非常に重要なトピックです。なぜなら、木や森の管理は地元の人の手によって成立するからです。ローカルコミュニティの存在なくして健全な森は担保できない。僕らのビジネスは生態系や木のことを考えながら、地域に対してどういう存在であるべきか、向き合っていかないといけません。

*3 2021年にアメリカで発生した、木材価格の急騰とそれに付随したさまざまな問題。

「住」のトレーサビリティを広げるために

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――双日建材もSANUも、信念を持ってトレーサビリティを実践していても、社会や顧客にその想いが伝わりづらいことがあると思います。その点はどのように考えていますか?

福島:衣食住のうち、衣食のトレーサビリティは伝わりやすい。たとえばコーヒーのトレーサビリティは味にもつながる感覚なので、シングルオリジン*4 の1杯に500円以上を払っても美味しければ選ばれる理由になる。ところが、木に置き換えると、時間をかけて天然乾燥された無垢材だから、長持ちして味わいが出てくると紹介しても、魅力が伝わりづらい。少しでも良さを感じてもらうために、経年変化を楽しめる建築デザインにしたり、木に触れてもらうための工夫を施しています。

田中:トレーサビリティが担保された木材をいかに付加価値のある商売につなげていけるか、課題に感じています。建築の世界では品質・価格勝負の部分が大きいので、トレーサビリティの担保を理由に木材が優先的に選ばれることは少ない。ブランディングの方法を考えないといけないと思っています。

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福島:僕もサステナビリティを理由に買ってもらうのはちがうと思っていて。SANUがサステナビリティの活動を情報発信する理由は、それを真似する人たちが増えて、地球に良い環境づくりの輪が広がればいいと思っているからです。あのサービスはサステナブルじゃないから、僕らを選ぶべきだという情報発信は本末転倒になってしまう。選ばれる理由は、デザイン、品質、空間など、商品としての価値を模索していくしかないですよね。双日建材の木材調達がストイックだからこそ、何かにつながっていくはずです。

田中:ありがとうございます。森林認証材の推奨や、保証された木材を使っているという情報を大手企業でも公表するようになってきているので、時代の流れは確実にサステナブルな方向に向いている。トレーサビリティが担保された木材を使うことで、住宅ローンが軽減されるなど、消費者が価値を感じられる社会の仕組みをつくれたらいいなと考えています。また、SANUのようにブランドづくりやクリエイティブな情報発信に取り組むことにも可能性を感じています。

福島:クリエイティブを頑張ると、自然に無関心な人が興味を持つきっかけになります。双日建材はこれだけトレーサビリティを実践しているので、世界中の森で何が起きていて、どう変えていかなければならないのか、当事者の想いを強く語って良いのではないでしょうか。世の中は呼応してくれる時代になっていますし、気候変動に対してアクションしたい人を中心に響くと思います。

*4 産地、生産者ごとに細かくロットを分けたコーヒー豆。

トレーサビリティから自然の体験へ

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――呼応してくれる世の中に向けて、SANUはこれからどんなサステナブルな活動に取り組んでいきたいと考えていますか?

福島:僕らはやはり、人を自然に連れていくことを大切にしていて。しかもそれを、非日常で味わうのではなく、日常の中に取り込んでもらいたい。だから、ホテルじゃなくて「ホーム」をつくりたいし、帰る目的地として「ただいま」と言える場所をつくりたいと思っています。たとえば、自分の家の裏庭の木が枯れていたら心配するし、庭にごみが落ちていたら拾いますよね。自分の帰る場所で何か起きていたら人は気にするでしょう? 人が自然に触れるようになったら、振る舞いが変わると思って、サステナブルな活動に取り組んでいきます。

田中:確かにそうですね。自分の家だったら気にしますもんね。

福島:かつては、おじいちゃんやおばあちゃんの家に行く日がそれでした。でも、いまはおじいちゃんたちの家も都会化してきている。次の世代はもっとそうなるでしょうし、より自然に触れる原体験をつくっていきたいと思っています。

田中:福島さんとお話しして、僕も自分の子どもに自然を体験させてあげたくなりました。大人になった時に、本質的に大切なことは何かということに気づくきっかけになるかもしれない。そうすると、社会の方向が少しずつ良い未来へ向かうような気がします。地道にトレーサビリティを実践していきながら、自然に触れられる体験づくりを次の世代につなげていきたいですね。

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INFORMATION

双日建材株式会社

双日の主要グループ会社として、国内流通業者、木材・建材加工メーカー、ゼネコン、ハウスメーカーなどに、木材製品・建材、建設・建築資材全般を供給する総合建材商社。

双日建材株式会社
https://www.sojitz-bm.com/

双日建材 新卒採用 Instagram
https://www.instagram.com/sojitzbm_recruit

新卒採用情報|双日建材
https://www.sojitz-bm.com/corporate/recruit/graduate/

PROFILE

福島弦

福島弦

株式会社Sanu CEO

北海道出身。雪山で育ち、スキーとラグビーを愛する。McKinsey & Companyにてクリーンエネルギー分野の企業・政府関連事業に従事。その後、ラグビーワールドカップ2019日本大会の運営に参画。2019年、本間貴裕とライフスタイルブランドSANUを創業し、SANU 2nd Home事業を展開。

SANU
https://2ndhome.sa-nu.com/
SANU Instagram
https://www.instagram.com/sanu_2ndhome/

田中佳典

田中佳典

双日建材株式会社 パネル製品部 パネル製品1課 課長

2005年入社(旧・サン建材)。2009年から国内建材商売に従事し、2011年から合板、ボード類の輸入事業を担当。2017年から2020年まではマレーシアに駐在し、2023年から現職。

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