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2023.07.14 UP

究極のビジネスツール? ビジネスジェットが変える時間と移動の常識

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目覚ましく発展しているモビリティ社会。宇宙旅行や空飛ぶクルマの実現に夢が膨らむなか、身近なところでは自動車の自動運転をはじめ、先端技術を駆使したアップデートを繰り返しています。そして時代のニーズに合わせて、あるモビリティが注目を集めていることを知っていますか? それはビジネスジェットです。双日は2000年代からビジネスジェット事業に取り組んできました。自由なフライトプランニング、入出国手続きの待ち時間の短縮、移動するオフィスとしての活用など、ビジネスジェットは時間価値を最大化する究極のビジネスツール。航空産業・交通プロジェクト本部 航空事業部 ビジネスジェット事業課の櫻井洋平課長が、私たちが知らない移動の世界を教えてくれました。

Photograph_Masayuki Nakaya
Text&Edit_Shota Kato

ビジネスチャンスを逃さないために数分でも無駄にしない

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企業や個人がビジネス用にチャーターするビジネスジェット。最近では、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手や岸田文雄首相の利用で大きな話題に。双日のビジネスジェット事業を牽引する櫻井によると、その歴史の起源はアメリカにあります。

「ビジネスジェットは1960年代にアメリカから始まりました。爆発的に普及したのは1980年代のことです。アメリカは土地が広大なため、鉄道よりも航空産業が進んでいて、空港がたくさんありました。もっと空の移動の機動力を高めようと、世界的な投資家として知られるウォーレン・バフェットさんが複数人で小型ジェット機をシェアする分割保有プログラムをつくったんです。それによってアメリカの大手企業の幹部層を中心に眠っていたニーズが掘り起こされて、国内移動におけるビジネスジェットの利便性が広まりました」

1990年代後半に太平洋を横断できる長距離ジェット機が開発されると、ビジネスジェットはアメリカのみならず世界的に認知され始めました。西海岸から日本までのフライトも可能になり、日本でもビジネスジェット機を保有する企業や個人の富裕層が現れ始めます。

「双日がビジネスジェット事業に参入した2000年代になると、アジア全域でも認知され始めて、2010年代には、贅沢品からビジネスツールというイメージに変わってきました。この背景にあるのは企業のグローバル化とビジネス界における時間価値の高まりです。年収数億、数十億円を稼ぐCXO層は時間当たりに求められる創出価値の桁が異なります。社会的に大きなビジネスを動かすCXOたちが海外出張に行くときに、観光客と同じ乗り物、時間、乗り継ぎなどを過ごしていいのか。アメリカのCXO層の間で広まったこの考え方が日本でも広まり、パフォーマンスを高めるための手段としてビジネスジェットが注目されるようになりました」

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日本企業のビジネスの競合は日本国内のみにあらず。いまや当たり前になったグローバル展開に伴う形で、日本におけるビジネスジェットの利用頻度も高まってきました。ビジネスジェットのメリットとして挙げられるのは、自由なフライトプランニング、入出国手続きの待ち時間の短縮、移動するオフィスとしての利用など。櫻井は顧客であるCXO層と関わるなかで、彼らのビジネスチャンスを逃さない意識に衝撃を受けたといいます。

「ビジネスジェットに乗る方たちの出張先でのアポイントの取り方には驚かされました。お客様は5分だけでも商談の時間をつくるためにビジネスジェットで先方に会いにいく。そういった時間価値が当たり前なんですね。フライト時刻の融通が効かない定期便で往来していると、先方に『自分とは価値観が合わない人だな』と思われる。自らビジネスをつくり上げていく方たちにしてみれば、当然、定期便に乗る選択肢は少なくなるわけです」

双日だからできる「全体最適化」のビジネスジェット事業

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12人を収容するBombardier Global 7500の機内。ビジネスジェットの機内とオフィスとの違いは窓の外の景色だけ。機内でメンバーと新しいアイデアを出し合う、重要なお客様とのディナーミーティングを行う、上質な睡眠をとるなどといった生産性の高い移動が可能に。

一般的な飛行機の機体として有名なのは、世界最大の航空宇宙機器開発製造会社であるボーイング社の旅客機です。双日はその日本国内における販売代理店を前身の日商岩井の時代から60年以上も取り組んでいます。2003年からはビジネスジェット事業に参入し、櫻井もその創業メンバーとして参加していますが、日本に慣れ親しんでいないビジネスジェットの販売提案はなかなかハードルが高いものでした。

「当初、僕らはボーイング社の飛行機をビジネスジェット用として日本のエアライン会社に販売しようとしていました。エアライン会社にビジネスジェットを提案しても、自分たちがビジネスジェットに乗ったことがなければ使い方もよくわからない。しかもボーイング社のビジネスジェットは最高峰というか、それこそ政府が持っているような飛行機なんです。お客様にカタログを見せても、やはり実物に乗ってみないとわかりませんし、年に一度、アメリカから日本に機体を持ってくるとしても、そこに各社のスケジュールを合わせるのは無理な話です。それに見学会だと、本当の良さは感じてもらえないですよね」

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ビジネスジェットのミニチュアを片手に当時を振り返る櫻井。

ビジネスジェットの魅力を伝えるためにはどうしたらいいのか。その手段を考えるなかで参考になったのはアメリカでの成功例です。

「アメリカにはレンタカー的にビジネスジェットを使えるサービスがあったんです。買うのはハードルが高いけど、レンタルならば日本だけでなくアジア全体にニーズがあるかもしれない。そこでボーイング社からBBJという飛行機を自社でリースして、それを飛ばすことができる会社を紹介してもらいました。アジア全域の顧客を対象にビジネスジェットの共同所有や共同利用、チャーター便の運航を行うシェアジェットという会社をグアムにつくって、ひたすらアジアを回って営業した結果、結構な数の契約をいただけたんです。ところが、チャーター機が使われるのはクリスマスや正月、旧正月がほとんど。利用時期が重なってしまって、その他の時期はまったく稼働しないという状況に。とにかく売上の浮き沈みがすごくて、社内では『まだそんな事業をやっているのか?』と言われたりもしました(苦笑)」

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運転資金が危なくなると申し訳なさそうに緊急融資の稟議書を提出。その度に「またお前か」という冷ややかな反応が返ってきたと、櫻井は当時の苦い経験を振り返ります。しかし、事業としての危機に瀕しながらも地道な営業とPR活動が実を結び、チャーターではなく購入希望の顧客が現れるようになりました。

「ありがたいことに飛行機を買ってくださる方が現れて、オーナーの機体を預かるようになりました。使わないときに 同じように貸し出しできると、その方に副収入が入るじゃないですか。優先順位はオーナーファーストだけど、機体は使わないと寝ているだけなので、チャーター機を使いたい方にとってはその機体のオーナーが誰であろうと気にならない。社内からは『もう諦めろ』とずっと言われてきましたが、2006年にその貸し出し可能な飛行機ができたことで、新たにシェアジェットインターナショナルという会社を立ち上げて、初年度で黒字化することができました」

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ビジネスモデルを柔軟に転換していくことが新たな顧客の獲得につながり、やっと事業がうまく回り始めました。蓄積されてきたノウハウは双日のビジネスジェット事業における強みへと昇華されていきます。

「シェアジェットインターナショナルの立ち上げや出向を通じて、オペレーションマネジメントの原点を学びました。機体販売の営業だけでなく、パイロットの考え、チャーター機を飛ばすためのルール、客室サービスの大切なことなどが見えてくる。つまり、ビジネスジェット事業に必要なすべてのノウハウが叩きこまれていくんです。シェアジェットインターナショナルは、いまはフェニックスジェットという会社に変わりましたが、僕が出向していた時期に一緒に苦楽を共にした運航責任者、安全責任者、総務担当者、チーフパイロットたちが変わらず働いているので、非常に頼もしいです。

飛行機を買いたい、借りたいという方たちからのさまざまな質問に対して、飛行機メーカーのトップセールスを連れてきても、実際のオペレーションまではわからない。でも、ビジネスジェットをトータルコーディネートできる僕らはそのすべてに回答できる。どのメーカーの飛行機の特徴も把握していますし、メーカーの代理店よりもお客様の立場で動けるほうが心地いいですから。お客様が求める機体やサービスをお届けできる。1つのメーカーやモデルに固執せずに全体最適化の視点から提案できる。それは双日のビジネスジェット事業における究極の強みだと思います」

ビジネスジェット×双日×地方の可能性

ビジネスジェット事業の創業メンバーである櫻井。創業当時はボーイング課でしたが、実績を積み上げてきたことでビジネスジェット事業課を新設し、最初は6,7名だったメンバーは20名弱までの組織に発展しました。

「2001年の入社直後はITの分野で情報企画の仕事をやっていました。もっとIT分野で活躍したいと悩みましたが、ボーイング課の方から声を掛けていただいて、せっかく総合商社に入ったのだから、双日の中で新しいことにチャレンジしてみようと。ビジネスジェットの世界にはそこまで先駆者がいなくて、僕みたいな若造がとりあえずやってみるところから始まった。ゼロからスタートしたという意味では、ビジネスジェット事業課は双日の社内ベンチャー企業だと思っていて。いまは組織が大きくなって、自分の右腕と左腕になってくれる次世代のリーダーの育成に取り組んでいます。いずれは部にしたいですね」

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総合商社の中に生まれたビジネスジェット事業。エアラインの航空事業とは違う仕事のおもしろさとは一体何なのでしょうか。

「お客様が初めてビジネスジェットを使って、『よかったよ』と言ってくださることが一番のやりがいにつながります。満足された方から新しいお客様をご紹介いただくことはビジネスジェットという特殊な商品だけにありがたいですし、最高のサービスを提供したいという気持ちにも特別なものがありますね。詳しくはお話しできませんが、この仕事をやっていると、『話題になっている新規事業は、あの移動のときに決まったのかもしれない』と、その成功の一端を担えたことに刺激をいただけるんです」

櫻井は過去にCXO層の顧客からいただいた忘れられない言葉があるといいます。

「あるお客様が『贅沢品だと思っていたけど、ビジネスジェットは俺のビジネスのモチベーションだ』と話してくださって。定期便のビジネスクラスやファーストクラスでも移動できるのに、あえてエアラインよりも高額なビジネスジェットを選択するというのは、『なんとしても成果を上げて帰るぞ』『単なる視察では終わらせないぞ』という気持ちの表れでもあるんですよね。いわゆる自己投資のひとつという価値観です。

僕が事業をつくっていくなかでマインドセットが変わるような経験をしたように、後輩たちがこの仕事にハマっていく瞬間を見るのがたまらないです。サービス、お客様にも、この業界にはハマったら抜けられない魅力があるんですよ」

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多岐にわたる事業を展開している総合商社にとって、異なる事業部同士が結びつくことでシナジーが生まれることは珍しくありません。ビジネスジェット事業も他事業との連携による効果はあるのでしょうか。

「 例えば、化学本部とのつながりからバイオベンチャーのユーグレナ社が製造・販売する国産のバイオ燃料サステオを使用した初めてのフライトを実施しました。サステオに限らずさまざまなバイオ燃料が量産体制に移れば、エネルギー関連のコラボレーションができるでしょうね」

2022年には岡山県にあるビジネスジェットなどの航空機の売買、運航受託、整備を行うジャプコングループを完全小会社化。エアラインでは就航していない都市にダイレクトに行くことができるのはチャーター機ならでは。地方への就航が増えると地方活性化の効果も見込まれます。

「双日は五島列島の福江島に五島リトリートrayというラグジュアリーホテルを開業しました。五島列島はまだまだ未開の地。僕らのサービスと地方のアクティビティを連携させて、新しい観光ツーリズムをつくることができるかもしれない。その意味では、僕らのビジネスは新しいライフスタイルをつくる側面が強い事業ですね。インバウンドの目線では、日本国内の主要都市を行き尽くした旅行客に対して、北海道、九州、沖縄などの遠隔地は未開拓だったりします。それらにアクセスするために、小型ジェットのニーズは絶対出てくるはずです」

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国土交通省「日本におけるビジネスジェットの発着回数推移」より制作
世界の主要国では、政治や経済を率いるキーパーソンや組織によるビジネスジェットの活用が定着し、必要不可欠なビジネスツールとして認識されている。近年、日本でもビジネスジェットの必要性が認識され始め、利用数は年々上昇傾向にある。

日本のビジネスジェット産業の未来を占う、業界全体の「最適化」

世の中のビジネスジェットに対する認知と興味関心が高まっても、フライト料金が高価ゆえに一般所得層が利用できないことには変わりません。今後、フライト料金が安価になる、あるいはLCCのような格安航空サービスが現れる可能性はあるのでしょうか。

「国内のビジネスジェットの人的インフラが整って規制緩和が進めば、その可能性はゼロではありません。そのためには空港やターミナルまでのアクセス改善、CIQ*1施設でのスムーズな出入国検査の実現などが挙げられますが、僕がもっとも必要だと感じているのがFBO*2と呼ばれるビジネスジェット専用ターミナル事業者の整備です。FBOの本来の価値は自動車で言うところのガソリンスタンドなんですね。FBOに乗り入れて給油する。洗車も点検も済ませて、お客様だけでなくパイロット、キャビンアテンダントもフライトに備えて休憩できる。さらに客室内の汚れたリネンや食器の洗浄、トイレの汚水処理など、ビジネスジェットを飛ばすために必要な複合的な作業をFBOでは完結できるんです」

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入出国審査は専用ターミナルや機内で済ませ、目的地の空港へ到着後は速やかにリムジンに乗り込んで最終目的地へ移動が可能。手続きなどによる待ち時間を減らし、ストレスフリーな入出国手続きを実現。

羽田空港や成田空港などにもビジネスジェット専用ゲート施設はありますが、櫻井は海外と比べると多くの課題が残っていると実感しています。日本のビジネスジェット専用ゲート施設は利用客の出入りが重視され、ビジネスジェット専用ゲート施設から遠く離れた場所に飛行機を移動しなければいけないことがあるのだとか。そういった不便の積み重ねなどによってグランドハンドリング*3スタッフの作業が発生してしまい、コスト、ひいてはフライト料金の高騰につながってしまうのです。櫻井はFBO整備について個人的な見解を述べます。

「双日がFBOの整備に関わるのはアリだと思います。それは日本国内に限らず海外でも、双日が関われば改善できるところがあれば参入したいと考えていて」

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櫻井には日本のビジネスジェット業界における仕組みを根底から覆したいという思いがあります。その鍵を握るのがFBOの整備とcaravanでも特集したDXです。

「エアラインのDX化は進んでいますが、ビジネスジェットの業界はまだアナログだらけ。空港の発着枠やチャーター許可も、グランドハンドリングスタッフが霞ヶ関の航空局に書類を持ち込んで許可をもらっているんですよ。アメリカはデジタル化されているので、そういったフローを全部変えていきたい。ビジネスジェットはお客様一人ひとりに合わせるカスタムオーダーメイドの側面があるので、そのノウハウを最初にシステム化するときに詰め込むのは大変だと思うけど、業務の効率化とクリエイティブな仕事を増やすためには事業のDX化はやりたいんです」

未来の空の移動手段として空飛ぶクルマの実現に夢が膨らみますが、もしもビジネスジェットに乗りやすくなれば、それもモビリティの革新的なアップデートにつながります。もっと自由な空の移動のために。櫻井が率いるビジネスジェットチームによる最適化へのチャレンジは始まったばかりです。

*1 税関(Customs)、出入国管理(Immigration)、検疫所(Quarantine)の略。出入国と貿易上必要な手続き・施設
*2 Fixed Base Operatorの略称。空港内または空港隣接地を拠点に、航空機とその運航業者などに対して関連サービスを提供する事業者
*3 航空輸送における空港地上支援業務

ビジネスジェット事業 紹介動画はこちら

PROFILE

櫻井 洋平

航空産業・交通プロジェクト本部 航空事業部 ビジネスジェット事業課 課長

2001年、日商岩井(現双日)入社。民間航空事業部ボーイング課でシェアジェット事業の立ち上げから運営に携わり、06〜13年はチャーター運航会社(グアム・フィリピン)の営業担当副社長として出向、13年に本社に戻り18年にビジネスジェット事業課を新設。

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