HomeArticle"ブーム"で終わらせないために。東大卒プロゲーマー・ときどが見据える、eスポーツの熱い未来

2022.07.11 UP

学び "ブーム"で終わらせないために。東大卒プロゲーマー・ときどが見据える、eスポーツの熱い未来

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近年、日本でも人気が加熱するeスポーツ。世界のトッププレーヤーたちがゲームの勝敗を熾烈に争う面白さがある一方で、それを職業とできる人は一握りの厳しさもあります。そんな中、「eスポーツ業界をより発展させたい」という想いから2022年1月に発足したのが、双日の新規事業創出の取組み「発想×双日 Hassojitz(ハッソウジツ)」プロジェクトから生まれたeスポーツ企業「GRITz(グリッツ)」です。今回は、常に業界をリードしてきたプロゲーマー・ときどさんに、その強さをもたらす「総合力」の大切さと、ゲーム界の先人たちから継承してきた想い、そして企業と共創していくeスポーツの未来について、GRITz共同代表の温哥華と桐谷恒毅を交え話を訊きました。

Photograph_Wataru Yanase (UpperCrust)
Text_Kaoru Hanaoka
Edit_Hayato Narahara

プロをめざすことが"笑われた"時代

――ときどさんは、eスポーツという言葉が生まれる以前からプロゲーマーとして活躍されてきました。プロになった経緯を教えてください。

ときど:小学生の時に友達の家で毎日遊んだ「ストリートファイターⅡ」が僕のルーツですね。中学生になると、毎日ゲームセンターに通って対戦ゲームに没頭するようになりました。当時はゲームで生計を立てる道があるなんてまったく想像もしていなかったので、いろんな人がいる中で対戦して、勝った負けたというのが単純に楽しくて仕方ありませんでした。

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高校2年生の時、たまたま友人に誘われて参加した、アメリカで行われる世界最高峰の格闘ゲーム大会「Evolution」で勝てたことが、現在の価値観につながる大きなひとつの出来事でした。でも、大きな大会で運良く勝てたとはいえ、まだちょっとした自慢話になるくらい。ゆくゆくは就職して、ゲームは趣味でいつまでも続けたいな、と自分の中では思ってましたね。

そこから数年経ち、大学院生として研究をしていたある日、梅原大吾さんが日本で初の格闘ゲームのプロプレーヤーとして誕生した、というニュースが耳に飛び込んできました。それは、ゲームは職業にならないと思い込んでいた自分にとって衝撃的な事実でした。そこから狂い始めましたね(笑)。

温:人生を考え直すきっかけになった、ということですか。

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GRITz 温哥華(おん・かか)

ときど:そうですね。ゲームの世界で1回勝負してみたい気持ちはずっとありましたが、周囲の期待や親を裏切ることになるのでは、と葛藤もありました。

愚かなことに大学の友人らに相談してみたんですよ。そうしたら「お前、頭大丈夫か」と(笑)。面白がってくれる人もいたんですけど、でも特にゲームセンターにいる知り合いには「早まるんじゃない」と言われました。当時のゲーム業界はアンダーグラウンドな雰囲気かつ、世間では単なる遊びと思われていたので当然ですね。

温:ご両親には相談されたんですか。

ときど:はい、最終的には。そうしたら「お前はサラリーマンに向いていないから、そんな能力があるならそれを活かせ」と。大学教授をしている僕の父も、ミュージシャンの夢を諦めていた過去があり、似たような経験をしていたんです。

また、「東大卒という肩書きが無駄になると思うな。ゆくゆくゲーム業界が大きくなった時に必ず役に立つ」と言ってくれて。そうした父の後押しもあり、本格的にこの分野で戦っていくことを決めました。

持続的な活動に必要な「総合力」

―― 2017年ではEvolution優勝、CAPCOM Pro Tour 2021準優勝と、数々の圧倒的な戦績を残されています。ときどさんの強さの秘密とは何でしょうか。

ときど:性格はやっぱり負けず嫌いですよね。周囲と比較すると、コツコツと積み上げていくタイプなのかなと思います。

あとは、「総合力」が強みじゃないかと。ゲームの勝ち負けにはさまざまな要因があると思っていて。たとえば、ゲームプレーの技術に注目がいきがちですが、そのほかの体力やメンタルを鍛えたり、目の良さも重要だと考えて、トレーニングセンターに通って動体視力を養うような訓練もしています。

これは僕が受験生時代、やりたくなかった国語や社会も含めて「総合点で勝負しろ」という評価のされ方をずっとされてきた影響が強いですね。

温:外から見ていると、ゲームの強さはもちろん、ファンを大切にされている姿も印象的です。しっかりとエンタメも重視することで、それが結果的にビジネスにつながっていると思います。

桐谷:ときどさんはストイックな印象です。心技体の同時訓練はきつくはないんでしょうか?

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GRITz 桐谷恒毅(きりたに・こうき)

ときど:自分の中できついと思うことは、自然にやらなくなってしまいますね。何でもトライして、自分に合った努力の仕方を見つけるのが大事かなと思います。

ゲーム"冬の時代"を乗り越えて訪れた、空前のeスポーツブーム

――今でこそeスポーツはブームですが、2000年以降のゲーム業界にはユーザー数が減少した冬の時代もありました。それでも、ときどさんが逆境を乗り越えられてきたのはなぜですか。

ときど:僕が今に至るまでプロとして持ち堪えられてきたのは、大会を中心としたコミュニティの存在に支えられたのが大きかったですね。確かにゲーム人気が下火になる時期があり、ゲームセンターで凌ぎを削っていた才能あるプレーヤーたちも、その多くが泣く泣くゲームの世界から離れていきました。

そんな中でも、たとえば日本なら「闘劇」、アメリカなら「Evolution」などのファンが集まるイベントを年に1回でもやり続けた。大会の日のためにと頑張れたから、モチベーションを保ち続けられたと思います。

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そういう意味では、GRITzさんにも、ブランドとなるような大会やイベントを創り出してもらえることを期待しています。

桐谷:ありがとうございます。eスポーツ業界のコミュニティや裾野を拡げていくことが私たちのミッションなので、頑張っていきたいと思います。

温:ときどさんから見て、コロナ禍を経て、今の日本のeスポーツ業界はどのように映っていますか。

ときど:僕の経験談ですが、以前は年間20回以上は海外大会に遠征する生活をしていました。コロナ禍を経てそれもできなくなってしまったので、活動の幅を広める必要がありました。

それはほかのプロプレーヤーも同じで、大会で優勝することだけを目的にせず、より広いファンに楽しんでもらえるようなプレーや企画をつくる人たちも現れました。つまり、コロナはeスポーツ業界をより多様にした、と評価することもできます。

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そのような観点も含め、今、eスポーツ業界は非常に盛り上がっていると思いますね。格闘ゲームはもちろん、この前「VALORANT(ヴァロラント)」の日本チームが世界3位の快挙を成し遂げましたし、かつてはゲーム弱小国と見られていた日本から世界と実力で戦えるチームが生まれてきているのが本当に大きい。

桐谷:中国・杭州で開催が予定される第19回アジア競技大会(コロナの影響で現在開催日程を調整中)に「ストリートファイターⅤ」がeスポーツのメダル種目として正式に入っていたり、オリンピックも含めこれからが楽しみでしかないですね。

ときど:個人的な意見ですが、将来的には十分可能性はあると思います。競技人口が増えれば当然、世界での注目度も高まっていきますから。

ゲームで食べていける人を増やしていきたい

ときど:GRITzさんは、そもそもなぜ、このタイミングでeスポーツの会社をつくろうと思ったんですか。

桐谷:きっかけは、コロナ禍初期の頃にボーナスで買ったゲーミングPCでした。ずっとゲーム自体は好きだったのですが、それから本格的にハマってしまって。オンラインでプレーしてるうちにある日、世界ランキング上位の人と対戦マッチングすることがあり、当然連戦連敗。

でも、これだけ盛り上がっている今のeスポーツ界でも、彼らのようなトッププレーヤーが食べていけない現状があることを知りました。その時、何かがおかしいのではないか、才能あるプレーヤーが食べていけない業界を変える方法はないのか?と悔しさを感じました。

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そんなことを思っていた矢先、社内の新規事業コンテストの話があり、総合商社としての強みを活かせるのではないかと思い、手を挙げたのがきっかけです。

温:ビジネス目線で見た時にも、eスポーツは非常に魅力的なマーケティングツールである、ということが調査の結果で分かったことも大きいです。考えてみると、ゲーム機ってプラスチックと半導体の塊なんですよね。まさに私たちのビジネスの領域です。

さらに視野をより広げれば、双日は総合商社として、eスポーツのいわゆる波及領域、たとえばゲームをする際に座るイスや飲料、食べ物まで、ライフスタイル全般を幅広く網羅しています。まさに私たちも「総合力」を強みにしていて、既存事業との親和性も非常に高いんです。

桐谷:先ほど、ときどさんは企業がeスポーツに積極的に参入するメリットとして、息の長い大会をつくれることだとおっしゃいました。そこでお伺いしたいのは、企業がeスポーツの業界に入ってくることについてどう感じられているのか、ということです。

ときど:それはもちろん歓迎しています。ただ少し懸念があるとすれば、それは僕らが昔ゲームセンターで経験したようなアンダーグラウンドな雰囲気が、企業が参入することで失われてしまうのではないか、ということです。「あれが好きだった」という人の気持ちは、僕も分かる部分はあります。でも未来を天秤にかけた時に、本当にそれで良いのか、という思いもあります。

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つまり、あの暗い時代が続いたら業界そのものがなくなる可能性もあった。そんな下火の状況でも、持続的に応援できる資本力のある企業のおかげで、格闘ゲームという存在が生き延びられた側面も絶対にあると思うんです。なので懸念と言いつつも、クリーンなイメージをつくっていく今の方向性は正しい、というのが僕の意見ですし、歓迎しているプレーヤーが多いのも事実です。

温:ありがとうございます。それを聞けて安心しました。

ときど:はい、ウェルカムです!もしスポンサーさんの存在がなかったら、自分が今どうなっていたのか分からないですし、本当に応援いただいてる企業の皆さんには感謝しています。

業界発展のカギは、魅力的なプレーヤーを増やすこと

――eスポーツがよりポピュラーな文化として根付いていくためには、ファンの存在も重要です。ときどさんが大事にしている考え方はありますか。

ときど:ファンの方はもちろん大事ですが、僕のゲームに対する向き合い方を、いかに社会の一般の人々に理解・共感してもらえるか、ということは常々考えていますよ。ゲームがうまいだけではダメで、ここでも総合力や計画性が問われている。

たとえば、プロゲーマーをめざす若者に対してメッセージを伝えるとしたら、「今後eスポーツの分野で活躍したいなら、英語は絶対に勉強しておけよ」とか、そういったところまで言えると、良い影響を与えられるというか。

ゲーマーであっても、しっかり将来のことを考えているところを一般の方々に見せて、分かってもらう努力は重要だと思って意識的に実践しています。

桐谷:ゲーム業界の過去も見てきたときどさんだからこそ、伝えられることもありますね。

ときど:そうですね。やっぱり、才能があっても道半ばで諦めていってしまった大勢の仲間の想いというのは、僕の中で今でも強く残っています。どこまで続くのか分からない世界です。だからこそ、僕がやってきた経験や、継承してきた先人たちの想いは絶やさずに、できる限り後ろの世代にも伝えていきたい。

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業界がピンチになった時に救えるのは、魅力的なプレーヤーの存在です。これからは、単純にゲームがうまいだけじゃない、本当の意味で人間的な魅力に溢れた自己表現の上手なプレーヤーを増やしていきたいですね。

そういう人は、プレーだけでなくよりカジュアルに世間の注目も集められますし、業界のこともいろいろ考え抜いている人だと思うので。

――今後の展望を教えてください。

温:より多くeスポーツプレーヤーが活躍できる場をつくっていきたいです。昨年、中高生を対象に行われた「なりたい職業」の意識調査では、プロeスポーツプレーヤーが2位でした。

子どもたちの夢を守るためにも、この業界が持続可能な発展をしていけるような大会運営や取り組み、付加価値を提供していきたいですね。

桐谷:ゲームってこんなに面白いんだよ、魅力的な人たちがたくさんいるよ、ということを僕らがもっと社会に示していきたいです。

ときど:これからもeスポーツ界の第一線で活躍していきたいですし、それに相応しい人間でいたいです。また、そこで真剣にゲームをしている、いや真剣に生きている人たちがたくさんいるんだ、ということを皆んなに伝えていきたいですね。

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もちろん、僕のやり方が絶対に正しいということではありません。これからもまだまだ発展していけるeスポーツ界だからこそ、いろいろなプレーヤーが自分らしさや個性を思い切り出していって、それが世の中に受け入れられるかたちで表現できれば、これほど素晴らしいことはないと思います。

INFORMATION

GRITz

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2022年設立。双日が手がける新規事業創出の取組み「発想✕双日Hassojitz(ハッソウジツ)」プロジェクトから生まれた新会社。eスポーツに係る大会・リーグ及び各種イベントの企画及び運営、 e-Sports専門メディアの運営、プロダクション事業等を事業内容としており、将来的にはGRITz傘下のプロチーム組成も視野に入れている。

PROFILE

ときど

ときど

プロゲーマー。1985年沖縄生まれ。東京大学卒業。2010年に格闘ゲームでプロデビュー。2017年世界最大級の格闘ゲーム大会「Evolution」優勝、2018年カプコンプロツアー年間ポイントランキング1位、NorCal Regionals 2019 優勝(アメリカ)、Canada Cup 2019優勝(カナダ)など輝かしい戦績を重ね、TBS系ドキュメンタリー「情熱大陸」にも取り上げられるなど、日本で最も知られるeスポーツプレーヤーのひとり。趣味は筋力トレーニングで、自宅にベンチプレスなどのワークアウトできる機材を所有し、日々ゲームの練習、ストリーミング配信と同時に筋トレの両方をバランスよくこなしている。また、自身の努力方法を書籍『世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0』、『東大卒プロゲーマー』として刊行したり、eスポーツ国際団体「GEF」の委員会メンバーとしても活躍している。

オフィシャルTwitter
https://twitter.com/tokidoki77

e-sports Hassojitz 学び 新規事業 未来

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