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2022.01.28 UP

NOSIGNER 太刀川英輔さんに訊く、エコ素材から広がるデザインのありかた

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地球環境にまつわるプラスチック問題。土壌・海洋汚染や温暖化現象など環境破壊の原因となる素材のひとつですが、今の社会に欠かせない便利な素材でもあります。そんなプラスチック素材のひとつである、石油由来ポリエチレンの代替品として双日プラネットが提供するのが、植物由来グリーンポリエチレンです。このエコフレンドリーな素材にはどんな可能性があるのでしょうか。お話を伺ったのは、生物の進化と人間の創造をアナロジカルにとらえた著書『進化思考』が大きな話題を巻き起こしている、デザインストラテジスト・太刀川英輔さん。さまざまな素材に向き合い、デザインによって多くの問題を解決してきた太刀川さんが示す、エコの向かうべき先とは?

Text_Shinri Kobayashi
Photograph_Masayuki Nakaya
Edit_Shota Kato

グリーンポリエチレンという脱炭素の選択肢

地球にやさしい素材として注目されているバイオマス素材。2021年における世界のプラスチック総量は年間約4億トンになりますが、バイオマスプラスチックの生産能力は約2.2百万トン、2025年度は約2.9百万トンと予想されています。*世界的なサステナビリティへの関心が高まるなかで、バイオマス素材への需要も急拡大中。現状の生産能力では供給が追い付かない状況にあります。

*出典:UNEP ''Single-use plastics : A roadmap for sustainability'', European Bioplastics

現在、双日プラネットが取り扱っているバイオマス素材は「グリーンポリエチレン」というものです。これは南米最大の化学メーカーであるBraskem S.A.が製造している商品であり、双日プラネットは2012年にアジア域内での販売代理権を取得しました。

グリーンポリエチレンとは、主にポリ袋やプラスチック容器の原料となる植物由来の樹脂のこと。主な原料であるサトウキビの育成段階でCO2を吸収しているため、廃棄物として焼却される際のCO2排出量をゼロ(カーボンニュートラル)とみなすことができます。そのため、製造・輸送工程のCO2排出量を含めても、従来の石油由来ポリエチレンに比べ、CO2排出量を最大70%も削減できるのです。

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商品化されたグリーンポリエチレン由来の、フルーツキャップ、手袋、名刺ホルダー、洗顔フォーム容器、封筒(内側ラミネート) 、カプセル容器。そのほか、レジ袋、ゴミ袋、ファッション袋といった袋製品のほか、緩衝材、ラップといった用途まで、グリーンポリエチレンは汎用的な樹脂として幅広く使用されています。

"とんち"を利かせたアップサイクルのアイデア

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グリーンポリエチレンがどのようなものかわかった上で、このエコ素材から見えるデザインのありかたについて、デザインストラテジストである太刀川英輔さんにお話を伺いました。

太刀川さんがまず着目したのは、プラスチック素材と密接に関わる環境問題です。CO2の問題だけでなくマイクロプラスチックの問題など、ひとえに「環境問題」と言っても、多岐にわたる分野を横断します。相互に絡み合うその複雑性に、つい音をあげてしまいたくなる人も少なくありません。でも、ただ眺めているだけではなく、一つひとつの問題を観察していけば解決できる方法がある、と太刀川さんは話します。実際にどんな問題があり、どんなデザイン手法が解決策としてあるのか。ご自身にとって身近な事例を紹介してくれました。

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「ぼくのオフィスの天井になっている軽量鉄骨は、この部屋の解体現場から出て本来捨てられるはずだった建設資材の廃材を使っているんです。なるべく廃棄物が出た場所に近いところで再生するのが一番良いですからね。また、稼働中のプロジェクトでは、福井県の鯖江市で余っていた合成樹脂素材の漆器を時計にするというアイデアを具現化に向けて進めています。これは倉庫に何万個と眠っている、プラスチック製のお盆や重箱の蓋を再塗装して、時計として再生するもの。どちらも編集やデザインの力を使って既存の価値を読み替えるという、いわば"とんち"を利かせることで、アップサイクルしています。例えばグリーンポリエチレンは脱炭素の選択肢として有効ですが、現在のプラスチックの分別はかなり荒いので素材への再生はなかなかできません。グリーンポリエチレン由来の素材も使い終わったら捨てるのではなく、リサイクルやアップサイクルも視野に循環を構成できると、プラスチックと共生しやすい社会になるはずです」

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ゼロの価値だったものに新しい役割を与え、再生する「アップサイクル」の手法は、発想力とデザイン力がものをいいます。うまくいくと、ゴミを出さずに価値を生み出すという見事な解決策に。しかし、周りが唸るほどのアイデアを思いつくのは至難の業です。そこでもう一つのデザインの視点があると太刀川さんは語ります。

エコ素材から浮き彫りになる、コミュニケーションデザインの課題

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太刀川さんのデザイン的視点はプロダクトだけでなく、コミュニケーションデザインの領域にまで及びます。

「ポリエチレンをグリーンポリエチレンに代替するのも大切ですが、さらに別の問題として、どうやって循環させるのか。それにはプラスチックのトレーサビリティが必要です。問題はポリエチレン、ポリ塩化ビニルといったプラスチックを、すべて同じ「プラスチックごみ」としていること。ユーザーはその違いがわからないし、分別できない。それは、その製品がいつ、どこで、誰によってつくられたのかを追跡できない、トレーサビリティの問題ということです。例えば、ポリエチレンだと表示されてわかっていれば、再生ペレット化して再利用できます。この素材が何であって、どこでつくられたものなのか。それがわかると、再利用できるというわけです。そのトレーサビリティは、コミュニケーションデザインによって変えられると思うんです」

プラスチック素材のトレーサビリティを可能にするために、デザインは何ができるのか。そして、どのような効果を生み出せるのか。その解決策の糸口として、太刀川さんはリサイクル表示の識別マークを例に出しました。

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現状の識別マークは、何の素材なのかは番号で表記されています。例えば1番は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、2番は高密度ポリエチレン(HDPE)といった具合。でも、私たち消費者のほとんどはその数字の違いを知らないのが現状です。では、どのようにデザインすればよいのか。太刀川さんはコミュニケーションデザインの事例から解説します。

「先ほどお話した福井県は漆工芸でも有名ですが、漆製品も同じ問題を抱えていたんです。漆製品に見えるものも、一見しただけではその塗料が合成塗料なのか漆なのか、中身はプラスチックなのか木なのか、わかりません。そこで一目でわかるようにピクトグラムを商品タグに付けてみたら、なんと売上が2割アップしました。それは当然ですよね。漆製品を求めていた人は漆なのか何なのかよくわからないものは買いませんから。一方、中身がプラスチックのものは食洗機で洗えるメリットがあります。
この事例のように、プラスチックの素材マークもトレーサビリティの機能を追加することで、素材に対する理解も深まるし、自分がどれを使うべきか、選択肢を提示できる可能性があります」

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求められるのは、エコシステム全体像の提案

グリーンポリエチレンをはじめ、環境問題に関する幅広いプロジェクトを展開する企業ができることとは。太刀川さんは「全体性をどこまで見据えているのかを踏まえて発信していくべき」と力を込めます。

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「プラスチック問題の入口である製造時にはバイオマスプラスチックや再生プラスチックを使う、廃棄後のトレーサビリティを高めた回収フェーズではこうする、プラスチックが回収されて再ペレット化するときはこの仕組みをつくる、というプラスチックの一連のつながりを、エコシステムとして提案すること。それこそ、事業が多岐にわたる双日のような総合商社がひと続きでできることかもしれませんよね」

例えば、トレーサビリティが可能にするのは、このプラスチックが石油由来のポリエチレンなのか、グリーンポリエチレンなのかを教えてくれるということ。それを私たち消費者が認知できてこそ、はじめてプラスチックを正しくリサイクルすることができます。そうやって初めて、グリーンポリエチレンに意義が生まれると指摘します。

「僕はエコシステムの全体構造をデザインすることに興味があります。例えば、グリーンポリエチレンがどのレベルで環境問題に貢献できるのかを可視化できるとする。他の選択肢はどうなのかと同じように。こうした選択肢がさまざまに示され、それぞれの場所ごとに適した選択肢がわかるのが当たり前になるといいですね。そうして初めて、今使っているプラスチックが環境にいいものだということをユーザーが把握できる。それはグリーンポリエチレンの目に見えない価値に光を当てるので、ブランディングにもつながっていくはずです」

エコプラスチックの種類、環境への貢献度、その後の使われ方や処理まで。エコなプラスチックを使うことが当たり前の社会になりつつあるなか、これから私たちに必要なのは、良いところも悪いところも含めて、プラスチックにまつわる知識を身につけるということ。そうした小さな意識を持つことで、また新しいプラスチックの可能性が広がるのかもしれません。

INFORMATION

双日プラネット

合成樹脂商社として、さまざまな領域において各種プラスチック、中間材、製品等をグローバルに幅広く取り扱っています。
プラスチックを活かしながら、安心・安全と資源循環のニーズに応える新たな事業を創造し、環境に優しい豊かな社会づくりをめざしています。

双日プラネット
https://www.sojitz-planet.com/jp/

PROFILE

太刀川 英輔

太刀川 英輔

NOSIGNER代表 / JIDA(公益社団法人日本インダストリアルデザイン協会)理事長 / 進化思考提唱者 / デザインストラテジスト / 慶應義塾大学特別招聘准教授

デザインストラテジストとして、プロダクト、グラフィック、建築などの高度なデザイン表現を活かし、SDGs等を扱うプロジェクトで希望ある未来をデザイン。国内外の100以上のデザイン賞を受賞、グッドデザイン賞等の審査委員を歴任する。
山本七平賞を受賞した著書『進化思考』(海士の風、2021年)に体系化された、自然から創造性の本質を学ぶ思考法は、産学官の創造的人材育成に用いられる。
主なプロジェクトは、東京防災、PANDAID、2025大阪・関西万博日本館基本構想など。
他の著書に『デザインと革新』(パイ インターナショナル、2016年)がある。

NOSIGNER
公式Webサイト
https://nosigner.com/

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