双日ツナファーム IoT・AI実証実験プロジェクト

双日がマグロの養殖事業に参入した背景

もともと双日では地中海やメキシコ、オーストラリア沖からマグロを買い付けて日本国内で販売する、という事業を行っていました。しかし2007年頃、資源管理や漁獲規制の関係でなかなかマグロが確保できず、国内のニーズを満たせなくなってしまいました。それならば、安心・安全という面からも自分たちで養殖してしまおうと。最初は海外で行うという案も出たのですが、やはり安全で品質がいい国産マグロに挑戦しようということになり、いくつか養殖候補地を検討した結果、長崎の鷹島に決めました。

実は水産物って、天然と養殖のシェアが逆転しつつあるんですよ。つまり、養殖の割合がどんどん増えている。資源に負荷をかけることはよくない、という考え方が世界的なスタンダードになってきた中で、「自分たちで作って(養殖して)売ろう」というアイディアが出てきました。

IT化に至る経緯

養殖事業をスタートしてからは、数限りないアクシデントがありました。屋外の厳しい環境下にさらされるので機械の故障や資材の不具合は頻発しますし、なにより自然相手なので読めない部分がある。生け簀の中でマグロを飼育していくわけですが、1,000匹入れて、しばらく後に見てみると数が大きく減っている、ということもありました。生き物なので死んでしまう個体も出てくるわけです。当初はその原因を特定するのにも一苦労でした。

実は、マグロの養殖にIoT・AIを活用し、給餌の最適化と尾数の自動カウントに取り組もうと考え始めたきっかけは、すごくアナログでした。ITでの解決を前提とはせずに、現状抱えている課題をまずは教えてほしいというスタンスで、色んな事業にアプローチしました。IT化による改善・解決という方向から入らなかったことで、養殖事業の本質的な課題が見えてきて、何に注力すべきかが定まりました。ただ正直なところ、課題をIT化でどうやって解決するのか、その時点では見当もつきませんでした。しかし、まだ誰も取り組んだことがないチャレンジングな事業だと思うと、新たな意欲が沸いてきたのを覚えています。こういう、アナログとデジタルの融合が大事なんだなと思いましたね。

そこで、情報企画部として力を入れ始めていた「攻めのIT」の1stチャレンジとして、「マグロ養殖事業をIT化していこう」という声が挙がりました。最初は何をどうIT化すればよいのか手探り状態だったのですが、とにかくまずはデータを集めなければということになりました。これまでデータ収集・解析と言えば、経理とか管理とか、そういうコーポレートの部署で扱われるイメージが強くありましたが、これからは営業本部でもどんどん活用していこうと。そこで、生け簀にセンサーを入れてエサの量や質の分析(IoT)を行うことや、泳ぐマグロの画像解析にAIを活用するといったIT化に着手しました。NTTドコモやISIDといった外部企業の方にもご協力いただいたことで、ようやく実証実験に着手できるところまで来ることができました。注(1) NTTドコモは、株式会社NTTドコモの略称として用いています注(2) ISIDは、株式会社電通国際情報サービスの略称として用いています

現状に対する評価

スタートから1年半ほど経ちましたが、正直言って「まだまだこれから」という感覚です。ただ、事業のコンセプトも明確、かつ時流にも乗っており、協力してくれる方も増えてきていて、現場でもこれはいけるぞという手応えは感じていますね。それでも、やはり自然が相手なので、設備を付けて1ヶ月やそこらで壊れてしまった、というような事態もありえます。今後は成果を振り返って方法を再検討するとか、柔軟に考えていかなければならないでしょう。

私は情報企画部側の担当として、当事業に関わる知識や技術をさらに向上させていかなければいけないと考えています。一時期はITはさておき、養殖事業の勉強に注力した時期もありました。実際の現場の方々には敵わないとしても、マグロの特性や養殖事業について、最低限のことはきちんと分かっていないと営業と共通言語で会話が成り立たないので、現場に近づき寄り添うことが大事でした。そうやって現場と同じ目線で考え共に試行錯誤することで、初めて最適なIT化方針・案をまとめられたと思います。

同じくITの面から言うと、最初のチャレンジとして自然を相手にするのは簡単ではないなと感じています。機械や設備が相手なら、環境が安定しているのでデータを取るのも簡単です。しかし、例えば生け簀の中を撮影する場合、海だとちょっとした天候、風の変化で水が濁ってしまう。なかなか難しいんですよ。ただ今回、とてもいいパートナー、NTTドコモおよびISIDとも出会え、さまざまな関係者を巻き込みながら「一緒に日本のマグロ養殖をITで良くしていこう」と、同じ目線で取り組めているので、とてもやりがいがありますね。

※生簀の中を泳ぐクロマグロ

事業を通じて学んだこと

漁業の現場が厳しい状況にある、ということは肌感覚として分かりました。だからこそ、私たちの事業を通じて島の状況を好転させたいなと。そういった地域貢献というのも、双日ツナファーム鷹島をつくった目的の一つです。そして、ここでの事業をモデルケースに、日本全体にどんどん広げていきたいと考えています。

漁業にも農業と同じような社会課題、後継者問題があるんですよね。漁師は朝も早く、作業が相当過酷ですから、なかなか後を継ぐ人が出てこない。そういう中で、私たちの進める養殖事業のIT化を通じて、漁師を取り巻く環境の改善にも協力できたらと思います。IT化によってコスト削減、業務効率化が図れれば、より安定的に収益を上げられるような仕組みができ上がり、水産業に対するイメージがよくなって、たくさんの若者が就業してくれるようになると嬉しいです。

私は、日本の養殖マグロがいかに価値のある商品か、ということを実感しています。地中海でもメキシコでもマグロは養殖されていますが、やはりその中でも日本のマグロは安全で品質がいい。高品質なマグロを生産できる背景には、我々を含めた養殖事業者の努力があるわけです。物流もそうだし、管理体制もそう。積極的なIT化にしてもそうです。徹底的に安全と品質にこだわっているからこそ、他の国で作られたマグロとの差別化ができているのだと思います。

今後の目標

やはり日本の養殖マグロの中で「双日の手がける鷹島が一番」と言われるようになりたいですね。もちろんいまでも「鷹島のマグロは美味しい」と言ってくれるお客さまは大勢いますが、より広い対象に向けた養殖、例えばもっとハイエンドなマグロ、あるいは逆に量販店向けのマグロなど、さまざまな付加価値づくりに挑戦したいと考えています。事業拡大にはお金がかかるのでまた会社とも交渉しなければなりませんが、IT化を進める中でデータも揃ってくるので、以前よりはずっとロジカルな交渉ができるのではないかと考えています。

マグロではなくて別の魚の話ですが、実は昨今、ブリは天然より養殖の方が価値が高くなることがあります。天然のものは個体差が大きかったり、釣り上げる時に傷がついてしまったりもしますが、養殖は味も品質も常に安定している。それで市場が養殖ブリの方に傾くのですが、これと同じことがマグロでも起こる可能性があります。それに向けたマーケティングをいまやろうとしているところです。こういった、いままでのIT部隊では携われなかった事業領域にも入っていけるのは、総合商社ならではと思っています。多種多様な事業におけるIT化の支援はチャレンジングですが、面白そうですよね。

ITを通じてもっと業績を伸ばしていく、グループ会社を含めて営業現場と一緒にビジネスをつくっていく、というのが目標です。いまの世の中、新しい何かが生み出されるときは必ずITが関わっている。ITなくしてイノベーションはないと言ってもよいでしょう。総合商社ってさまざまなビジネスを展開しているので、午前はパン工場、午後は自動車の組み立て工場の案件と、頭を切り替えるのも大変ですが、ここが総合商社のIT部隊の一番の醍醐味であり、挑戦しがいのあるところです。これからも“素人発想玄人実行”の精神で、よりいっそう攻めのITを進めていきます。

今後も双日らしいマグロ養殖を展開していきたいと思います。いち「養殖会社」ではなく、双日グループの養殖会社として、ツナファーム事業を通じ、社会に貢献していきたいです。従業員はもちろんですが、地元のコミュニティ、漁師さん、取引先、皆がハッピーになれる事業にしたい。総合商社である双日にはさまざまなノウハウがありますから、それらも存分に活用しながら、より意義のあるビジネスに育てていけたらいいですね。

Junya Hanzawa
半澤 淳也 食料・水産部 担当部長
2006年から水産流通部でマグロの貿易に従事。日本国内での本マグロ養殖事業を企画し、2008年9月に双日ツナファーム鷹島を設立。その後も第二の養殖会社である双日ツナファーム八勝を設立するなど、現在も新たなマグロ資源開発事業としての海外案件に従事。
Hiroyuki Onishi
大西 啓之双日ツナファーム鷹島 社長
1987年に畜産部に配属。北京ダックの輸入なども行い、中国へ赴任。中国駐在では、双日大連の総経理として食品以外の取引も担当。帰国後は、双日食料で食品本部長を担当。食料・水産部に帰任後、現職に至る。
Masaaki Murakami
村上 雅明情報企画部 情報企画第二課アシスタント・マネジャー
情報企画部に配属され、情報系システムの企画・運営に従事し、ニチメンとの合併時には情報系システムの日商岩井側の主担当としても活躍。現在は「攻めのIT」唯一の主担当/専任者の立場から、IoT・AI等のデータ利活用促進活動を推進している。
Yasuo Yamasaki
山崎 庸雄情報企画部 副部長
双日創生期において、関係会社基幹システム統合やリスク管理系を中心とした多数の個別システム構築、JSOX導入などを経験。現在は、2課長兼副部長として、業務系システム全般に加え、海外事業会社支援強化、IOT・AIを中心とした新規取り組みを推進。
Masaaki Murakami
村上 雅明情報企画部 情報企画第二課アシスタント・マネジャー
情報企画部に配属され、情報系システムの企画・運営に従事し、ニチメンとの合併時には情報系システムの日商岩井側の主担当としても活躍。現在は「攻めのIT」唯一の主担当/専任者の立場から、IoT・AI等のデータ利活用促進活動を推進している。
Yasuo Yamasaki
山崎 庸雄情報企画部 副部長
双日創生期において、関係会社基幹システム統合やリスク管理系を中心とした多数の個別システム構築、JSOX導入などを経験。現在は、2課長兼副部長として、業務系システム全般に加え、海外事業会社支援強化、IOT・AIを中心とした新規取り組みを推進。

※記事中の所属部署は取材当時のものです。

双日パーソンが描く夢

READ MORE

世界で挑む双日パーソン

READ MORE

アイルランド風力発電プロジェクト

READ MORE

双日ツナファームIoT・AI実証実験プロジェクト

READ MORE

理系も体育会系も活躍する双日

READ MORE

MBA留学経験者座談会

READ MORE