アイルランド風力発電プロジェクト

- 中島 彬匡
- 環境インフラ事業部
再生可能エネルギー
第一課
これまでに主計部、営業部などを経て、電力・水事業の開発・管理業務に従事。2016年から欧州風力事業開発を担当し、今回のアイルランド風力事業に関与。
- 倉本 英樹
- 環境インフラ事業部
再生可能エネルギー
第一課
ニューヨークに長期海外トレーニーとして赴任後、再生可能エネルギー課に異動し、国内、中東の太陽光案件を担当。現在は欧州市場を担当。
- 01双日が風力発電事業に
参画した経緯 - -欧州風力発電に悲願のチャレンジ-

倉本
双日として安定収益基盤の構築・拡大を目指していくうえで、再生可能エネルギー事業は注力分野でした。生み出されたエネルギー(電力)は固定価格で買い取られる制度があり、安定した収益が見込めます。当社では以前から、ドイツでの太陽光発電所の買収や国内12ヶ所での太陽光発電所の開発・運営を通じて、当分野でこつこつとノウハウを蓄積してきました。同分野で先端をいく欧州において、風力発電が今後スタンダードになっていくことに着目。我々も風力発電への挑戦を決断し、欧州随一の風況を誇るアイルランドでの風力発電買収プロジェクトが立ち上がったのです。

中島
国内では2011年の震災以降、高い価格設定で電力買取制度が導入されたことから、我々は主に国内の太陽光発電に注力してきました。しかし昨今その価格も下落傾向にあり、加えて日本では電力需要も頭打ちの状況でもあり、今後の事業拡大を目指すと国内の案件だけでは心もとないと。翻って、海外に目を向けたとき、倉本が言うように欧州の風力発電が非常に有望な市場だと分かってきた。実を言うと、欧州風力発電は以前にもチャレンジしたことがあったのですが、条件が合わずに断念したという苦い経緯がありました。そういう意味でも悲願のチャレンジだったわけです。

- 02アイルランド企業の
買収について - -ロジックとパッションで巻き返す-

中島
今回の件は、当社を含む日系コンソーシアムが、60%を買収し、残り40%を売り手の既存パートナー2社が担います。つまりいわゆる「売り切り」ではなく、これらの企業とは今後も長きにわたってパートナーシップを結び続けることになります。だからこそ入札では、相手から信頼できるパートナーだと認めてもらわなければ勝てないのですね。もちろん買収金額も大切な要素の一つではありますが、それだけではありません。将来にわたって一緒にビジネスを拡大していける相手だと信じてもらえないと、金額面で勝っていても選ばれない可能性がある。実際に私たちは、この案件で相手から買収を一度断られてしまっていたのです。

倉本
ある日、中島からどうやら買収は厳しいかもしれないと電話がかかってきました。相手も価格だけじゃなく総合的に判断するので、どこがどう他社に比べ劣っているかまでは分からないが、とにかく「残念ですが……」と言い渡されたそうで、相当へこんだ中島の様子が電話口からひしひしと伝わってきて、お互いに無言になったことを覚えています。

中島
とはいえ、こちらとしても「はいそうですか」と引き下がるわけにはいきません。もう一度チャンスをくださいと頼み込むかたわら、社内や日本側コンソーシアムと共に売り手からのリクエストで受けられる部分を模索し続けるなど、提案内容を徹底的に吟味していきました。

倉本
「残念ですが……」という話をもらった後でしたが、中島がすぐ、現地にもう一度飛ぶと言ってきました。入札と言っても政府による入札ではなく、プライベートなオークションだったこともあり、いったん入札が終わった後にも交渉の余地は残っていると信じて。相手が本当に何を求めていて、自分たちには何ができるのか、再度話し合ってくることになったのです。現地を中島に任せ、東京に残る私はその分、社内の調整や承認手続きに注力することにしました。

中島
交渉相手のいるロンドンやアイルランドに飛び、あとはひたすらミーティングです。相手からは「このポイントがよくない」とはストレートに言ってもらえないので、会話の中で相手の要望や本音を探り、こんな条件なら相手に刺さるだろうか、この部分は削ってもいいかもしれない、とイメージを膨らませながら提案を練り込んでいきました。将来この人達は何を実現しようとしているのか、それを考えつつ、一方ではこちらがパートナーとして信頼できるということをアピールしていく。ロジックとパッション、両方が必要なんですよね。

倉本
2016年の年末くらいから話が始まり、実際の入札が翌5月初め、そこから中島がずっと協議を続けて、最終的な契約が7月末。そう考えると長い交渉でした。特に入札の後の巻き返しでは、ロンドンにいる中島と東京の私で、非常に密なやりとりを行っていました。

- 東京とロンドンのやりとり

中島
ある日の夜、ロンドンから倉本に電話をかけました。先方の機関決定の期限が迫っていて、どうしてもロンドン時間で3日後の朝までに条件変更に対する双日の社内承認をとってほしいと。でもその時、日本時間ではすでに翌日の朝でした。



中島
「倉本さん!クライアントの最終決定期限が迫ってきています。クライアントのニーズから調整した最終提案内容で、3日後の提出に間に合うように日本側でも社内の承認を取ってもらえませんか」
ロンドン 7月4日 夜

倉本
「つまり東京側は、明後日の午前中で経営陣に発表・承認を得ないといけないということか?!…しかし、双日としても欧州での風力発電事業は悲願…。まずは東京側で進めていかなければ!」
東京 7月 5日 朝

倉本
まずは課長、続いて部長に報告
▼続いて本部長へ
▼さらに本部長から経営陣へ
▼苦労の末、スピード感を持って社内の承認を得ることに成功。欧州側で進めている最終提案内容の受け入れ態勢を整えた。
東京 7月 5日 ~ 6日

倉本
「中島!期限内に社内の承認を得ることができたぞ!成約に向けて、最後のクライアントへの提案はよろしく頼む!」
東京 7月 7日 朝

中島
「本当ですか!ありがとうございます!あとは任せてください」
(翌日クライアントに向けて最終提案に臨む)
ロンドン 7月 6日 夜

中島
「倉本さん!先ほどクライアントから連絡があり、我々がパートナーに選ばれました!」
ロンドン 7月 7日 朝

倉本
「中島よくやった!信じていたぞ!」
東京 7月7日 夜
※会話中の日付は架空の設定です

倉本
きわめてタイトなスケジュールでした。しかし双日としては欧州での風力発電事業参画は悲願だったので、これはなんとかしたい、と。一般的に、社内の承認は課長、部長、その次が本部長、本部長から経営というルートで進みますが、期限まではたったの3日間。文字通り、社内を駆けずり回ってなんとか必要な社内承認を得ることができました。日本時間で3日目の朝、ロンドンでは夜中でしたが、中島に大急ぎで電話をかけ、「なんとかなりそうだ」と報告。二人で大喜びしたことは忘れられない思い出です。

中島
日本とロンドンは時差が9時間で、ある意味ちょうどいいのですよね。それぞれの業務時間帯がずれるので、私がロンドンで昼間働いて、退社前に倉本に連絡する。東京はその頃もう朝ですから、私から報告を受けた倉本がそこからガンガン動いてくれる。私と倉本で、途切れることなく進められたわけです。

倉本
社内ではコーポレート部隊が一体となりサポートしてくれたおかげで、会社が追求している「スピード感」をもって社内の承認プロセスを進めることができました。こうしたことが実現できるのも、やはり双日の風通しの良さがベースにあるのだと思います。ここまで社内のさまざまな部署の協力を得たからには、私たちとしても、もうやるしかないという想いでした。

中島
最終的にはこちらの提案が通ったのでよかったのですが、相手と最終合意に至るまでもかなり長かったです。何しろ私は、帰国するフライトを14回キャンセルしてますから。最初は滞在2週間のつもりで行ったのに、結局3ヶ月半滞在したりすることもありました。途中で救援物資が届くんですよ、靴とか服とかが日本から。着ていったダウンジャケットを持って帰るときにはすでに真夏になっていました(笑)。


※コンソーシアムとパートナーとの食事会
(ロンドン)
- 03双日で働く人に
求められるもの - -役割を理解してチームで動く力-

倉本
双日では、チームで動ける人が求められるのではないでしょうか。ただ、チームと言っても「誰とでも仲よくなれる」ということではありません。自分の考えを持っていて、それを臆することなく主張でき、かつ協調できるという「バランス感」が重要なんじゃないかと思っています。チームにはときに意見の対立も必要で、それを互いに受け止めた上で同じ目的に向かって協力できるか、ということが重要です。もちろん私自身、最初からそんな風にうまくバランスをとれたわけではありません。失敗したことも反省したこともたくさんあって、いまでもまだまだ未熟者だと思っています。でも、今回の私と中島のように、とにかく目的達成のために互いに全力を尽くす。切磋琢磨し、支え合い、必死でプロジェクトを成功させていける。そういう信頼関係を作っていってほしいですね。

中島
人間一人にできることって限られていて、できないことを誰かにやってもらうという提案ができることが重要だと考えています。その道のプロというのは世の中にたくさんいらっしゃるので、そういう方を上手に配置して、目的達成までの道筋を描ける人が必要になってくるのだと思います。また、自分の役割を理解して、その職務に対して「責任感」を持って動けることも重要ですね。例えば今回の私と倉本で言えば、私はヨーロッパの現場で交渉、倉本は日本で社内承認の取得と、それぞれの役割がありました。そのなかで自分のやるべき仕事に全力を傾け、かつ全体の目的を見失わないということが、双日で働く人に求められる要素なのかなと思います。

※記事中の所属部署は取材当時のものです。