~ 医療の手を、世界中のあらゆる人に 〜
医療インフラ事業部は、トルコ病院建設・運営事業をきっかけに立ち上げられた組織です。事業の第一の柱を「PPP型*病院運営事業」、第二の柱を「一次医療(プライマリ・ケア)×新技術」として、“病気を防ぐから治すまで”の一気通貫で世界の医療を支えることをめざしています。
今回、初の大規模病院建設案件を推進することができたのも、ルネサンスグループ(現地大手建設会社)と培ってきた信頼関係があったからこそです。世界中に拠点を持つ総合商社ならではのネットワークで医療分野以外のパートナーも巻き込み、ともに事業を発展させていきます。
5月21日に行われた病院の開院式典では、トルコのエルドアン大統領、テレビ会議で出席した安倍総理からメッセージがあり、トルコはもちろん日本からの期待も背負ったプロジェクトであると実感すると同時に、トルコの医療に貢献し、人々のお役に立てる喜びも感じました。
現在、医療インフラ事業部では、プライマリ・ケア強化のためにAI、5Gを活用した遠隔診療や、ICTを用いた高齢者向けのサービスなど、新技術を医療に活かすべく取り組む企業に出資し、サービス導入を支援しています。これらの遠隔医療の分野はもっと先の未来に向けて体制を整えている段階でしたが、コロナ禍によって一気に注目されることになりました。「先を読んでどうビジネスチャンスをつくるか」が、今後双日の医療分野を進化させるポイントになると思います。
今回の事態と向き合い、医療現場での急務は病院での対面診療と変わらない質で、どこでも診察を受けられるようにすることだと再認識しました。医療の手を、世界中のあらゆる人に届けられるように注力していきます。また、このような新分野のビジネスは新しい「発想」が必要です。当事業部には若いメンバーが多いので、臆することなく挑戦を重ねていきたいですね。
* Public Private Partnership:官民連携型事業
2017年、日本企業初となる海外での病院PPPで、トルコにおいて「イキテリ総合病院*」建設・運営事業への参画が決定しました。パートナーは10数年来のつきあいがある現地の大手建設会社、ルネサンスグループ。現地確認や情報の精査、ファイナンスから融資を受けるためのアプローチのフェーズを経て、工事が進められていました。そのような中、新型コロナウイルスの感染が同国内で拡大。6月の開院予定を前倒しして4月から感染患者の受け入れを開始し、5月に正式開院しました。
建設だけではなく、今後の運営における検体ラボ、滅菌・消毒、リハビリテーションなどのサービスは双日とルネサンスの合弁会社が長期で請け負う予定です。日本の医療ノウハウを用いた本プロジェクトは、トルコの医療現場に大きく貢献していきます。
* 正式病院名:バシャクシェヒール チャムアンドサクラ シティー病院
このプロジェクトは、2017年10月より着工しました。双日側は現地駐在員4名を含めた10名ほどのチームで舵を取り、病床数2,682床のトルコ最大級の病院建設事業は、工事作業員延べ2万人規模で順調に進行。2020年10月の開院予定を6月に早めていました。しかし、今年に入り、世界中で新型コロナウイルスが蔓延。トルコでは3月に感染者が急激に増加し、医療現場がひっ迫し始めていました。そして、4月上旬、まだ建設途中のイキテリ総合病院に、「感染患者受け入れ先として開院してほしい」と大統領府からの要請がありました。
ロックダウンにより外出制限がある中で、本来なら完工が遅れても仕方のない状況であるにもかかわらず、現場のプロジェクトメンバーは、「一刻も早く患者を受け入れなければ」、「今こそトルコの人々の役に立つ時だ」と、目の前の使命に燃えていました。日本のメンバーは渡航ができない状況でしたので、毎日Web会議を行い、現地から吸い上げた意見から情報整理などのサポートに回りました。当初の計画とは異なる流動的な動きもありましたが、4月20日に感染患者の受け入れを開始し、5月21日に正式開院を迎えました。
本プロジェクトは、多くの会社や団体、機関が参加する大規模なもの。一つの目標に向かって足並みが揃ったからこそ、この困難な状況下でも乗り越えられたと感じています。総合商社として、そのプロセスに一から関与できた経験は大きいですね。
また、病院運営は「つくって終わり」ではなく、商業ベースにのせて持続的にサービスを提供することができます。そこで得たノウハウを、次のプロジェクトや他の医療インフラ事業にも活かしていきたいです。それが日本、ひいては世界中の人々の健康を守り、生活の質を安定させることにつながるのではないかと考えています。
(所属組織、役職名等は本記事掲載当時のものです)
2020年9月掲載