インド鉄道事業

~貨物専用鉄道が拓くインドの未来~

2015年7月

(所属組織、役職名等は本記事公開当時のものです)

双日がインド最大のゼネコンとともに建設を進めるデリー~ムンバイ間貨物専用鉄道。
首都デリーと商都ムンバイとを結ぶこの2階建てコンテナの高速貨物鉄道は、インド経済の成長のカギを握る物流インフラを飛躍的に改善させるものと、日印両国政府からも大きな期待が寄せられている。

2015年1月。インドの首都デリーを訪れた鈴木は、その雑然とした街並み、そしてそこをおびただしい数の人と車とが、けたたましいクラクション音とともに混然と行き交う姿に圧倒された。入社4年目。それまで勤めた経理サービス部から、希望して現在の部署(環境インフラ事業部交通プロジェクト課)に異動して初めての海外出張のことだった。

「途上国、新興国のインフラ整備の仕事がしたい。インフラの整備を通じて、それらの国々の経済発展に寄与したいと希望していたところ、念願かなっていまの部署の一員になることができました。インドの地を踏んだのは初めてことでしたが、この国が経済成長を遂げていくためには、インフラ整備がカギになる――それまでの漠然とした想いが確信に変わった瞬間でした」

インド版『太平洋ベルト地帯構想』

双日は、インド最大のゼネコン兼総合エンジニアリング会社であるラーセン&トゥーブロ社(L&T社)と共同で、デリー~ムンバイ間貨物専用鉄道の「軌道敷設工事」を2013年6月に、続く2014年11月には同「電化工事」を連続受注。現地ではいま、まさに工事の槌音が休むことなく鳴り響いている。

この計画は、首都デリー近郊の貨物駅ダドリと、商都ムンバイ近郊のインド最大のコンテナ港・JNPT港(※1)とを結ぶ貨物専用鉄道(DFC西線※2)を建設するもので総延長は約1500km。双日はその第1フェーズとなる軌道敷設工事626km、電化工事915kmを担っている。

インドは、日本の9倍に相当する国土に12億余の人口を擁し、高い経済成長が期待されている。だが一方、道路・鉄道などの内陸輸送インフラは整備途上にあり、この物流インフラ問題をいかに解決するかが、経済成長のカギを握っている。貨物専用鉄道は、その切り札と期待されるものだ。

「インドでは貨物輸送量が年率約15%で伸びており、既存鉄道の輸送能力は限界に近づいているといわれていますが、このDFC西線が完工すると、1回の輸送量は3~4倍に、デリー~ムンバイ間の輸送に要する日数は現状の3~4日が1日に短縮される見込みです」と、鈴木はプロジェクトの意義を語る。

デリー~ムンバイ間には現在も鉄道はあるが、既存のインド国鉄は貨物列車と旅客列車とが併用されているうえ、「旅客優先」「農作物の国内輸送優先」が運用の基本方針となっているため、帰省シーズンや農作物の収穫期になると、貨車を引く機関車が極端に不足する。さらには、既存の貨物列車はディーゼル機関車が多く、平均時速20~30kmの低速で運行されているため、貨物の輸送はどうしても滞る。

そこで既存のインド国鉄の路線に並行するかたちで貨物専用鉄道を新設し、全自動信号・通信システムを整備、平均時速100kmの高速2階建て貨物列車を導入して効率的な貨物輸送の実現を図る、というのがこの計画だ。

※1 Jawaharlal Nehru Port Trust
※2 Western Dedicated Freight Corridor

デリー~ムンバイ間貨物専用鉄道計画

首都デリー近郊の貨物駅ダドリと、商都ムンバイ近郊のインド最大のコンテナ港・JNPT港とを結ぶ貨物専用鉄道(DFC西線)を建設するもので総延長は約1,500km。双日はその第1フェーズとなる軌道敷設工事626km(ハリアナ州レワリ~グジャラート州イクバルガー)、電化工事915km(ハリアナ州レワリ~グジャラート州ヴァドーダラー)を担っている。

DFC西線計画の背景には、実はさらに大きな構想がある。日印が共同で推進する総合産業インフラプロジェクト「デリー〜ムンバイ間産業大動脈構想(DMIC構想)」がそれだ。

DMIC構想は、DFC西線の両側に広がるベルト地帯に、工業団地、物流基地、発電所、道路、港湾、住居、商業施設などのインフラを民間投資主体で整備しようという日印共同の地域開発構想。いわば、日本の太平洋ベルト地帯構想のインド版であり、その大動脈の中心を貫く中核的インフラと位置づけられるのが、このDFC西線だ。

デリー~ムンバイ間産業大動脈(DMIC)構想

日印が共同で推進する総合産業インフラ開発プロジェクト。DFC西線を軸に、その両側150km以内に産業ベルトを立ち上げる構想で、工業団地、物流基地、発電所、道路、港湾、住居、商業施設などを含む合計24の特別工業区の整備が推進されている。

pj1508_03.jpg

過去最大級の円借款事業

2015年5月、東京霞ヶ関の双日本社。鈴木は、交通プロジェクト課のある22階のいつもの会議室で、大型モニターから発せられる声に真剣に耳を傾けていた。DFC西線のプロジェクトに関わる日印のメンバーが会して定期的に行っているテレビ会議だ。

東京側からは、廣瀬が率いる交通プロジェクト課の6人が。インド側からは、双日がこの事業推進のために設けた現地拠点WDFCプロジェクトオフィス、ならびにパートナーのL&T社の関係者が顔をそろえて、工事の進捗状況などをつぶさに確認しあう。

WDFCプロジェクトオフィスがあるのは、デリー郊外のファリダバード。交通プロジェクト課から佐野、八木の2名が赴き、インド人技師らとともに総勢6名で、現地側での任務遂行にあたっている。

DFC西線計画において双日は、L&T社と共同で主契約者となり、コンソーシアム・リーダーとしてプロジェクト全体の管理などを行っている。契約金額は、軌道敷設工事が約1100億円、電気工事が約500億円。前者は、日本政府が供与している円借款案件の中でも過去最大級のもの。後者は、単一の鉄道電気工事としては世界最大級の規模と、ともに巨額の円借款案件となるが、もう一つの大きな特徴は、これらが本邦技術活用条件(STEP※3)付きだということ。調達品の一定割合は日本品であることが条件づけられており、これら日本品の調達にあたるのも双日の大きな役目となっている。

例えば、軌道敷設工事においては、高い耐久性を誇る熱処理レールを双日のグループ会社であるメタルワンを通じて調達。電化工事においては、変電機器や架線などを日本のメーカーから調達する。

双日が担う業務で、欠かせないのが進捗管理。プロジェクトがスケジュールどおり進むよう現場の状況を日々確認するとともに、やむを得ない事態が発生した場合には、その原因を明らかにし、関係者との調整を図る。

「工事がすべて順調に進んでいるかというと、なかなか日本のようには進まないというのが実情です。頻繁に実施される法改正や複雑な税制といったインド特有の壁にぶつかり、計画変更を余儀なくされることも多いからです」と、鈴木は苦労をにじませる。

「でも、そうした困難を課のメンバーやパートナーであるL&Tの方々と力を合わせながら一つひとつ乗り越えていく。そうした過程を通じて、夢がだんだん現実へとカタチを変えていくことに、やり甲斐と歓びを感じています」

輝かしい歴史と伝統の上に

韓国大邱のモノレール

米国フィラデルフィアのSilverliner V

2015年4月23日。課長の廣瀬は、韓国南部の中心都市・大邱にいた。双日韓国が日立製作所と共同でシステムを納入した、韓国初の都市交通モノレールがこの日開業を迎え、その開業式に参列するためだ。

250万の人口を擁する韓国第3の都市、大邱。その都市鉄道3号線として導入されたこの跨座式モノレールは、既存の都市景観を最大限に保護し、都心回遊型の観光資源として活用できるメリットが決め手となって採用されたもの。都心と郊外の住宅地とを結び、これまで車で70分以上かかった区間が48分に短縮される。

始発列車が無事滑り出したのをその目で見届けた廣瀬は、感慨深げに振り返る。

「双日は昭和31年に戦後初の鉄道輸出をアルゼンチン向けに成約。これを皮切りに日本の鉄道技術の高さが世界的に高く評価されるところとなり、以来、世界各国に向けて次々と輸出実績を積み重ねてきました。その累計は12000両以上にのぼります。諸先輩方が築いてきた、こうした信頼と実績の上に、いまここに都市交通モノレールという新しい1ページを加えることができたことは、感慨もひとしおです」

そしていま廣瀬たちは、次代に向けて、さらに新しい地平へと突き進んでいる。

「インドの貨物鉄道プロジェクトという鉄道インフラ事業は、60年近くに及ぶ双日の鉄道車両輸出の輝かしい伝統の上に花開いた新しい事業領域であり、われわれはいま伸びゆくアジアを中心に、こうした鉄道インフラ事業への取り組みをさらに強化していこうと考えています」

「そしてさらにその延長線上では、港湾などその他の交通インフラも狙いたい。交通プロジェクト課は、インドのほか米国にも2名の駐在員を置いていますが、彼らとはいま貨物鉄道関連事業への参画構想を練っています」

《インフラ整備を通じて途上国、新興国の経済発展に寄与したい》

この想いは、鈴木ひとりだけのものでなく、交通プロジェクト課、さらには環境インフラ事業部全員の心をしっかりと繋いでいる。

プロジェクトメンバー
pj1508_06.jpg
廣瀬 正佳
環境インフラ事業部 交通プロジェクト課長
1992年入社。
入社以来、医療、産業機械、自動車、プラントビジネスを等幅広く経験。ドイツ駐在中に同国で再生エネルギー事業を推進し、2014年5月に帰国し現職。

pj1508_07.jpg
鈴木 啓一朗
環境インフラ事業部 交通プロジェクト課
2011年入社。
財務部にて金融機関からの資金調達を2年半担当後、経理サービス部へ異動。航空・インフラ案件を担当。2014年11月より現職。

WDFCプロジェクトオフィス
pj1508_08.jpg

佐野 王保 (前列中央)
環境インフラ事業部 交通プロジェクト課
1997年入社。
双日-L&Tコンソーシアムの代表者ならびに双日のWDFCプロジェクトオフィスの所長として現地を統括。「この鉄道が完成したら地図に載る。そして歴史にも残る。それがやり甲斐です」

八木 俊晴 (後列右から2人目)
環境インフラ事業部 交通プロジェクト課
2008年入社。
電化工事を入札段階から担当し、2015年2月より現地に赴任。
「いまだ試行錯誤の連続ですが、その先にある案件の成功、インド経済への貢献を夢みて、充実した毎日を送っています」

サイト内検索