日本 マグロ養殖事業

~資源を守りながら、安全・安心で美味しいマグロを食卓に安定的に供給~

2013年12月

(所属組織、役職名等は本記事公開当時のものです)

その希少性から「海のダイヤ」と呼ばれ乱獲が心配されているクロマグロは、2000年代から大西洋や太平洋での国際的な漁獲規制が強化されてきた。ならば国内で育てようと考えた双日が、大手商社で初めて参入したクロマグロの国内養殖事業について紹介する。

[ニュースリリース]双日、マグロ養殖に参入

設立の経緯

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双日ツナファーム鷹島のいけす
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双日は、2008年9月、クロマグロの養殖事業を行う会社として双日ツナファーム鷹島を設立。大手商社として先陣を切って国内でのマグロ養殖事業へ直接投資、参入した。もともと双日の水産ビジネスは刺身用の輸入冷凍マグロ分野の大手トレーダーに位置していたが、クロマグロの資源量減少に起因する漁獲規制と供給の減少に危機感を抱いたことが、養殖事業への参入の大きなきっかけだった。「養殖事業は水産資源を安定供給する商社の役割」と双日ツナファーム鷹島設立時の担当だった半澤淳也は話す。双日は既に地中海における蓄養クロマグロの取扱いを手がけており、その分野で養殖に活かせる知見が蓄積されていたことも、この事業に踏み切った背景にあった。

立地上のメリット

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食料事業部 水産事業課長 宮崎誠尚
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双日が選んだ養殖場所は長崎県松浦市鷹島町の沖合500メートルの大海原。餌と交通インフラの面で大きなメリットがある。マグロの餌は、巻き網漁で捕まえるサバ、イワシなどの青物が中心。松浦市には日本有数の巻き網基地があり、水揚げされたばかりの鮮度のいい餌を比較的安価かつ常時入手できるため、鷹島は餌調達面で全国トップクラスの好条件に恵まれている。また、離島であった鷹島と九州本土を初めて結ぶ鷹島肥前大橋が2009年に完成し、福岡市内から車で1時間半というアクセス至便になったことも大きな利点だ。

冬は最低水温が12℃程度と非常に低く、強い西風や大きな波のうねりがいけすや給餌作業に大きな負荷を与えるという厳しい面がある一方で、漁場には玄界灘から速い潮が流れ込み高い溶存酸素濃度が保たれる。社長として2012年末までツナファーム鷹島を指揮してきた宮崎誠尚は、「水温の低さと速い潮流がマグロの身を引き締め、皮目に脂が乗り、生臭さのない天然物に近い身質という評価をもらっています」と話す。

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試行錯誤の日々、いくつもの試練と確実な成果

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宮崎は農学部出身で、もとは機械の営業マンだった。「昔からとにかく魚が大好きな魚マニア。時間ができれば釣りに出かけては、自ら釣った魚をさばくのが趣味」という。社内でマグロの養殖業の公募があることを知った宮崎は、自ら手を挙げた。

「会社の立ち上げ時の成功は地元の漁業の皆さんとの連携ができるかどうかにかかっていました」と宮崎。鷹島はトラフグの養殖も盛んで、その近くでマグロの養殖を始めることでフグの養殖に影響があるのでは、との懸念の声もあった。そういった環境の中でも理解を得て漁協に加盟させていただき、いけすの大きさや形、給餌方法などたくさんの助言をいただいた。一方で潜水資格を持った社員が潜水技術を生かして地元漁業者の求めに応じて協力するなど、共存共栄できる関係を地道に構築していく努力を重ねた。「まさに試行錯誤であったため、漁協をはじめとする多くの方々の全面協力はありがたく、心強かった」と宮崎は感謝の念にたえない。

とはいえ、これまで経験のないマグロの養殖事業は、設立から今日まで試行錯誤の繰り返しだった。クロマグロの養殖は、重さ数百グラムのヨコワと呼ばれる稚魚をいけすに入れ、3年かけて30キログラムを超える成魚に育てる。もともと稚魚からの生存率が低いマグロを大切に育てて生存率を上げるということは並大抵のことではない。急激な水温の低下やいけすへの衝突によってマグロが死ぬ、マグロがいけすの外に飛び出して逃げる。ツナファームの養殖にはいくつもの試練があった。それらの試練を一つ一つ乗り越え、改善を重ねていく過程で新しい発見があり、また課題が見つかる。その連続だ。

だが、それらの経験は確実な成果となって積み上がり、2010年末には初出荷にこぎ着ける。しかし、その出荷量は当初の計画には満たない。「本当に利益を出せるのか」。本社からは厳しい声が毎日のように飛んでくる日々もあったが、ようやく順調に生産量を伸ばしており、2013年度は水揚げが300トン規模に達する見通し。今後本格的な収益貢献が期待されている。

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半澤 淳也 双日ツナファーム鷹島設立時の担当者
マグロ資源の将来を考えて、自分達で安心・安全なマグロを作っていこう、と日本国内での養殖事業の検討に入ったのが2007年1月。いざ調査を始めてみると、これまで携わってきた外国産マグロの輸入・販売とは、仕事の進め方も登場人物もまるで違っていました。漁師さん、餌会社、資材会社、行政、会計士、地元漁協、研究機関の方々との調整、従業員の募集、会社規程の整備、事業計画・資金繰り計画等々…。
マグロは成長して販売するまで3年以上かかることから大きな資金も必要となり、手探りの中で、事業を開始するまでの道のりははるかに遠く感じていました。それでも、絶対にやり遂げるんだという強い信念だけは持ち続け、社内外の皆さんの協力のおかげでスタートすることができました。

自然相手のビジネス

この事業のいちばんのリスクは自然。台風でいけすが傷むこともあれば、稚魚の入手が困難になることも。「自然の影響そのものを防ぐことができませんが、それが起こっても耐えられる事業にしていきたいですね。そのためにやるべきことの一つは、他の養殖場も含めた相互補完のネットワークづくりです。双日に対する信頼を築いてもらい、一緒にやっていこうという緩やかなグループのようなものができれば、たとえば稚魚が大不漁の時などでも、多めに確保している養殖場と融通し合うことができます。また、台風で出荷できないときなどは他社のマグロを融通してもらうことで、お客さんに対する納品義務を守ることができます。そういうネットワークは自然のリスクに対する緩衝材になりうると思いますし、それができるのが商社の養殖事業だと考えています」と宮崎。

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近年のクロマグロを取り巻く環境

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養殖に使う稚魚の漁獲が不安定になりつつある中、双日が挑んでいるのが人工孵化稚魚生育の取り組み。日本で初めてクロマグロの完全養殖に成功した近畿大学と共同で研究に取り組む。

資源を守りながら、安全・安心で美味しいマグロを食卓に安定的に供給する。そして新たな産業として地域貢献を図りたい。宮崎の願い、双日の願いと、それに伴う試練はまだまだ続く。


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双日ツナファーム鷹島のスタッフ

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