オマーン発電(IPP)プロジェクト

"IPPの双日"復活 - 国家の根幹を為す、電力の安定供給への挑戦

2011年2月

(所属組織、役職名等は本記事公開当時のものです)

2010年5月。双日は、四国電力、エンジー(Engie)等とともに国際コンソーシアムを組んで入札に参加していた中東オマーンにおける2つの発電(IPP)プロジェクトで事業権を獲得した。日本企業として初めてとなるオマーンでのIPP事業 ―― その成功に至る道のりには幾多の困難が横たわっていた。

"IPPの双日"を復活させたい




IPPとは「Independent Power Producer」の略で、電力の卸売りを行う独立系発電事業のこと。世界的な電力需要の増大ならびに電力自由化の流れのもとその市場は拡大を続けており、総合商社各社は“非資源”領域における有力事業分野として取り組み強化を図っている。

そんなIPP事業に対し、双日は1990年代初頭から多数の案件を手掛け、日本の総合商社における先駆的役割を果たしてきたが、90年代後半、資産の健全化の取り組みの中で、それら多くの発電資産を手放したという苦い時代を体験した。

“IPPの双日”を復活させたい ―― そんな想いのもと、取り組みが再開されたのは2004年、ニチメンと日商岩井が合併し新生・双日が誕生したその年だった。だが、その後に待ち受けていたのはまさにイバラの道のり。入札に参加はするものの、敗退に続く敗退の苦杯を味わうことになる。経験を積んだ人材が不足し、ノウハウが散逸していたことに加え、リーマンショックの追い討ちも大きな逆風となった。

IPPへの入札参加には多額のコストと時間を要するが、受注できなければすべては水泡と化す。「失注はもう絶対に許されない」。オマーン発電プロジェクトへの応札は、そんな瀬戸際に立たされての挑戦だった。

"envelope"はスーツケース

双日は必勝を期すべく、フランス/ベルギーを本拠に世界で最も豊富な経験を有するデベロッパー、エンジー社とコンソーシアムを組むという戦術を採った。その数年前に別の案件で、競合関係にあったが、それ以来、信頼関係を温めてきた相手である。日本からは双日とともに四国電力が参加、スエズの開発力に日本の技術を組み合わせる体制が整った。

入札書類の提出期限は2009年12月8日、午前10時。オマーンの隣国UAEのドバイにあるエンジー社のオフィスで数カ月にわたりプロポーザル作成に携わってきたプロジェクトメンバー達は、徹夜の毎日。オフィスでのゴロ寝が続き、疲労は極致に達していた。リスクを見極めつつ勝てる札にするにはどうすればいいのか、パートナー間で最後まで喧々諤々の議論を繰り返し、ようやくプロポーザルが完成したのが締切当日の午前3時。既に飛行機便がないため陸路で5時間、クルマ2台をマスカットまで飛ばし、提出時間ギリギリに間に合った。入札書類は、1セット分だけでも大型スーツケースにぎっしり一杯。そのスーツケースに直接宛名を書き、’envelope’(封筒)に見立てて提出した。

その後、他有力応札者との厳しい競合、オマーン政府・売電先との契約交渉を乗り越えて、落札の報が届いたのは、半年後の2010年5月。苦節6年、“IPPの双日”の復活に向けた大きな一歩を踏み出すことができたこと ―― それがメンバーには何よりも嬉しかった。

首都マスカットの西75kmに位置する「バルカ3」、西240kmに位置する「ソハール2」。それぞれ744メガワットの発電容量をもつ2つのガスタービン・コンバインドサイクル発電所は2010年9月に着工、建設サイトではいま、2013年4月の商業運転に向けて槌音が響いている。

電力需要の伸びはGDPの伸び

ワヒバ砂漠。オマーンは国土の約80%が砂漠、15%が山地で占められている© Vatikaki | Dreamstime.com
オマーンはスルタン(=国王)が行政を司る王制国家(写真はマスカットにある王宮)© Pavel Losevsky | Dreamstime.com
イスラムの伝統的商品が並ぶマーケット© Vatikaki | Dreamstime.com

オマーン経済は、1967年に石油生産が開始されて以来、その発展をほとんど原油収入に頼ってきた。が、こうした石油依存体質からの脱却を図るべく、政府は外国資本による国内産業の振興、国営企業の民営化などを積極的に推進している。国際コンソーシアムによるIPP事業の導入もこうした一連の施策のもとに進められてきたものだが、一方わが国にとっても、双日・四国電力が日本企業として初めて同国のIPPプロジェクトに参画したことは、次のような点できわめて大きな意義をもつ。

アラビア半島の南東端に位置するオマーン国の北端は、日本の石油輸入量の約8割が通過するホルムズ海峡に面しており、同国との友好関係の促進は、わが国のエネルギー安全保障上、不可欠なもの。このため日本は従来から、同国への技術協力、経済協力を積極的に進めてきた。世界トップレベルにある、電力の安定供給に関わる日本の技術・ノウハウが民間ベースでも導入されることは、同様の意味で、同国の経済発展、ひいては友好関係の促進に大きく寄与することになるのである。

オマーンにおける電力需要は現在、夏のピーク時で約3,500メガワット。石油依存体質からの脱却をめざし経済の多様化を図る同国では、この需要が年々10%近く伸びているという。「バルカ3」「ソハール2」(発電容量744メガワット)クラスの発電所を2年に1つずつは造り続けなければならない、という計算になる。

「GDPの伸び率と電力需要の伸びとは、世界中どの国でも、なぜかぴったり一致するんですね」。プロジェクトチームの一人が語るこの経験知は、電力の安定供給が国家経済の発展にとっていかに大切なものであるかを、改めて教えてくれる。

ブランド・ビジネスの経験を基盤に

双日㈱プラント・インフラ第一部第三課  課長 浅野琢司

プラント・インフラ第一部第三課

当課には2つのチームがあり、IPP事業のみならず、中東諸国におけるプラント・EPC(設計・調達・建設)事業、具体的には発電、製鉄、アルミ精錬といったプラントの建設から、各種プラント向けの設備・機器の納入も行っています。私たちにとってのIPP事業は単なる投資ではなく、商社がプラント・ビジネスを通じて長年にわたり蓄積してきた経験を基盤に、そのノウハウを活用しながら行っている事業、と位置づけられるものだからです。

事業会社プロジェクトオフィス

日本がグローバル経済の中で生き延びていくためには、資源国や新興国の持続的成長の実現に積極的に関与することで、そこから生み出される利益を相互に還流させる仕組みづくりを行っていくことが求められる。長期にわたる売電契約に基づきこうした資金還流が安定的に確保されるという点でも、IPPは日本経済に確実に貢献できる事業スキームだと考えています。

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