双日株式会社

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【NewsPicks掲載記事】
[新規事業]「我が社でやる意味」を問う会社は、つまらない

その覚悟に、会社がお金出します。

新規事業を創出する「Hassojitz(発想×双日)プロジェクト」。
Hassojitz プロジェクト 2020 最終発表会の様子、そして、経営戦略論を専門とする早稲田大学教授 入山章栄氏、元双日(当時:日商岩井)、米GEシニア・バイス・プレジデントで、現在は複数の社外取締役を兼任し、双日アルムナイ会長の藤森義明氏、藤本社長の3名による鼎談ていだんを通じて、新規事業の創出に本気で取り組む双日の姿をお伝えします。
(以下は2021年6月にNewsPicksで公開した記事です。)


「優れた発想と強い覚悟さえあれば、会社はお金を出します」

新規事業創出プロジェクト「Hassojitz(発想×双日)」についてそう断言するのは、総合商社である双日の代表取締役社長、藤本昌義氏だ。

2019年に藤本社長発案で発足したこのプロジェクト。貫くのは、新規事業を“絵に描いた餅”で終わらせない、実現にコミットする気概だ。既にパートナー企業と資本業務提携を結び、事業として着々と成長している事例もある。

なぜ双日は、ここまで新規事業創出に本気を出すのか。Hassojitz Project(PJ)2020最終発表会の様子とともに、読み解いていく。

その事業で独立する覚悟はあるか?

「自分のお金を投資してもいい。それくらい面白い“発想”に出会えた発表会でした」

双日出身で、米GEのシニア・バイス・プレジデントやLIXILグループCEOを歴任した藤森義明氏は、自らが審査員を務めたHassojitz PJ 2020最終発表会をこう評価した。

「商社はメーカーとは違って、資産は人だけなんです。『この自社商品を活かさなければ』という制限もないから、言ってしまえば何でもアリ。だからパッションさえあれば、何の枠にもとらわれずに発想を広げられます。

今回の発表会では、既存の枠から、なんなら双日という会社からも飛び出して、自由に考えたアイデアに出会えました。これこそ、商社が新規事業をやる意義だなと」(藤森氏)

Hassojitz PJ

そもそも新規事業創出のHassojitz PJとはどんな制度なのか、説明していこう。

まず社員全員を対象に、ビジネスアイデアを公募。応募した社員本人が、経営陣を前にプレゼンを実施する。

審査を通過した案件に対し、賛同するメンバーを改めて募集した上で、1年かけて事業化の足がかりを作る。進捗報告会を経て、最終的に発表会で審査が行われ、事業化の可否が決まる仕組みだ。

発表会の審査員でもある藤本社長は、本プロジェクトについてこう語る。

「常に社員に問うているのは、『その事業で独立する覚悟はあるか?』ということです。それくらいの覚悟を持ってやってくれるなら、お金は出します。

Hassojitz PJ

成功するかしないかは、本人たちに『会社を辞めてもこの事業がやりたい』と思えるほどのパッションがあるかにかかっている。最終的には失敗したっていいんです。Hassojitz PJのメンバーに求めているのは、そういう気概なのです」(藤本社長)

フェムテックから森、e-sports、CCRCまで

社内公募で集まった88もの事業アイデアから、最終発表までたどりついたのは8チーム。

1年間かけて磨き上げてきた事業の構想を披露し、事業化の命運が分かれる発表会が、2021年5月に行われた。そのうち4チームは5月27日、イイノホールで最終プレゼンを実施した。

ではここから、4チームの発表を見ていこう。

審査員は5名。早稲田大学ビジネススクール教授・入山章栄氏、元双日(当時:日商岩井)、元米GEシニア・バイス・プレジデントで、現在は数々の社外取締役等を兼任、2021年4月に発足した双日アルムナイ会長の藤森義明氏、チップワンストップ社長及び双日アルムナイ副会長・高乗正行氏。双日から藤本昌義社長、田中精一副社長だ。

Team1Design Your 100-year of Life ~双日×CCRC~

Team1
Team1

最初のプレゼンテーションは、CCRC事業チーム。CCRCとは1970年代に米国で生まれた高齢者向け住居で、現在全米では2000か所で70万人が入居し、市場規模は4兆円にも上る。

アクティブシニアを対象に、フレイル(注1)対策を通じて健康寿命を延ばす、新しいライフスタイルの提供を提案。住居・医療・モビリティ・食・就労等のソリューションを提供する事業モデルを構築すると語った。

審査員からは、成長が見込まれる市場への着眼点を評価する意見が出た一方で、厳しい意見も挙げられた。

(注1)フレイル:健康状態から要介護状態へ移行する途中の身体・認知機能に低下が見られる状態

Team1 Design Your 100-year of Life ~双日×CCRC~
トップバッターのCCRCチーム。張り詰めた空気の中、審査員からの鋭い質問に回答していく。

「単なる不動産ビジネスじゃないかという見方もできるよね。どう付加価値を付けられるのでしょうか。

さらに高齢者は、ただ優雅に楽に過ごせれば本当に幸せなのかという疑問もある。余生もやりがいを持って働き続けたい人もいるはずです。利用者の具体的なイメージをより膨らませた方がいいと思います」(藤本社長)

プレゼンターは、「高齢者が大学で講師を務める」「高齢者が企業でアドバイザーになる」といった、マッチングを行うことも考えられると回答。すでに地方自治体などと具体的に話をしており、パートナーと提携することで様々なニーズに対応していきたいと話した。

Team2e-sportsビジネスから始める全国民活躍社会の実現

Team2
Team2

年々盛り上がりを増すe-sports。本チームは、e-sportsが業界として未成熟なため、横断的なビジネスを行う事業者がいないことに目をつけた。

双日の既存パートナーとe-sports市場を繋げることで、双方に価値を提供するとともに、市場規模のパイを大きくできると熱を込めた。最後にはプレゼンターから、e-sports事業のチーム組成を、藤本社長に直談判するシーンもあった。

Team2 e-sportsビジネスから始める全国民活躍社会の実現
プレゼンターは、プロ並みの腕を持つというe-sportsプレーヤー。「熱意は誰にも負けません」とプレゼンを締めくくった。

入山氏からは、「e-sports×双日」という異色の組み合わせに関して、質問が投げかけられた。

「e-sportsは間違いなく伸びる市場です。ただそこに双日が参入する理由は何でしょう?どちらかと言うと、双日が弱い領域ではないでしょうか」(入山氏)

プレゼンターは、双日の強みとして、おびただしい数のパートナー企業を持つ点に言及。その中には、e-sports業界に参入することでメリットを得られる企業も多いとし、すでに双日の提案でe-sports業界への進出を遂げ、評価を受けている事例もあると紹介した。

一方で藤森氏からは、全く逆の意見が出された。

『なぜ双日がやるのか』ばかりでは常識的なものしか生まれない。このようなアイデアが出てきてこそ、発想×双日の成果。むしろ、もっと常識から飛び出たアイデアを見てみたい」(藤森氏)

Team3Femtech for Female, father, family and firm.

Team3
Team3

女性がライフイベントと仕事を両立することは、簡単ではない。35歳前後を境に妊娠が難しくなっていくが、知識や周りの理解が不十分なままキャリアを優先し、妊娠を諦めたり、不妊治療の負担を強いられたりする例も多いという。

本チームはプレコンセプションケア(注2)から始まる妊活サポートを切り口として、働く女性社員を対象としたB to B to Employeeのサービスを提供する。

具体的なサービス内容は、社員に対する妊娠に関するリテラシー教育の実施や、妊娠可能性を測定できる検査キットによる健康管理及び、行動変容のサポートだ。

検査キットで客観的に自身の体の状態を知った上で、キャリアデザインについて相談できるサービスも提供したいと熱く語った。

(注2)プレコンセプションケアとは、いつか赤ちゃんを授かるかもしれないということを想定して、自分のからだや生活習慣をよりよくしていくことを意味する(出典:大阪府立大学プレコンセプションケアLab.)

Team3 Femtech for Female, father, family and firm.
チームを率いたリーダーは、2020年入社の新入社員。自らも仕事と家庭を両立するビジネスパーソンになりたいと考え、本事業を提案したという。

審査員からは、「企業の人事部への働きかけが有効ではないか」「メーカーが独自に検査キットを開発するのではなく、双日が入る意義は何か」といったアドバイスや質問が挙げられた。

藤本社長からは、自社の女性活躍に対する思いもこぼれた。

「優秀な女性社員に双日を辞められてしまうことは、私自身がもっとも恐れていることです。妊娠出産をどうサポートするかは、会社としても死活問題。当社も真剣に向き合うべき視点です」(藤本社長)

Team4モリデザイン ~森×Redesign~

Team4
Team4

「高校生のとき『沙漠を緑に』という本に感動してから、森林の勉強をするために大学へ行き、就活では木材事業が強かった双日へ入社しました。

会社に入って19年目。いま一度、入社時の森を生き返らせたいという思いを実現するため、今日ここに立っています」

発案者のこの挨拶から始まった、本チームのプレゼン。

早生樹事業では、伐採された後に植林がされていない土地へ、成長が速い樹木を植林することを提案。森の再生を掲げた。さらにベンチャー企業とパートナーシップを結び、伐採した木材をチップにし、バイオマス発電所に供給することを提案した。

森ライフスタイル事業では、森林空間を楽しむブースの設置や、森林へアクセスするためのキャンピングカーのリース、最終的には森林空間での体験サービス提供を行う。

この発表について、入山氏からは前向きなコメントが。

「早生樹事業に関しては、僕が決裁権のある立場だったら『この事業早く通せ!』と言いますね。商社のパワーが、新しいテクノロジーを持つベンチャーと合わさるのは、すごく良いやり方だと思います」(入山氏)

一方で森ライフスタイル事業については、ニーズや実現可能性が見えないとの辛口な意見も。発表の仕方をより工夫できたのでは、とのアドバイスもあった。

Team4 モリデザイン ~森×Redesign~
森を意識したお揃いのポロシャツで登壇。

勝っても負けても、チャンスがある

Hassojitz PJ 2020では、藤本社長から贈られる「社長賞」、入山氏から贈られる「知の探索賞」が与えられた。

「知の探索賞」を受賞したのは、森林事業を提案した「モリデザイン~森×Redesign~」チーム。

2つの事業のうち審査員が注目したのは、森林資源復興整備事業(早生樹事業)。持続可能な社会の実現に貢献できる点や、ベンチャー企業と組む新たな可能性が評価された。

そして全88チームの頂点、「社長賞」に選ばれたのは「e-sportsビジネスから始める全国民活躍社会の実現」

勝っても負けても、チャンスがある

これまで双日と関連のなかったe-sports、そしてBtoCのプラットフォーマーとしてのメディア事業という、新領域を開拓する姿勢が評価された。

さらに落選したチームについても、ここで終わりではない。さらに事業構想を練り直し、事業化に向けて挑戦するチャンスはある。また今後アルムナイメンバー(双日の卒業生)から、協業やスポンサーの声がかかる可能性もあるという。

必要なのはトップのコミット

4チームそれぞれが、個性溢れる新規事業を提案した「Hassojitz PJ 2020最終発表会」。発表会を終えての感想を審査員に聞いた。

「正直に言って、この会場に来るまでは、少し懐疑的だったんですよ」

そう語るのは入山氏だ。これまで多くの企業の新規事業創出プロジェクトを見てきたなかで、経営陣がお金を出し渋るなどの要因で、事業化に至らず頓挫するケースも多かったという。

「ですが、今日のHassojitz PJには非常に可能性を感じました。僕がもっとも嬉しかったのは、社長が強くコミットしていること。

双日はトップがちゃんとお金と裁量権を与えて、『失敗してもいいからチャレンジしてこい』と言える。人材づくりの観点からも、この文化は素晴らしいと思いました」(入山氏)

必要なのはトップのコミット

さらに入山氏が着目したのは、様々な部署の現場で活躍する社員からなる、Hassojitz PJのチーム編成だ。
「イノベーションは離れた知と知の組み合わせで起きるので、こういった多様な専門性を持つメンバーでチームを組めるのは、商社最大の強みです。現場の最前線で働く社員が、もっとも鮮度の高いビジネスアイデアを持っていますしね」(入山氏)

双日出身の先輩として、アドバイスを送ったのは藤森氏。

「一般的に、組織はピラミッド型ですよね。要するに、良いアイデアでも下から上に階段を上っていく間に、99.9%が潰されてしまうんですよ。その階段を一切無くしちゃったのが、Hassojitz PJ。自由な発想を許すこの仕組みは、すごく良いと思った。

一方で、プレゼン力はもっと磨いた方がいいですね。投資をするかしないかは、10分程度のプレゼンで決まります。社内発表だからと甘えず、最後のアウトプット方法まで仕上げてきてほしかった」(藤森氏)

藤本社長は、Hassojitz PJの今後の発展をこう語った。

「商社の基本は、必要なもの・人・技術・サービスを、必要なところに届けること。時代が大きく変わるなかで、新規事業創出は不可欠です。その思いをこの数年間本気で社員に伝え続け、形になり始めている。それを実感できて、今日は素直に嬉しかったですね。

ですが新規事業は続けることにこそ、意味がある。これからも社員がパッションを持ち続けられる環境を、責任を持って作っていきます」(藤本社長)

新規事業の創り方に正解はなく、どの企業も試行錯誤を繰り返している。Hassojitz PJは、成功モデルの一つとなるのか。今後の展開に、期待が高まっている。

制作:NewsPicks Brand Design
執筆:シンドウサクラ 撮影:後藤渉 デザイン:田中貴恵美 編集:金井明日香





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(所属組織、役職名等は本記事掲載当時のものです)
2021年7月掲載

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