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「商社パーソンとして、気が利く人間になってほしい」
双日が20歳を迎えた節目、そして私の社長就任初日でもあった2024年4月1日の入社式で、当社の仲間として新たに加わってくれた社員たちに伝えた言葉です。
私たち総合商社にとって一番大切な経営資源は人です。近年のAI技術の発展は目を見張るものがありますが、最終的に判断を下し、実行に移すのは人であり、事業活動の全てにおいて人が起点となります。もちろん、ほかの業態においても同じことがいえます。しかし、総合商社は特定の事業に依存するのではなく、常に新たな事業を創造し続けていかなくてはなりません。そのため、常に社会情勢や世の中が必要としていることを先読みし、複数の選択肢を持ちながら、先回りして手を打っていくことが極めて重要です。新しい価値を生み出すために、常に相手の期待値を超えていく。だからこそ、一人ひとりが自律的に思考し、行動できる人材であってほしい。そうした「人」に対する想いを、分かりやすく伝えようと考え選んだのが、冒頭の入社式での言葉でした。
先読み、先回りが、当社の価値創造における重要な源泉であると実感したのは、化学本部で本部長を務めた時の経験です。私が米国の事業会社から本社の化学本部に戻ってきた当時、全社的に事業投資を推進する方針が掲げられながらも、化学本部ではほとんど実行できておらず、従来型のトレーディングがメインになっているのが実態でした。なぜなら、商材は星の数ほどあり、それに合わせて商流も細分化された業界であるため、仕入れ先や売り先とのネットワークさえ確保しておけば、お客様から指示された通りの商材を納入するお伺い営業で、ある程度の収益を上げることができたからです。しかし、それでは、私たちが提供できる機能は先細りしていく一方となり、ある時需要がなくなったり、供給が止まったりしてしまうと打つ手がなくなってしまいます。そのような危機感から、私は「指示された商材を納入するだけではなく、お客様のために何か工夫できる余地はないかを真剣に考えてほしい」と本部全体に呼びかけ、時には営業担当者と膝詰めの議論をし、一緒に悩み、考えました。地道な取り組みではありましたが、例えば、投資計画をはじめとするお客様の情報をもとに、今後必要になる商材の種類や量といった変化を先読みして提案することで、お客様にスピーディーかつ安定的に商材を提供できるようになるなど、徐々に成果が表れるようになりました。
このような先読み、先回りして価値提供できる人材を育てるために、私が普段から大切にしてきたのが、自律的思考を持ってもらうこと、言い換えると、考える癖をつけてもらうことです。自ら先回りして、さまざまなシナリオに対する打ち手を複数用意しておくことで、自らが発揮できる機能も見出せます。この思考方法を身につけてもらうためには現場での訓練が必要で、座学で一朝一夕に身につくものではありません。先輩社員や課長、部長などのミドルマネジメント、本部長、それぞれのレベルからボトムアップで取り組んでいく必要があります。先ほどの化学本部の話に戻すと、当時はコロナ禍で国内外の移動が制限されていたこともあり、社内コミュニケーションに割ける時間が多くあったことを利用して、本部のメンバー全員と定期的に1on1で話す機会を持ちました。各課長が実施している1on1の状況を、部長は週1回の課長との1on1で把握し、私は本部長として2週間に一度はどのような1on1を実施しているのか、部課長に確認しました。考えさせることが目的なので、上司側から答えを出してはならず、考えさせ方もいろいろあります。上司がすぐに口を出すのではなく5秒は待つ、思考を整理するためにもう一度同じ話を繰り返させるなど、ミドルマネジメント層にフィードバックしながら2年間実施しました。その中で、自ら考えさせ、気づきを与えるコミュニケーションを実施すると同時に、ミドルマネジメント層にも、部下とのコミュニケーションにおいて自律的な思考を促すよう言葉を尽くし、理解を求めました。一人ひとりと向き合い、意識改革を進めてきたことで、受け身のお伺い営業から、先回りして自発的に提案を行いそれに見合った収益をいただくという発想へ転換し、結果として、化学事業の収益力が高まっていきました。今後もトップとして、社員一人ひとりが自律的思考を育める環境づくりをリードし、全ての事業活動の起点となる「人」の強化を図っていきます。
「必要なモノ・サービスを必要なところに提供する」という使命。この使命は、当社の創業以来、一貫して変わることのないものであり、100年以上の歳月を越えて脈々と受け継がれてきました。前提となるのは、価値を生み出す機能をどこに見出すか、どのように作っていくか、これを常に考えながら、機能を発揮し続けることです。当社が機能を発揮できる領域で、使命を果たすことが、社会が得る価値と双日が得る価値、この2つの価値の創出につながっていきます。単に仕入れ先と売り先の間に立って横流しのビジネスをしているだけでは、私たちの存在価値はないのです。
当社として価値を生み出せる機能を獲得し、ある事業領域で競争優位を築いたとしても、変化の早い今の時代においては、それが長続きすることはありません。事業と事業の点を有機的につなげ、線、面に広げていったり、バリューチェーン上で事業を拡大し、複合的な価値を創出したりすることで変化を続け、成長基盤を強化していく考えです。従来当社は、トレーディングがビジネスの中心でした。しかし、現在は情報技術の発展やグローバル化によりさまざまなバリューチェーンにおいて中間業種の機能が低下しています。そのため、幅広い産業・マーケットでの知見を活用することで、バリューチェーンの川上や川下へ展開していくことが考えられます。当社は、バリューチェーン上の付加価値の高い領域に積極展開し、自らの事業ポートフォリオを変革し続けながら、価値創造を続けていきます。
2030年の目指す姿「事業や人材を創造し続ける総合商社」に向けた第一歩と位置づけた中期経営計画2023(以下、中計2023)が、2024年3月をもって終了しました。持続的な価値創造へ徹底的にこだわるという強い想いのもと、各種施策を着実に遂行した結果、2期連続で1,000億円を超える当期純利益を上げるなど、全ての定量目標を達成することができました。当社が機能を発揮できない事業の資産入替や、非資源分野への投資の進捗により、収益性の安定化が図れたのも大きな成果です。安定的に当期純利益1,000億円を創出できる基盤が整い、将来の見通しが立てやすくなったと評価しています。また、中計2023で初めて掲げた目標である「PBR1倍超」を達成できたことは大きな成果の一つではありますが、一度達成すれば良いものではありません。1倍超を常態化させ、ガバナンスの強化と経営の透明性向上により資本コストの低減を図ります。そして、成長投資と株主還元のバランスを取りながら成長期待を高めることで、さらに高い水準を見据えていきます。
中期経営計画2026(以下、中計2026)では、当社は次の成長ステージ(Next Stage)へと本格的に踏み出していきます。目指すのは2倍成長です。今般Next Stageの目標として「当期純利益2,000億円、ROE15%、時価総額2兆円」を掲げました。中計2023では長期の具体的な数値目標は提示していませんでしたが、さらなる成長に向けた基盤が整ったことを踏まえ、次なるターゲットとして企業価値の2倍成長を見据えています。中計2026はその達成に向けた準備期間であると同時に、2倍成長を射程圏内に入れるべく、「6,000億円超の投資実行、3ヶ年平均ROE12%超、当期純利益1,200億円超」をはじめとする定量目標を掲げました。「双日らしい成長ストーリー」の実現を通じて、これらの定量目標達成を果たしていきます。
2030年の目指す姿「事業や人材を創造し続ける総合商社」にブレはありません。私自身、これまでも新規事業の構築と人材育成に尽力してきました。中計2026でも成長基盤である事業と、当社の最大の武器・資本である人材を強化していきます。成長基盤においては、既存事業を磨き上げ、稼ぐ力を底上げしながら、総合商社ならではの多数の事業を有機的につなぎ、複合的な価値を創出できる事業・収益の塊を形成していきます。
成長基盤の強化においても、最も重要な要素は「人」の力です。成長の原動力となる人材への投資を積極的に行い、事業創出力と事業経営力を高めていきます。Next Stageへの到達には、現在の本社における約2,500人の頑張りはもちろん、国内外のグループ会社の社員を含めた約2万3,000人のより一層の活躍が不可欠です。そのため、人材育成に引き続き注力するとともに、経営の意思決定に関わるようなポジションへの登用を積極的に進めるなど、一人ひとりが活躍できる機会を増やしていきたいと考えています。
まず取り組む足元の課題は、7つある事業本部それぞれの収益力を高めることです。外部環境の変化により資本コストが高まっている中で、それを上回る収益を上げるべく、低い収益性にとどまっている本部を底上げし、全体として稼ぐ力を高めていくことが中計2023で積み残した課題だと認識しています。
ではどのように収益力を高めていくか。その根底にある考え方が、事業を点から線に、線から面に広げていき塊として大きくしていくことです。中計2023までに、幅広い領域の事業への投資、いわば種まきを行ってきました。中には芽が出て、育ってきているものもあり、これらをさらに大きく育てていく必要があります。ただし、点在している事業を、それぞれ点のまま育てていったとしても、直線的な成長にしかなりません。それぞれの事業を有機的につなげたり、複合的な価値を創ったりしながら塊にする。そうした塊を複数、繰り返し作っていくことで、加速度的な成長を実現することが可能となります。
全体の収益力を高める上で重要なのが、デジタル技術の活用です。中計2026では、DXを戦略的強化領域の一つに加え、“Digital-in-All”(全ての事業にデジタルを)を掲げました。全社的な視点でデジタルをどのように活用できるかを考え抜き、企業価値向上につなげていきます。一方で、デジタル活用による価値創出は簡単ではありません。少し話は飛びますが、当社では2019年からHassojitzプロジェクトという、新規事業創出プロジェクトを行っています。数年前のHassojitzプロジェクトにおいて、当時話題になっていたプラットフォームビジネスを取り入れた案がいくつか上がっていました。しかし、それらの提案の中身は、すでに世の中に存在するプラットフォームとの差別化ができていないものが多く、当社が新規参入しても勝ち筋が見えないものもありました。このような、プラットフォームビジネスという、ある種フレームワークを起点とした発想からは、当社が機能を発揮できる事業の創造は難しいだろうと考えています。起点にすべきは、データの価値です。当社は総合商社としてさまざまな投資や事業経営を行っており、そこから得られるデータは膨大で多岐にわたります。これらデータアセットのどこに、どのような価値があるのか考え、その価値を活かした事業を創造することが、DXの先に描く姿です。当社グループには、ICTソリューションを提供する双日テックイノベーション株式会社*やクラウドコンピューティングサービスの提供などを行うさくらインターネット株式会社をはじめとして、デジタルを活用した変革をリードする組織もあります。グループ内機能の活用や外部との共創も強化することで、デジタルを組み合わせ、新たな事業創出への挑戦を続けます。
DXとともに戦略的強化領域に加えたのがGX(グリーントランスフォーメーション)です。当社は、2050年に向けた長期ビジョン「サステナビリティ チャレンジ」を掲げ、脱炭素社会の実現に向けて取り組んでいます。これは、単に既存事業のCO2排出量を減らしていくだけではなく、時代の変化に合わせたソリューションを創造し、カーボンニュートラル社会の実現と当社の収益拡大を目指すものです。なお、新エネルギー・脱炭素の領域は、既存の事業本部の枠組みで対応できるものではなく、さまざまな事業領域における知見やリソースが必要になるため、全社横断で取り組んでいきます。当社としてどのような機能を発揮できるのか、どういった事業が効果的なのかを見極め、まさに事業を創造していかなくてはならない領域であり、先読み、先回りして取り組んでいきます。
水素エネルギーを例に挙げると、採算の取れる生産方法の確立や、安定的な輸送を可能にするサプライチェーンの構築、利用する側の機械設備の対応など、課題はいくつもあります。生産から輸送までのサプライチェーンを整備しても、水素燃料をエネルギーとして利用できなければ意味がありません。そのため、GXを実現していくためには、事業を製造だけ、輸送だけで捉えるのではなく、バリューチェーン全体で考える必要があります。こうした事業の構想から始まり、使えるリソースは何か、そこで機能を発揮する人材をアロケートし、組み立て、パートナーでもあるお客様の課題解決に真摯に向き合い、自ら期待値を超える提案をしていく。誰かがやるのを待って、その枠組みに乗っかろうという発想では、何も実現できません。
このように、新エネルギー・脱炭素の領域では今までにないビジネスモデルを構築していく必要があります。また、当社だけでは到底実現できないため、多様なパートナーを巻き込まなくてはなりません。決して容易なことではありませんが、まさに総合商社の腕の見せどころです。当社の強みであるスピードを発揮することで、新エネルギー・脱炭素の領域で新たなビジネスモデルを早期に確立し、成果を出すことにこだわっていきたいと考えています。
中計2026発表時の説明会において、「双日らしいとは何か、イメージがつかめない」とご指摘をいただきました。そのようなご指摘に対し、なかなか一言では言い表すことができるものではありませんが、「双日らしい成長ストーリー」の例を挙げると、当社が強みを持つベトナムのリテール事業群で実現しつつある形が一つの解であるといえるでしょう。成長市場であるベトナムにおいて、当社が知見を有している領域に集中的に投資を行うことによって、事業を点から線に、線から面に広げ、事業・収益の塊が形成されつつあります。しかし、その成果を、まだまだ定量的にはお示ししきれていないのも事実です。それでは、「双日らしい成長ストーリー」が本当に実現できるのかを、株主・投資家の皆様に説得力を持ってお伝えすることは難しいでしょう。だからこそ、中計2026ではいち早く実績をお示しすることにこだわり、株式市場をはじめとする皆様からの成長期待を醸成していきたいと考えています。そのような決意も込めて、持続的な企業価値向上に向けた「PER向上」を、中計2026の目標の一つとして盛り込みました。
2024年4月、双日は発足20周年を迎えました。振り返るとこの20年の間に、さまざまな事業環境の変化に晒されながらも、規律ある財務マネジメントの維持、外部環境や市況といった変化に対する耐性を高め、成長への種まきを着実に進めてきた結果、当期純利益1,000億円台を達成できるまでに成長し、事業基盤は大きく強化されました。この節目に、社長に就任した私に課された使命は、脈々と受け継がれてきたDNAと、過去から築き上げてきたお客様とのパートナーシップと事業基盤、これらを組み合わせ、次の成長への飛躍に向けたターゲットであるNext Stageへ歩みを着実に進めることです。
社長に就任してから人前で話す機会が段違いに増え、まだまだ大勢の前で話すことに緊張してしまいます。これまでも自分が主管する組織においては自分の言葉を伝えてきましたが、これからはグループ全社員に自分の想いを伝えられる今の立場と責任に、改めて身が引き締まる思いです。
言葉は、ただ発するだけでは意味を成しません。お客様や社員をはじめとした相手にとって、最大公約数というよりも最小公倍数のように、シンプルで分かりやすい言葉であれば正確に伝わります。その結果が、事業と人材の基盤強化につながっていくと考えています。
社長としての私の役割は、「双日らしい成長ストーリー」を実現し、次なるステージへ向かう双日をリードすることであると認識しています。株主・投資家をはじめとする全てのステークホルダーの皆様との対話機会を多く持ち、「双日らしい成長ストーリー」の実現に向けて、新たな道に新しい価値を生み出すべく歩き始めた双日にご期待いただけるよう、尽力する所存です。ステークホルダーの皆様には、今後とも変わらぬご理解とご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。
2024年7月
代表取締役 社長COO 植村 幸祐
※所属組織、役職名等は2024年7月時点です
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