双日株式会社

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第三者意見

藤井 敏彦 氏

経済産業研究所コンサルティングフェロー
藤井 敏彦 氏

1.統合報告の野心的構成
本年度の双日グループの統合報告書は独立したCSRセクションを持たない日本企業の統合報告書の数少ない一つである(筆者に関する限り他の例を知らない)。これはCSRを長期的成長戦略のための必須の要素と考える双日グループの考え方の反映であろう。CSRを経営の周辺的付加物と考える企業が残念ながらまだ必ずしも少なくない中でこのような挑戦を歓迎したい。また、統合報告書の主なオーディエンスは長期的投資家であることが世界的コンセンサスとなっていることを考えれば合理的なアプローチでもある。

もちろん、環境や調達等に関する詳細な取組み成果の報告・関連情報は同グループのホームページに記載されており、あらゆるステークホルダーの情報ニーズに応えることへの努力も同時に払われていることは言うまでもない。

このような背景に基づき、本年度はまず野心的構成をとった統合報告書についてコメントし、その上で、ホームページで開示されている情報について意見を述べたい。

2.長期的将来性に関するビジョンの深化
双日グループの価値創造モデルは(1)人財力向上、(2)スピード、(3)社会的価値と企業価値の「2つの価値」の循環的相互実現の3つを柱としている。このような価値創造モデルの概念化は個別事業戦略のメタ戦略として有効である。また、とりわけ「2つの価値」の考え方は他社モデルとの差別化する大きな特徴である。

(「2つの価値」)
長期的成長の一つの前提は社会から必要とされることにある。その観点から「2つの価値」の創造の実際について紹介した事例はいずれも読者の関心を引きつけるだろう。ただ、ここでひとつ注文をつけたい。一般論として成功した事業を事後的に見れば「2つの価値」は必然的に実現している。社会的価値を付随しない営利事業はないからである。他方、「2つの価値」は先験的に常に成り立つものではない。社会的価値は創造できてもビジネスとしては成算が立たないという潜在的事業は無数にある。多くの社会課題は、それを解決しても十分な対価を得られないから事業の対象とならず、結果としていつまでも課題のまま留まる。伝えるべきはいかに「2つの価値」の創出にあたりどのような困難を克服したのか、とりわけ社会的課題の解決をビジネスとして成り立たせるためにどのような努力をし、工夫をしたのか、結果ではなくプロセスにこそある。このプロセスで培われた経験のスパイラル的な拡大が長期的成長の原動力になるのである。来年度の報告書では可能な範囲で「2つの価値」創造に関するコンピタンシーをより掘り下げて語って欲しい。このことは各本部の事業に関する「提供価値」、「機会」、「リスク」の説明にも当てはまる。長期投資家にとってより興味深い情報となるだろう。

(「多様な人財力」、「スピード」、「信頼」)
中期経営計画の説明において佐藤社長は「多様な人財力」、「スピード」そして「信頼」を強調されている。まったく同感である。いずれもその重要性につき強調してしすぎることはない。そしてこの3つは一体のものである。人財の多様性の向上が経営力向上につながるにはひとつの前提がある。理念が徹底的に共有されているということである。この理念とは企業の進む方向についての信頼につながるものである。スピードもしかりである。社内における理念の共有及び社外との強い信頼関係があってはじめて迅速な決定・行動が可能になる。この三者は一体となり、一体となることによってはじめて中期経営計画の実現に資するものであり、成長戦略の基盤を提供するものである。

なお、人材基盤について、ダイバーシティの推進につき国内外の社員及び女性社員を中心に注力されている姿は心強い。国籍、性別等人の属性の如何にかかわらず働きやすい会社であることは成長の必要条件である。同時に既述のとおり理念や信頼の強い共有もあわせて取り組まれる必要がある。

3.CSRへの取組みの前進と課題
(CSR調達)
昨年9月に木材調達方針が決定されたこと、また方針策定にあたってWWFジャパンと協力したことを高く評価したい。国際的NGOとの連携は調達方針が「信頼」されるために大変有効である。調達は今後ともCSR上の最重要課題の一つで有り続ける。それは、人権や環境の状況が多様な世界をビジネスのバリューチェーンが覆うことの必然的結果である。そのような観点からも、CSR調達に関する研修を人事制度に組み込み組織単位のものとし会社のあらゆる部署にいる社員が共通の問題意識を持つようにしたことも目立たないかもしれないが評価に価する一歩であった。
なお、来年度以降、木材のみならず他の分野においても同様の取り組みが期待されることは言うまでも無い。

(環境)
環境に関するデータ開示は基本的に昨年を踏襲している。他方、COP21の合意成立を受け、地球温暖化防止への取り組みは今後国際的に重要度が高まることは確実である。このような流れの中で環境への取り組みの強化は来年度に向けた課題となるであろう。

以上、本年度の双日グループの統合報告書及びHP上のCSR情報についてコメントを述べた。双日グループの長期的成長が同時に世界の人々により大きな幸福をもたらすものとなる、双日グループのこのような決意に強い敬意を払い、また、そのための一層の努力を期待して結語としたい。

第三者意見をいただいて

「統合報告書2015」に対して、貴重なご意見をいただき誠にありがとうございます。
本年度は当社グループの価値創造を解りやすくステークホルダーに伝えることを意識し、内容を見直し名称も「統合報告書」と改めました。

当社はCSRを経営課題の一つと捉え、事業を通じて「どのように企業理念の実現に向けて実践していくか」をグループ内外に解りやすく伝えられるよう、本年度の統合報告では、当社グループの全ての活動に共通する価値創造のプロセスを「価値創造モデル」として整理し、CSRの要素を統合報告全体に反映する構成としました。

ご指摘いただいたように「2つの価値」については、事業を事後的にみて社会的価値を伝えるに留まらず、9つの事業分野それぞれにおいて「2つの価値」創造に至るまでの一連のプロセスにストーリー性をもって整理・開示する工夫を凝らし、当社の将来性・成長性をステークホルダーの皆様にお伝えできるよう更なる改善を重ねて参ります。

ご評価いただいた木材調達方針については、持続可能性の追求の観点と事業競争力の追求の両方の観点から、状況を確認し、多様な視点をもつステークホルダーと対話を行い、経営として方針を策定し推進することを決定しました。今後も社会と双日にとって重要な課題について、必要な対話を行っていきます。
また、ご意見でも言及されたCSR調達や、地球温暖化防止への取り組みも、双日と社会にとって重要な課題であると認識し、引き続き取り組みと、開示を充実させます。

次回の統合報告書の発刊に向けては、長期投資家を含むステークホルダーが期待する長期成長戦略のための必須の要素として、CSR/ESGに関わる取り組み方針の検討を行っています。それらの要素の開示およびどう長期成長戦略に寄与するのかといった観点を含め、ステークホルダーの皆様に解りやすくお伝えしていきます。

企業理念「双日グループは、誠実な心で世界を結び、新たな価値と豊かな未来を創造します」の下、「多様な人材、スピード、信頼」が三位一体となって企業理念を実践していく所存です。

以上

 

藤本 昌義
CSR委員会 委員長
専務執行役員

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