双日株式会社

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第三者意見

藤井 敏彦 氏

埼玉大学大学院経済科学研究科客員教授
藤井 敏彦 氏

佐藤社長はCSR推進の重要点として「働くことのできる経営環境」が「何によってもたらされているか」を認識することを指摘する。慧眼である。さらに分け入れば、CSRには2つの側面がある。企業活動が潜在的に社会や環境に与える悪影響を認識し、可能な限り最小にすることである。もう一つはより積極的に社会的課題の解決に貢献するという側面である。この双方への取り組みがよろしきを得て「働くことのできる経営環境」の基礎ができる。今年の双日のCSRの取り組みをこの両方の側面から評価したい。

「悪影響を及ぼさない」という点では、とりわけ鉱山開発及びサプライチェーンが問題となる。鉱山開発については豪州の露天掘り炭鉱における取組が紹介されている。双日が参加する他の開発案件についても潜在的問題点と取組が開示されることが望ましい。サプライチェーンについては、本年度もアンケートと訪問が実施され結果も報告されているが、開示の程度を含めまだ改善の余地がある。来年度の課題としてコミュニケーション方法の多様化、現場での取組の強化が謳われているところであり、その具体化に期待したい。

次に社会課題の積極的に解決への取組についてである。事業遂行に社会課題解決方法が内包されていることが理想である。その観点からはグリーンケミカル事業への取り組みは注目に値する。環境にやさしい製品の市場をいかに創造・拡大するか、双日の英知を絞ってほしい。また、ベトナム及びモザンビークでの植林・木材チップ生産事業、サブサハラにおける海水淡水化事業も同様に環境課題、社会課題の解決とビジネスの融合の好例である

今回の報告書のひとつの特徴がグローバル人材戦略に関する詳細な記述であろう。グローバルなリーダーはグローバルな社会を改善することに対する使命感を有する人材である。CSRへの取り組みとグローバル人材育成を引き続き一体として進めてほしい。また、人材多様性についても取組が進展している。女性の監査役就任は確かな前進であるが、同時にシンボリックな動きに終わってしまわないことが大切である。

また、ステークホルダーとの対話について数年来指摘してきているとことであるが、国際的な規模で活動をするNGOとの対話に是非とも乗り出してほしい。NGOと企業は本質的に関心事項を異にする。しかし、だからこそ彼らとの対話は企業にとってどこに避けるべきリスクがあるのか、どこに解決に貢献できる社会課題、環境課題があるのかを知るうえで非常に有益なはずである。

最後に統合報告についてコメントしたい。CSRに関連する課題は拡大、複雑化の一途であり、しがたって企業は社会・環境に関する諸課題につき高度の専門性を備えなければならない。他方、その副産物は、専門化することにより、CSRが、あたかも事業活動とは別個の取り組みにみえてしまうことである。統合報告の要請はここに起因する。CSRは、経営課題として、すべての事業活動のプロセスに溶け込むことで「働くことのできる経営環境」を支え、企業価値を高めるものであり、統合報告はそれを解りやすく伝える取り組みなのである。これは簡単なことではない。本年度の報告書はあきらかに統合報告をより意識した内容となっている。さらに統合の度合いを上げるため、各事業部門の事業報告の中にCSRをより深く溶け込ませる、たとえば化学部門の事業説明の中にバイオケミカルの戦略的価値を明記する、といった試みも一考の価値があるかもしれない。真の統合報告に向けた引き続きの努力に期待したい。

第三者意見をいただいて

「アニュアルレポート2013」発行に際して、双日グループのCSRの取り組みについて貴重なご意見をいただき誠にありがとうございます。

CSRの二つの側面から、ご指摘を頂きました。

一つ目の潜在的な悪影響の最小化については、世界各地で事業を行う企業として、斯様な意識を重視しています。企業活動における環境対応の開示、環境・社会影響評価、サプライチェーンCSRなどに取り組んでいますが、更なる強化が必要と認識し、現在体制の強化を図っています。今後、開示についても充実させていきます。

二つ目の社会的課題解決への貢献については、双日グループが、従来世界の各地域社会が必要とするものを、地域のパートナーと共に事業化していることから、事業が社会的な課題解決に直結している事も多くあります。これらの事業については、今後その多面的な価値を統合報告にてわかりやすくお伝えしていきたいと思います。

近年、法規制以上の社会・環境への配慮が求められることも少なくありません。ご指摘の、国際的に活動するNGOなどの専門家との対話についても、企業活動に活かすポイントを理解するためにも、検討を進めていきたいと考えています。

双日グループの最大の資産、CSR推進の源泉は社員一人ひとりです。激変する事業環境において、企業理念にある「新たな豊かさ」を築くためには、多様な価値観をもつ世界中のパートナーと共に新たな価値を創造していく必要があります。それには、日本から世界を見るだけでなく、世界の各地から世界を見る視点を、社員一人ひとりがもつことが重要であり、そのような視点を育てる人材育成を引き続き充実させていきます。

社長の佐藤の言葉である「働くことのできる経営環境が何によってもたらさせているか」という視点を大切にし、企業理念の実現に向け、引き続き取り組んでまいります。

花井 正志 CSR委員会 委員長 執行役員

谷口 真一
CSR委員会 委員長
副社長執行役員

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