第三者意見

経済産業研究所コンサルティングフェロー
埼玉大学大学院経済科学研究科客員教授
藤井 敏彦 氏
本年のレポートにおいて加瀬社長は、中期経営計画『Shine 2011』における資源事業の拡充や環境・新エネルギーへの取り組みが資源枯渇や貧困問題といった社会的諸課題と深く関係している、との正鵠を得た指摘をしている。双日グループは、事業活動を通じて国際社会が直面する諸問題の改善に貢献ができる立場にある。本年、双日グループはCSR重点取り組みテーマを選定することによって、そのような立場を一層活かす決意を明確にしている。以下、選定された4つのテーマに沿って本年のレポートについて論評し、加えて今後期待される取り組みについて意見を述べたい。
サプライチェーンにおけるCSRの推進
「サプライチェーンCSR行動指針」の策定を有意義かつ必要な第一歩として評価したい。双日グループは、多様な製品のグローバルなサプライチェーンの川上から川下まで様々な段階に位置している。このことは社会的責任あるサプライチェーンの構築にあたっての大きな挑戦であると同時に、双日グループの取り組みが大きな波及効果を有することを意味する。これから実践の段階に入るにあたり3点を指摘したい。まず、継続的対話を通じてサプライヤーと共通の理解を形成するとともに、サプライヤーの労働・環境に関する現状を把握することの重要性である。次に、取り組み状況の情報を開示することの必要性である。最後に、コンティンジェンシープランの必要性である。指針への遵守がいかに徹底されていたとしても問題は起こり得る。不慮の事態の際の対応にこそ、企業の社会的責任の意識が直接的に表現される。
気候変動防止に貢献する事業の推進
紹介されている「太陽光関連事業」バリューチェーン、電力の未来を支える「蓄電池」の事例は、いずれも興味深く読者の関心を呼ぶであろう。他方、事業そのものは定義的になにがしかの社会的有用性を持つことも事実である。CSRの重要な要請は、双日グループのサプライチェーンに関する取り組みに示されているとおり、社会、環境への配慮をビジネスの方法の革新につなげることにある。気候変動防止への貢献についても、事業方法の変革という観点も含めれば、双日グループの気候変動防止へのコミットメントがより明確に伝わるだろう。
途上国、新興国の発展に寄与する事業の推進
本レポートの特集にある「その国の発展こそが、目指すゴール」は、ビジネス相手国の公共的課題解決に取り組むことが、ひいては双日グループのビジネスの成長にもつながる、Win-Winの関係を読者に伝えることに成功している。とりわけ、ベトナムで取り組む「新しい植林事業」は、経済的インセンティブを組み入れた新しいタイプの地域社会貢献事業として注目したい。
社員一人ひとりが能力を発揮できる制度・環境の整備
グローバル人材戦略などの重要な取り組みが紹介されており、評価できる内容である。今後、社会的責任ある人材施策をさらに進める上で、キーパフォーマンスインディケーターの設定とその達成状況の公開は有効な方策となろう。
以上、重点取り組みテーマに沿って見解を述べた。ISO26000が本年末に発効することが予定されているなど、企業に対する社会、人権、環境上の課題に関する国際社会の期待は継続的に拡大し高まっている。本年のレポートが指し示した正しい方向性に沿って、今後双日グループのCSRへの取り組みがさらに深化し、国際社会の諸課題の解決に大きな貢献をなすことを期待したい。
第三者意見をいただいて
「アニュアルレポート2010」発行に際して、双日グループのCSRの取り組みについて貴重なご提言をいただき誠にありがとうございます。
「双日グループは、事業活動を通じて国際社会が直面する諸問題の改善に貢献ができる立場にある」とのご理解には、改めて責任の重さを感じる次第です。重点取り組みテーマに沿っていただいたそれぞれのご指摘に共通するものは、様々な事業に取り組む双日グループにとって、個々の行動指針を明確にするのみならず、企業の社会的責任の意識が直接的に表現される事象に対し、ビジネスの方法の革新も含め適切に、具体的に対応していくことが、CSRを推進させることである、とのご指摘だと受け止めます。
また最後に、企業に対する国際社会の期待の高まりと当社グループへの期待についても言及いただきました。双日グループ役職員一人ひとりが社会を意識して日々の業務に取り組み、そして、国際社会の諸課題解決に貢献し続ける双日グループであるために、今後もCSRの取り組みの深化に努めてまいります。
谷口 真一
CSR委員会 委員長 専務執行役員