化学工業への想い

「他国に先んじ、一層進歩するものの輸出を計らねばならぬ」

岩井勝次郎は、昭和10(1935)年8月(勝次郎が亡くなる約4か月ほど前)に、関西ペイントの社内報に「化学工業日本の確立」と題して、独創的な新技術開発、国際分業の促進などに努め、他に先じて輸出拡大をはかるように求め、化学工業の重要性に着目し、世界一の座に到達するため国をあげて邁進すべきだと意欲的な抱負を述べた。


「今後の我国としてはいかなる方針を以て生産並びに貿易に当るかといへば、日本の国情として資源を海外に求めてこれを加工し、廉価優良品を輸出することは永久不変の国是であることは言ふ迄もないが、工業の進歩は独り我国のみでなく世界の趨勢であって、未開後進国も容易な工業から漸次時給自足を実現しつつある。


依って十年一日の如く同じ製品を製造してゐても前途は息詰まることが明らかである。だから今日の工業家にしても貿易商にしても


一、変った優秀な製品の製作、販売を考へる
二、どんなものを出したら最もよく売れるか
三、どんな方面に出したらよく売れるか


以上の三点に就ては日夜考えないものはない。依って今後の輸出品としては、常に他国に先んじ、後進国の生産するものは見捨てて一層進歩せるものを生産し、輸出を計らねばならぬのである。それに合致するものは化学工業と精密工業である。


化学工業は今日迄の研究を以てしても実に多岐に亘り、猶今後の研究発見は停止するところを知らない。我国に於ても学校其他研究機関は揃ってゐるが、更にこれを充実し、研究を続けて発明発見に努め、直ちにこれを生産に移して輸出をすれば常に他国に先んじ、市場は忽ちこれを消化することになる。実に化学工業の前途こそ計り得ざる発展性を有ってゐるのである。(中略)


化学工業の世界最高位置を獲得するには如何にすればよいか、宜しく官民の大なる関心を喚起して最良の国策を確立し、これに邁進すべきである。」


  • 岩井本家を散策する岩井勝次郎