岩井勝次郎の経営哲学①

勝次郎の訓示により反動不況を乗り切る

大正8(1919)年に第一次世界大戦が終了すると、岩井勝次郎は反動不況を予測し、訓示を制定。これは勝次郎の卓越した企業家精神をもとに、事業の永遠の発展と貿易商として進むべき大道を明らかにしたもので、その精神は現在の最勝会企業にも語り継がれている。


家訓では冒頭に、幹部社員は時勢へのゆたかな先見性をもち、社員に対して明快で統一的な仕事の方向づけをするとともに、組織の上下左右に風通しが良いコミュニケーションをはかることの重要性を示している。そしてビジネスは自社本意ではなく、まず取引先の満足を考え、広い視野でマーケットを志向することを求めた。常に社員や資金など経営資源と営業展開とのバランスに心がけ、思いがけない恐慌にも動じない態勢を堅持しなければならないとし、かつ「狭き深き」を主眼とし、重点主義の基本を示した。また投機の禁止、登用の公平性、書類の整備などを説いている。そして最後に、会社にとってプラスになることは上下を考えず意見を具申せよと結んでいる。


[訓示]
・幹部は各社員に対し、時勢の趨向を指示し、統一的の方針を執る事に注意すると共に、 意思の疎通を怠るべからず。
・商売は自己のみに非らずして、相手方と相互たる事を忘れるべからず。
・我々貿易商は、殊に人と資金と商売との均衡に注意するは勿論、恐慌の場合に対する 準備を怠るべからず。
・商売を為すが為の危険範囲は、止むを得ざるも、利益を目的とする投機は、断じて之を為すべからず。
・我営業の方針は、狭く深きを主眼とし、広く浅きを避けざるべからず。
・社員の任用は、人物本位を旨とし、情実に流れざる様、常に注意せざるべからず。
・社員は可成的、内外人の区別を為さざる事に注意すべし。
・我々貿易商に於ける通信たるや、恰も人体に於ける血脈と同様にして、もし之を怠る場合には、直ちに意思の疎通を欠き、損失を招く恐あれば、苟も忽にすべからず。
・書類及見本の紛失したる場合には、意外なる差支へ、又は損失を蒙りし実例と乏し からざれば、完全に整理すべし。


本訓示の趣旨に悖り、又は商店の利害に関する事柄は、身分の如何を顧みず、遠慮なく、上役に意見を開陳すべし。


  • 大戦不況に備えた訓示